第32話 未来は誰にも予想できないんで夜露死苦!

「で? こいつどうすんだ?」

 

「逆さ吊りにしてカラスの餌にでもするのが適切ですわ?」

 

 龍翔崎の質問に、物騒な返事をするヴァルトア。

 

「いやいや、ヴァルトアさんそれは流石にグロくないかな? あいつらは目玉から食べるって話だよ?」

 

「フェイター様には何か良い考えがあるのでして?」

 

 困り顔のフェイターに、逆に質問を返すヴァルトア。

 

 眉間にシワを寄せながら唸り出すフェイターの言葉を待たず、次の意見が出始める。

 

「爪を全て剥がして、耳を削いだら治癒魔法をかけるでありんす。 それでまた最初から同じ工程をゆっくりと繰り返すでありんす!」

 

「鬼王、お前も大概だぜ?」

 

 今度はシュペランツェからダメ出しが出た。

 

「根性焼きでいいじゃねえか」

 

 既にこの話し合いに飽きてしまっている龍翔崎がボソリと呟くが、根性焼きの意味を知らない異世界人たちは首を傾げている。

 

 龍翔崎がどう言ったことかを説明すると、全員が声をそろえて『そんなの甘っちょろい!』と否定した。

 

 その後も全身に釘を打っていき死なせた者が負けのゲームだとか、上空に放り投げての超高所バンジーだとか、縄で縛った魔王を馬で引き摺り回すだとかありとあらゆる残酷な案が出たが、誰もしっくりこないようで結局決まらなかった。

 

「うーむ、決まらぬな。 恨みがありすぎて一向に決まらん! いっそのこと治癒魔法をかけながら全部やってしまうのはどうかの!」

 

 ラディレンの最も残酷な意見に、ドン引きする一同。

 

 現在、魔王は全身を拘束され、龍翔崎たちに囲まれながらどう言った仕返しをするかで話し合っている光景を、死んだ魚のような目で聞いている。

 

 粉々になった魔王城の瓦礫の上で、この話し合いは二十分に渡り繰り広げられているのだ。

 

 抵抗を諦め、もはや干からびたネズミのようになっている魔王を眺めていた鳳凰院が、何か思いついたようにポンと手を打った。

 

「なら、ドラ子。 こいつの血を吸って記憶をうまく操作してしまえ。 そして一生俺たちのペットにしてやるのだ」

 

 全員が名案だとばかりに目を輝かせる。

 

「最高の仕打ちですわね。 あの憎たらしい妃にも同じ目に合わせてやりたかったですわ!」

 

「ディ、ディーフェル様が怒って頭を踏み潰しちゃったから、もう無理よ?」

 

 ヴァルトアが残念そうな顔をし始め、フラウが呆れながら肩に手を置く。

 

 すると鬼王は眉尻を下げながら口を窄ませた。

 

「我慢できなかったでありんす。 こいつも今すぐ殺してしまいたいでありんすが、じわじわと痛めつけたい気持ちもありんすね。 死んだら終わりかもしれないなんしが、生き恥をさらし続けるのもまた最高の罰でありんす」

 

 全員が残酷な笑みを浮かべ、身動きが取れない魔王ににじり寄る。

 

 結局記憶を消す前に、全員全力で蹴ったり殴ったりはしたが、ヴァルトアが記憶をいじった魔王は首輪をつけられ下僕のように生きていく事となった。

 

 

 卍

 魔王城攻略戦から数日が経ち、魔王城があった場所に真っ白な城が再建されていた。

 

 建築は三分の一程度まで進み、簡易的な玉座の間に堂々と座りながら鳳凰院が茶煙草を吸っている。

 

 優雅に茶煙草を吸っている鳳凰院の元に、嬉しそうに頬を赤らめながら駆け寄っていくフラウ。

 

「ほーおーいん君! 今日はなんの会議をするの?」

 

「あ? とりあえずこの大陸の気候と地形を調べさせてるからそれが終わるまではなんとも言えん」

 

 現在、魔王が支配していた領土は鬼王の領土と統合され、結果的に見れば鬼王が一気に勢力を増す形になったのだが、鬼王はすぐに王座から降りると宣言したのだ。

 

 理由は次のように述べている。

 

 『あっちはフラウの下に着くでありんす。 あっちは大陸統一なんてものに興味ないでありんすからね?』

 

 この宣言にクリーク大陸の王たちは激震したが、魔王が統一していた領土をいち早く我が物にしようとする者は現れなかった。

 

 理由は簡単、新たな王が誕生してしまったのだ。

 

