第22話

 作戦会議が始まった。

 

 ラディレン中心に現在動かせる戦力の確認や、魔王城に控える兵士たちの予想勢力。

 

 指揮系統を誰にするかや補給物資の確認や輸送ルート。

 

 長々と確認を済ませた後本題に入った。

 

 魔王やその右腕と左腕、そして妃が操る魔獣たち。

 

 こいつらの対応になった瞬間、会議室内は口数が減った。

 

 それもそうだ、俺もさっきヴァルトアに話を聞いていて頭が痛くなりそうだった。

 

 武闘派のハートゥングと絡め手を使うモルフェス。

 

 そんでもって触れられれば記憶を読まれる魔王と、大量の魔獣を従える妃。

 

 ここで綿密に作戦を立てても、魔王に触れられれば作戦は全て筒抜けになるし、もしかしたらモルフェスが幻影をなんらかの形で忍ばせているかもしれない。

 

 俺はラディレンや親バカがああでもないこうでもないと言い争う中、一人で思考を巡らせる。

 

 こちらには全身を硬化させるラディレン、触れた相手を下僕にするポン子。

 

 近づいたもの全てを強制的に泥酔させる親バカ、血を吸った相手の能力を模倣するヴァルトア。

 

 触れた相手の能力を無効化する剣使いに、治らない傷を与える槍使い、放った弓矢は絶対当たる弓ちょこ、一度に二つの魔法を詠唱できる杖使い。

 

 間合いが狭い時に有効な能力が多く、弓ちょこくらいしか遠距離を対応できない。

 

 だからと言って魔法で攻めたいが、ハートゥングの無能領域内では魔法は使えない。

 

 ヴァルトアが言っていたように、今のメンバーでの攻略は難しいかもしれない。

 

 俺と龍翔崎が魔獣を担当するとしても、バラバラに動けばモルフェスの幻影に騙される可能性がある。

 

 そもそも魔王と接近戦とかするのがまずリスクが高い。

 

 味方が一瞬で敵になる可能性があるのだ。

 

 剣使いがいれば解除はできるが、その剣使いが魔王に捕まったら万事休すだ。

 

 そもそも俺や龍翔崎が万が一記憶操作されれば厄介この上ない事になる。

 

 魔王の周辺は厄介な奴しかいねえのか?

 

 目頭を摘みながら大量のワサビ食ったような顔をしている俺の肩を、ヴァルトアが遠慮気味につついてきた。

 

「ん? なんだ? 今忙しいんだが」

 

「鳳凰院様は何か策がおありなのかしら? さっきから主人様やラディレンちゃんが声をかけていらっしゃるのに、お耳に入られていないようでしたので……」

 

 ふと、我に返って作戦会議室に視線を巡らせる。

 

 全員俺の言葉を待っているらしく、呆けた面で俺に視線を集めていた。

 

 すると部屋の端で茶煙草を吸いながら、悪そうな笑みを浮かべた龍翔崎が視界に入った。

 

「鳳凰院おめえさ、こういうの考えんの得意だろ? ちなみに俺の考えは、全員まとめてぶっ叩く作戦だぜ? こいつら全員無理だなんだと言ってるが、お前ならできんだろ?」

 

 全員まとめてぶっ叩ければこの上なく楽だ、一箇所に面倒な敵を集められれば……

 

 ああなるほど、やっぱり龍翔崎は馬鹿なのか賢いのかがよくわからん。

 

「おいラディレン、地図を見せろ」

 

「え? 地図ならそこにあるのじゃが……」

 

 ラディレンが壁を指差すと、世界地図が貼ってあった。

 

 そこで初めて、この部屋は俺と龍翔崎が茶煙草作りをしていた部屋かとようやく気がつく。

 

 周りが見えなくなっていたとは、ずいぶん難しく考えすぎていたようだ。

 

「それは世界地図だ、魔王城の詳細が記載されている地図をよこせ」

 

「わ! 分かったのじゃ!」

 

 ラディレンが小走りで部屋を出ていく。

 

 数分後、ラディレンが持ってきた地図を見ながら俺は再度頭を抱えた。

 

 龍翔崎もひょっこり地図を眺めて顔をしかめる。

 

 俺たちの表情を見て頭上にクエスチョンマークを浮かべるラディレンたち。

 

「これ、無理じゃねえか?」

 

「面倒なところに魔王城を立てやがったな」

 

 龍翔崎が腕を組んだまま地図と睨めっこを始める。

 

 魔王城の周囲は湖に囲まれていて、背後は断崖絶壁だ。 周囲を山に囲まれてるから大群が攻め入るとしたら正面突破しかない。

 

 まあ、重要拠点だから攻めずらく守りやすい所に建てるのは当たり前だが、これは流石にため息が出る。

 

 ……いや待て、この状況だと!

 

「おい、喜べお前ら」

 

 俺の顔を見て、全員顔を輝かせた。

 

 吉報を伝える前に、何を言いたいのか分かったらしい。

 

 龍翔崎もすぐにポンと手を打ち、機嫌良さそうに鼻を鳴らした。

 

「魔王城を攻略する方法を思いついた。 お前らは準備できたら魔王城に侵攻開始しろ」

 

「任せるのじゃ! 指揮は妾が授かっておる! どのように向かえばいいか?」

 

 ラディレンが背伸びしながら手を伸ばす。

 

「正門に到着するまで何も考えなくていい、普通に正面突破だ」

 

 お祭りムードだった室内が、急に静寂に包まれる。

 

「安心していい、おそらくお前らは魔王城に向かうのに二日かからないだろう、何も気にせずただただ正面突破を続けろ。 だがその代わり、条件がある」

 

 持ったえぶる俺の解説を聞き、うずうずし始めるラディレン。

 

 だが、龍翔崎は空気を読まなかった。

 

「鬼王とヴァルトア、それからフラウを連れてくんだろ? あ、あとツァーバラも必要か?」

 

 空気を読まない発言を聞き、俺はイラついて龍翔崎のつま先をふんづけた。

 

 ぐぎゃあぁぁぁぁぁ! と喚き出す龍翔崎は放っておき、視線を泳がせているツァーバラを勢いよく指差す。

 

「杖使いはいつも通り仲間と動け! 冒険者は四人いないと怪しまれるだろうが! その代わりお前はヴァルトアに血を少量渡しておけ!」

 

「あ、はい。 瓶に入れてお渡ししますね?」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔で腰からナイフを取り出すツァーバラ。

 

「作戦の詳細はお前らが魔王城の正門まで侵攻したら嫌でも分かる! 龍翔崎、絶対口走るなよ! 念を押して言っておくが……」

 

「わーってる、わーってるよ! モルフェスとかいうやつに聞かれるかもしれねえから黙ってろって言いてえんだろ?」

 

 涙目でつま先をさする龍翔崎が投げやりに答えてきた。

 

 まあこいつもバカではないから問題ない、これで準備は完了だ。

 

「親バカ、ヴァルトア、ポン子! 行くぞ、ついてこい!」

 

 なんでヴァルトアだけあだ名がついてないのでありんすか? とか言いながら俺の後についてくる親バカ。

 

 確かにヴァルトアにだけあだ名をつけていなかったなと思った俺は、思考を少し巡らせる。

 

 吸血鬼、ドラキュラ……ドラ子でいいか。

 

 ヴァルトアのあだ名はドラ子に決まり、俺たちはようやく魔王城攻略戦に向かうことになった。

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