第26話 龍翔崎奏多・仇討ち観戦だぜ夜露死苦!
鳳凰院の予想は見事的中した。
俺たちが突入する前にあいつはモルフェスに訪ねていた。
『肝心なことを聞き忘れていた。 確か会ったばかりの頃、ポン子はシェラハート平原に転移したと言っていたな。 魔王たちも転移して逃げるかもしれん。 おいぽち、魔王は転移するとしたらどこに転移する?』
あらかた作戦の説明が終わった鳳凰院がモルフェスに尋ねると、淡々とした口調でこう答えた。
『おそらく城の後ろに建設されている、我々直属幹部と魔王様やお妃様のみが使う船着場だと思われます』
『ふむ、確実にそことは言わんのか』
鳳凰院は顎に手を当てて唸りだすと、モルフェスが付け加えた。
『魔王城の地下には秘密兵器が保管されています。 大陸統一はその秘密兵器を用いるとのことでしたので、おそらく転移するとしても城の外には逃げないでしょう。 その秘密兵器に絶対の自信があると思われるので』
モルフェスのその言葉を聞き、鳳凰院は化狐のように邪悪な笑みを浮かべた。
『よくやったぞぽち。 有益な情報だ。 おい、お前ら全員突入後は城の裏手にある船着場に集合だ! 遅れるなよ!』
戦闘が始まり、テイアマットが魔獣を召喚しやがったから慌てて立ち上がったが、ラディレンに手を出すなとどやされた。
ラディレンに怒られちまったから、こうして鳳凰院とただただ戦場を眺めることしかできない俺たち。
「なあ鳳凰院、ラディレンたちは少し稽古しただけでクソ強くなったのは俺が保証するが、フラウたちは何も修行してねえだろ? 大丈夫なのか?」
俺の問いかけを聞き、鳳凰院は鼻を鳴らしながら戦場に顎を向ける。
鼻で笑いながら戦場を見下ろす鳳凰院の視線を追い、フラウたちの戦う様子を見て驚いた。
「あいつらは自分の固有能力の恐ろしさをてんでわかっちゃいなかった。 それを教えただけで全員化け物級になったぜ?」
ヴァルトアも鬼王も、そしてフラウもそうだった。
確かにあいつらの持つ、元々のポテンシャルはクッソ高かった。
腕っ節だけでなく理不尽なまでの固有能力、ハートゥングのせいで魔法が使えないこの無能領域の中でも、あいつらはやはり別格だ。
卍
時は遡り数秒前。
テイアマットの足元に魔法陣が現れる。
「させないでありんすテイアマット! あっちら部族の仇、ここで打たせてもらうでありんす!」
鬼王がすかさず飛び込むが、正面にハートゥングが回り込む。
「てめえが一番厄介だ、最初に死んでもらうぜぇ?」
ハートゥングは両手を大きく開き、腕を伸ばしたまま勢いよく閉じて、甲高い手叩音を響き渡らせる。
両手の平を打った衝撃で、鬼王が展開した神便鬼毒の霧が霧散し、ハートゥングの拳が鬼王に向かった。
紙一重で身を逸らし、右ストレートをかわすが間髪入れずに左の膝蹴りが飛んでくる。
今度はいつの間にか飛びかかっていたラディレンが、ハートゥングの左膝を押さえ込んだ。
二対一の状況になり、大きく距離を取るハートゥング。
「よくやったわねハートゥング!」
テイアマットの自信に満ちた声が響き、十一個の魔法陣が怪しく光る。
ハートゥングはただの時間稼ぎ、魔獣召喚の下準備が成功してしまったのだ。
それを眺めていた龍翔崎は思わず立ち上がった。
するとそれが横目に見えていたのだろう、ラディレンが必死に叫ぶ。
「龍翔崎様と鳳凰院様は周囲の警戒をして欲しいのじゃ! 妾たちの邪魔をされないようにしていただきたい! こやつらだけは、妾たちだけでケリをつけねばならんのじゃ!」
ここにくる前、龍翔崎と鳳凰院はラディレンに口を酸っぱく言われていた。