「さてさて、この俺様が新たな王となり、新星永遠焔鳥フェニックスを設立したわけだが、俺は何王になるんだ?」

 

 鳳凰院が魔王と鬼王の領土を掌握し、フラウは彼についていくと宣言した。

 

 これに伴い鬼王やヴァルトアも鳳凰院の下で戦うこととなった。

 

 鬼王やヴァルトアは『あっちは龍翔崎様の方がかっこいいと思うでありんす。 正々堂々戦う殿方は素敵でありんすからね。』とか『龍翔崎様の血の方が美味しそうですわ。 どうしてフラウはこのいけすかない男を好いているのかしら?』などと文句を言っていたが、結局はフラウが鳳凰院についていくと言い張ったため、二人も鳳凰院についたのだ。

 

 しかしこの事態を良く思わなかった獣王が、一度大軍を率いて戦を仕掛けたが、耳を疑うほどの大敗を期した。

 

 三万の兵が、五千の兵相手に丸ごと返り討ちにあったのだ。

 

 鳳凰院の策にまんまとはまり、獣王軍は六倍近くの兵力差がありながら手も足も出なかった。

 

 この戦いの様子を知った他の王たちは現在、新たな王の情報収集に徹してしまっている。

 

 現在は簡易的な王座の間で、鳳凰院の新たな王としての名前を検討している最中だ。

 

「茶煙草ばっかり吸っておられるから、茶王でいいんじゃありませんの?」

 

「ドラ子。 てめえは今日、角太郎に餌やりな」

 

 悲鳴を上げながら頭を抱えるヴァルトア。

 

 ちなみに角太郎とは魔王がペットになった際につけられた名前だ。

 

 ヴァルトアの模倣能力で記憶を改ざんされ、魔王は自分を犬だと思い込まされた。

 

 現在は番犬として、再建中の王城入り口に繋がれながらわんわん吠えている。 もちろん、二足歩行はできないため無理やり四足歩行で移動しているし、基本的にゼーハー吐息を漏らしながらべろをダラダラ垂らしている。

 

 本物の犬なら可愛らしいかもしれないが、人形の男がやっているため普通にやばいやつにしか見えない。

 

「茶煙草でいくなら煙王なんかもいいんじゃないかな? ほーおーいん君はいつも凛としてて掴みどころないから!」

 

「二点だこのポンコツ。 ちなみに勘違いすんなよ? 百点満点中の二点だからな?」

 

 ひどいよぉ! などと言って猫撫で声で泣き始めるフラウ。

 

 そんなフラウの頭を撫でながら、鼻の下を伸ばしている鬼王が口を開いた。

 

「茶煙草はお茶の葉でありんすから、葉王でいいと思うでありんす」

 

 鬼王の一言を聞き、鳳凰院は眉をピクリと動かした。

 

「は王………なるほど、『覇王』か。 名案だ親バカ、ポン子からの肩たたき券をくれてやる」

 

 ガッツポーズをしながら飛び上がる鬼王を横目に見つつ、鳳凰院はニヤリと口角を上げた。

 

「さて龍翔崎、もたもたしてっと置いてっちまうぜ? 俺たちの勝負はまだ決着ついてねえんだからな」

 

 

 卍

 聖王の城でかくまわれていた龍翔崎の下に、ラディレンがテクテクと走り寄っていく。

 

「龍翔崎様! 大変なのじゃ!」

 

 走り寄るラディレンの両脇を抱え、勢いよく頭上に持ち上げる龍翔崎。

 

「おお! どうしたんだラディレン! なんか悪いニュースか?」

 

 高い高いをされたラディレンはキャッキャと嬉しそうに笑っている。 ちなみにラディレンは龍角族なので二百十一才だ。

 

 子供のようにラディレンを持ち上げる龍翔崎に、シャルフシュはひきつった顔を向けた。

 

「もう赤い人、完全にパパじゃん」

 

「うっせーシャルフシュ! 羨ましいならてめえもしてやろうか?」

 

 まさかの返答に、頬を染めながらそそくさと去っていくシャルフシュ。

 

 その様子を見てシュペランツェは腹を抱えて笑った。 そしてシャルフシュにぶん殴られていた。

 

 魔王城攻略戦が終わった後、龍翔崎はラディレンやフェイターたちと共に聖王の城に向かった。

 

 事情を知らなかったとはいえ、聖王の邪魔をしてしまった龍翔崎は謝罪するために聖王に会いに向かったのだ。

 

 だがその時、人間族の王であるはずの聖王は、龍翔崎の謝罪を受けるより先に、深々と頭を下げた。

 