『あやつらにはたとえ何が起きようとも手は出さないで欲しいのじゃ! 妾たちだけの力で魔王を殺し、雪辱を果たすのじや!』と。
しかしラディレンが龍翔崎に呼びかけた声を聞き、あからさまに苛立ちを見せる魔王。
「貴様らごときが、予を討ち取るだと? 笑わせるなよ青二才が!」
魔王が金杖を掲げると、魔王の前に光に包まれたでかい人影が現れる。
光が霧散していき、でかい人影の顔が顕になった瞬間、ラディレンは明らかな動揺を見せた。
「なっ! 父……上?」
動揺するラディレンにしたり顔を向ける魔王。
だが、そんな隙だらけの魔王に無数の弓矢が襲いかかった。
不規則な軌道を描き、棒立ちして余裕の笑みを浮かべている魔王に向かって無慈悲に降り注ぐ。
だが魔王に目がけて飛んできた無数の弓矢は、巨大な龍の鉤爪によって破壊される。
眉を歪めながら舌打ちをするシャルフシュ。
「お前の父は、龍角族火龍科の中でも最強だと言われていたな。 こいつはその死体を元に造られた人造魔獣だ」
瞳の中に、怒りの劫火を灯すラディレン。
部分獣化させた腕を震わせながら、憎悪の瞳を魔王に向ける。
するとその視線を受けて歪な笑みを漏らす魔王。
「貴様のようなひよっこに、一族最強を超えられるとは到底思えんな! フハハハハハハハハハッ!」
魔王の高笑いと共に、テイアマットが召喚した十一体の魔獣たちも各々雄叫びを上げた。
七首の大蛇。
鷹のような大翼が生えたサソリ。
巨大な犬型の魔獣。
獅子に似た魔獣。
蝶のような大羽を生やした牡牛。
獅子の前足と鷹の後脚を生やした珍獣。
鳥の足を持った半身の魔獣。
群青色の翼がないドラゴン。
翠緑色の小柄なドラゴン。
十本の足をうねらせる半魚半身の魔獣。
二本の角を隆起させ、前足のついた歪な姿をした蛇。
合計十一体。
その光景はもはや地獄絵図だ。
どれも見ただけでかなり凶悪な魔獣だとわかる。
それに魔獣たちが召喚されてから、この辺り一体の気温が急激に上昇し始めたのが分かった。
「ふふ。 ウガルムちゃん、全員焼き殺しなさい! 手始めに、ハートゥングのせいで魔法が使えない無能を! あの突っ立ってるだけの吸血鬼を喰い殺しなさい!」
テイアマットの指示を受けた獅子型の魔獣、ウガルムがヴァルトアに向かって駆け出した。
気温が上がった理由はこの魔獣だ。
全身を超高温にし、口からは業火を吐く凶暴な魔獣。
そんな超危険な魔獣が突進してきているにも関わらず、煩わしそうな顔で背伸びをしているヴァルトア。
背伸びをし終え、ヴァルトアの右手がぶれた直後、ウガルムは正中線で真っ二つになった。
「………………は?」
間抜けな声を上げるテイアマット。
そして、ウガルムのせいで上がり始めていた気温が、たった数秒で冷えていく。
「わたくしは確かに魔法を使えませんわ? けれど、能力は使えましてよ?」
いつも被っている笠の下で、三日月のように口角を歪ませるヴァルトア。
テイアマットは真っ二つになったウガルムを見て、ハートゥングに視線を送る。
すると、いつの間にかフェイターと一対一の状況になっていたハートゥングは小さく頷き、すぐ戦闘に戻る。
「エクサ・クーア!」
テイアマットはすかさず何らかの魔法を唱え、ウガルムに手を伸ばす。
ハートゥングの無能領域は、仲間にだけ能力の影響が及ばないよう、形を変形できるのだ。 先程のアイコンタクトは無能領域が自分に影響がないかを確認するためのものだったのだろう。
そうして今この戦場では、魔王やテイアマットだけが魔法を使える状況を作り出している。
テイアマットが唱えたのは治癒の魔法、優しい緑色のオーラが真っ二つになったウガルムを包み込む。