「息子と娘を救っていただき、本当にありがとうございます」

 

 フェイターと同系色の空のような綺麗な髪で、王と呼ぶには若々しく見える容姿をしているが、彼が放つ威厳と覇気は王と呼ぶには不遜がないほどの雰囲気を纏っていた。

 

 聖王から感謝の言葉を受け、その人柄を大いに気に入った龍翔崎はしばらく聖王城に滞在することを決めた。

 

 滞在しながら王宮の兵士やフェイターたちとラディレンを毎日のように鍛えている。

 

 今となっては、ラディレンたち以外の一般兵たちも一騎当千の剛将となるほどまで力をつけている程だ。

 

 そんな平和な日々を送っていた龍翔崎の下に不穏な連絡が入る。

 

「なにぃ! 鳳凰院が魔王と鬼王の領土を支配して、大陸統一を宣言しただとぉ?」

 

 龍翔崎はその報告を受け、慌てて聖王の元に駆けて行った。

 

 いきなり訪ねてきた龍翔崎に、聖王は一瞬は驚きながらも気さくに笑いかけた。

 

「何やら浮かない顔をされていますが、どうかされましたか? 何か私の力になることがあれば、何なりと……」

 

「おい聖王! 俺とタイマン張れや!」

 

「………………はい?」

 

 聖王の座していた玉座の間が、沈黙する。

 

「だからよ、俺とタイマン張って。 負けたら俺の下につけ。 俺も今から大陸統一を目指す王になることを決めた!」

 

 龍翔崎のまさかの一言に、あたふたと慌て出すラディレンたち。

 

「おっおっおっ! 落ち着くのじゃ龍翔崎様! 聖王様に牙を剥くなど、我々も黙って見過ごすことはできん!」

 

「そうですよ龍翔崎さん! 何を血迷ったんです!」

 

 ラディレンとフェイターは全身から汗を吹き出しながら龍翔崎に詰め寄っていく。

 

「うっせえな! これは俺と鳳凰院の、長年にわたる戦いの続きなんだよ。 あいつが王になったって宣言は、俺に対する宣戦布告なんだ」

 

「いやいや、それじゃあ俺らはとばっちりじゃないっすか!」

 

 困ったような声を上げるシュペランツェ。

 

 龍翔崎は何も答えず、ゆっくりと目を閉じ、大きく息を吸い始めた。

 

 全員が尋常じゃない量の冷や汗をかきながら、龍翔崎の一挙手一投足に全神経を注ぐ。

 

 カッと目を見開いた龍翔崎から、熱を感じさせるほどの闘気が溢れ出した。

 

「そう言うわけで聖王! 俺の傘下に入ってもらうぜ! 安心しろ、お前らが超いいやつだからこそ声かけてんだ。 なんなら、タイマンじゃなくて全員がかりでもいいぜ! 全員峰打ちしてやる!」

 

「ちょちょちょ! 赤い人! 峰打ちって言ってるけど、素手の峰打ちは裏拳だから!」

 

「そんなの余計痛いですよ!」

 

 シャルフシュとツァーバラの悲鳴を聞きながら、聖王は呆れたように笑った。

 

「せっかく魔王を倒したと言うのに、とんでもない事になってしまいましたな」

 

 

 卍

 この日を境に、聖王は王座から降りた。

 

 そうしてまた、立て続けに新たな王がこの大陸に誕生する。

 

 暴王・龍翔崎奏多。

 

 そして今、その新たな王の誕生に闘士を燃やすのは——

 

 覇王・鳳凰院零夜。

 

 この二人の王が誕生したことを境に、この大陸を統一しようと企てるさまざまな王たちの激戦は、火に油を注ぐが如く燃え上がることになった。

 

 新たに建った真っ白な城の最上階から、つい先日まで聖王が収めていた城の方向に視線を送る鳳凰院。

 

 はたまた聖王から力ずくで奪い取った城の最上階に仁王立ちして、新たに建てられた覇王城を睨みつける龍翔崎。

 

 お互い遥か遠くにいるにもかかわらず、奇跡的なのか、心が通じ合っているのか。 お互い始めから示し合わせていたのかと思うほど、まったく同じタイミングで口を開いた。

 

「さぁ、戦いの続きといこうぜ鳳凰院!」

 

「覚悟しやがれ龍翔崎。 どっちが先に、この大陸を統一できるのか……」

 

「「今度こそ、決着をつけてやるぜ!」」

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異世界ツッパリ暴走録 〜相手が誰だろうとぶちかますんで夜露死苦!〜 直哉 酒虎 @naoyansteiger

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