しかしウガルムはピクリとも動かない、傷が治る気配もない。
目を見開き動揺するテイアマット。
「なぜ! なぜ治らない!」
「当然ですわよ。 魔法では治らない傷ですもの」
したり顔で二体目の魔獣、蝶の大羽を生やした牡牛を切り裂き、首を刎ね飛ばすヴァルトア。
その右手には薄刃の片手剣しか持っていない。 刃が薄いため耐久力はないが、無類の切れ味を誇ると言われている一撃必殺の刃。
その名も
鞘すら断ってしまうその剣は持ち運びにも苦労する上に扱いも難しい。 達人が使用すれば世界そのものすら断ってしまうだろうと言われた妖刀。
これは鍛冶精の職人が作成した一撃必殺の刃と言われているが、作ること自体は難しいわけではないので作ろうと思えばいくつでも作ることは可能なのだ。
けれどこの片手剣には決定的な弱点がある。
恐ろしいほどの切れ味を誇ると同時に、恐ろしいほどに脆いのだ。 おそらく戦場で使えるのは一回きりに限るだろう。
持ち運びの難しさ故に発注がなければ作らない代物だし、使い捨てのためコストの問題的にもあまり使用者はいない問題だらけの剣。
けれどヴェルトアが持っている断界は、一向に折れる気配がない。
「嘘よ! お前の能力は知っている! 血を吸った者の力を真似るしかできない紛い物! 槍使いの能力を模倣したのね? きっとそうに決まってるわ!」
イカのように複数の腕を生やした半身半魚の魔獣を相手していたシュペランツェが、ニヤリと笑いながらヴァルトアに視線を送る。
「ヴァルトア! お前の断界、なんで壊れないんだ?」
「そうねシュペランツェ様、ラディレン様の血は、たいそう美味しゅうございましたよ?」
余裕の表情で会話を交わす二人を交互に見ていたテイアマットが、肩をふるふると震わせる。
「おかしいわ! ウガルムの皮膚は鉄並みに硬いのよ! 断界なんかを使ってしまえば、刃が持たないはず……」
「触れてるものを硬化させる能力があるなら、壊れやすい剣も壊れないかもしれないよな?」
魔獣からの猛攻を起用に捌きながら呟くシュペランツェ。
それを聞いて目を見開くテイアマット。
「まさか!」
「最近のマイブームは二種類の血液をブレンドした、オリジナルブレンドの血ータイムでしてよ?」
ヴァルトアがニヤリと笑いながらテイアマットに瓶を見せつける。
「血を吸った相手の能力を模倣する。 誰も——一人だけとは言っておりませんわ?」
ヴァルトアが持っている瓶には、ラディレンとシュペランツェから分けてもらった血液が入っており、ヴァルトアはそれを摂取して二つの能力を混ぜ合わせた。
「そんな! 反則じゃない!」
歯を食いしばるテイアマット。 しかしヴァルトアは不服そうに鼻を鳴らす。
「無論、ブレンドしたら能力も少し弱体化しますわよ? おそらくシュペランツェ様の絶対治らない傷は、弱体化して自然治癒しかしない傷に。 ラディレン様の不滅硬化は、ものすごく頑丈になる、とかになっていると思いますわ?」
小首を傾げながら、頬に人差し指を当てるヴァルトア。
その余裕なそぶりを見て、テイアマットは激昂した。
「ヴァシュム! あやつを猛毒で屠りなさい!」
二本の角を隆起させ、前足しか生えていない歪な姿の蛇、ヴァシュムが禍々しい紫色の毒を吐く。
するとヴァルトアはマントを翻し、マントの内側に無数に仕込まれた試験管を取り出す。
試験管の蓋を破り、中に入っていた血液を口に含んだ。
この瞬間ヴァルトアが模倣した能力が切り替わり、次の動作でヴァルトアの指先から魔王が現れる。
指先から現れた魔王は、ヴァシュムの毒を代わりに浴び、苦しそうに喚きながら霧散した。
「魔王が死ぬところを何度も見れるなんて、ぽちの能力は素晴らしいですわね」
嘲笑しながら霧散して消えた魔王を眺めるヴァルトア。
それを横目に見た魔王本人は、金杖を振り回しながら頬をひきつらせ、鋭い視線をヴァルトアに向けた。
「悪趣味な! 一体何のつもりか!」
「あなたよりはマシな趣味のはずですわよ?」
睨み合う魔王とヴァルトア。
しかし、息をつく暇もなくヴァシュムの二撃目がヴァルトアを襲う。
今度は霧状に霧散させた毒。
だがその毒は突然吹いた突風にかき消された。
風下にいたテイアマットは絶叫を上げながら必死に横っ飛びして地面を転がる。
間一髪で毒を逃れ、ほっと息を吐いたテイアマットは何が起きたのかを把握するため、周囲に視線を巡らせた。
すると、テイアマットが召喚したはずの魔獣、大翼が生えたサソリが大きな翼を羽ばたかせ、毒の霧を吹き飛ばしていたことが判明する。
「何のつもりよバルサブリル! 一体なぜ私に牙をむく!」
「おかしいわね、あなたの能力は魔獣操作でしょう? 全然操れてないじゃない」
バルサブリルの後ろでクスリと笑みをこぼすフラウ。
信じられない事に、バルサブリルはフラウを攻撃する様子がなく、むしろ彼女を守るかのように側で翼を羽ばたかせていた。
「……え、何? なんで? バッ、バルサブリル! 何してるのよ! 早くそのバカを仕留めなさい!」
「ふふ? 無駄よ? もうこいつはあたしのペットにしたから」
理解が追いつかないせいで、ヘッ? っと、喉の奥から間抜けな声を漏らすテイアマット。
「何を言っているの? あなたは触れた相手を操る能力……まさか! これも幻影? それとも私の血が、ヴァルトアにいつの間にか吸われてた?」
「サソリちゃん、あのバカの足をその尻尾でブッ刺してあげて? 多分目が覚めるはずよ?」
フラウの命令を聞いたバルサブリルがテイアマットに向かって一直線に飛んでいく。
「こっちに来るな! フラウを仕留めなさい! 止まれ! 止まるのよ!」
必死に叫ぶテイアマット、しかしバルサブリルは脇目も振らずに突進してくる。
「どうして! どうして言うことを聞かないのよ! こっちにくるなぁぁぁぁぁ!」
鳥の足を持った半身の魔獣が、慌ててテイアマットを庇おうとする。
それを見ていた鬼王が、すかさず右手を振り抜き何かを投げる。
水が弾けるような音がした直後、テイアマットを庇った魔物はふらりと倒れ込んだ。
「あらあら? これはやっぱり成分が強すぎるでありんすね」
地に伏せた魔獣を一瞥し、苦笑いを浮かべる鬼王。
圧倒的な力で瞬く間に魔獣が駆られていく。
フラウと鬼王、ヴァルトアの連携で、凶悪なはずの魔獣が既に三体も狩られた。
それに加えてもう一体、なぜかフラウが操っている。
そしてフラウが操っていたバルサブリルは、サソリのような尾でテイアマットの足を貫いた。
「ギィやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」
自らの喉を壊してしまいそうな叫び声をあげるテイアマット。
貫かれた足を必死に抑えながら群青色のドラゴンに視線を向ける。
「ラファム! ラファムぅぅぅぅぅ! 水のブレスで全員殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
テイアマットが叫ぶと、群青色のドラゴン、ラファムが雄叫びを上げる。
しかしそのラファムに一瞬で近づいたフラウが、そっと背に手を当てた。
すると、ラファムは急におとなしくなり、身動きすらしなくなる。
その光景を見て、目が飛び出んばかりに驚くテイアマット。
「な……ぜ? なぜ? どうして私の言うことを聞かないの?」
「ここに来るまでの間にね、ほーおーいん君があたしたちにアドバイスしてくれたのよ。 私たちの能力は、自分が勝手に勘違いして解釈してるだけで、もしかしたらもっと他の使い方ができるんじゃないかって」
おとなしくなったラファムに寄りかかりながら、余裕の笑みを浮かべるフラウ。
「私の能力は、触れた相手を下僕にする能力。
——————誰も人型だけなんて言ってないでしょ?」
フラウは底冷えするような低いトーンで呟くと共に、背筋を凍らせるような目つきでテイアマットを睨みつける。
途端、テイアマットは全身から汗を拭き出し震え始めた。
フラウがゆっくりとテイアマットに近づいていくと、刺し貫かれた足を引き摺りながら無様に逃げ惑う。
「嫌! 嫌よ! 私はまだ死にたくないのよ! 私を守りなさい魔獣たち!」
ティアマットは怯えながらも、今生きている魔獣を探すため必死に視線を巡らせる。
しかし、すでに翠緑色のドラゴンの首を刎ね飛ばしていたヴァルトアを横目に見て、瞳に恐怖の涙を浮かべる。
逃げ惑うティアマットを、蔑むような目で見下しながら歩み寄っていくフラウ。
「ディーフェル様の同族は、あなたの魔獣に食い殺されたって話だったわよね?」
ゆっくりと、しかし着実に歩み寄っていくフラウから、必死の形相で逃げるテイアマット。
そんなテイアマットを守ろうと、巨大な犬型の魔獣が駆け寄っていくが、鬼王が腕を振り抜くと、水滴が弾けたような音を鳴らした後魂が抜けたように脱力して地を転がる。
「無様でありんすね、テイアマット」
鬼王は妖艶な笑みを浮かべ、手のひらの上で無数の水滴を操っている。
「あっちも鳳凰院様にご教授いただいたでありんす。 少し吸い込むだけで眠ってしまうほどの毒を、霧状にして纏うのがあっちの能力。 単純に、霧を濃縮すればもっと強くならないのか? と。 あっちはそのアドバイスを聞いて、自分の頭が悪いという事を再認識したでありんす」
鬼王は手のひらの上で浮遊していた水滴を、七首の蛇に向けて放った。
水滴に触れた七首の蛇は一瞬で脱力し、地に伏せる。
その様子を見て、寿命が縮まったかのように、顔をシワだらけにして怯え出すテイアマット。
「安心するなんし、あいつらは昏倒しただけでありんす。 でも、あっちの神便鬼毒を吸い込んでもいないのに、触れただけで昏倒するとか。 強すぎると思わないでありんすか?」
テイアマットは怪しく笑う鬼王を見て、即座に額を地面に擦り付けた。
「降参よ! 殺さないで! お願い! お願いしますお願いしますお願いします! 命だけは助けてください!」
必死に許しを請いながら、小動物のように震え出すテイアマット。
ごめんなさいと何度も叫ぶテイアマットを、冷めた目つきで見下す鬼王。
フラウは鬼王の横を通り過ぎ、テイアマットの眼前にゆっくりと屈んだ。
「お妃様? あたしの性格を忘れたんですか?」
フラウの優しく甘い声音を聞き、ゆっくりと顔を上げるテイアマット。
赤く腫れた瞳に、わずかに希望の光が灯る。
そんなテイアマットの肩にそっと手を置き、にっこりと微笑むフラウ。
その瞬間、テイアマットは安心しきった顔で小さく息を吐いた。
「ではお妃様……」
死を逃れられると、希望に満ちた顔のテイアマットの耳元に、フラウはゆっくりと顔を近づける。
「——————動いちゃダメよ?」
静かな怒りのこもったその宣告で、テイアマットの瞳から輝きが消え失せた。
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