第3話
なんらかの不思議パワーで異世界に召喚され、なんらかの不思議パワーを手に入れたとか。
いわゆる俺強え系とかいうらしい。
なるほど、俺たちはよく分からん神様から勝手に呼ばれ、理不尽なほどの力をもらってこの世界で無双するという事か。
………って、んな話し信じるわけねえだろ!
「おいおい鳳凰院、おまえってSF映画が好きだったのか。 あれはフィクションだから本当にあるわけなんかないだろ?」
「待て待て、冷静に考えろ
鳳凰院は小声で喋りながらフラウって女を勢いよく指差した。
いきなり指を刺されたフラウはびくりと肩を揺らす。
「ありゃ多分コスプレだぜ? 今時、池袋とかによくいんだろ?」
俺が呆れたように言うと、鳳凰院はガツガツとフラウの方に歩いて行く。
「コスプレの尻尾が動くわけないだろ! しかも若干生温かいんだぞ!」
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
いきなり尻尾を鷲掴みにされ、思い切り引っ張られたフラウは、涙目で叫び出した。
「いきなり尻尾触んなこの変態! しかも痛いから引っ張るな!」
涙目のフラウにバシバシ叩かれる鳳凰院。
「わ、わかったから落ち着け鳳凰院。 尻尾離してやれよ、なんか痛そうだぞ?」
鳳凰院は慌てて尻尾を離し、気をとりなおすかのように咳払いをする。
「と、とにかくここからは俺がこいつに色々聞くから、お前は黙って聞いていろ!」
「ったく、わーったよ。 勝手にしやがれ!」
こう言った時、頭の回転が無駄に速い鳳凰院。
こいつはマッポの補導とかも、ペラペラと口上をうまく立てて逃げたりしてたくらいだ。
もう面倒臭いし、後は全部こいつに任せてしまっていいだろう。
「おい女、お前は一体何者で、どこの勢力所属だ。 種族名は? 特殊能力は? 総魔力はどのくらいだ? そもそもこの世界で魔法は使えるのか?」
「ちょ! え? 何よこの男! 怖い! 近い! しゅ、種族は悪魔族の淫魔科よ! どこ所属かって………見ればわかるでしょ? 魔王軍よ!」
任せようとしたが、急に心配になってしまった。
「魔王軍だと! 今は戦争中なのか? それとも戦争前か! それとお前は悪魔族で淫魔………サキュバスか! お前は悪魔系の種族なのか! もしかしてお前は悪者か!」
「悪者なわけないでしょ! 魔王様はお優しいんだから! あなたたちこそどこからきたのよ! こんな常識的なこともわからないくせに、聖王軍最強の冒険者たちをたった一人で倒しちゃうなんて! 変わった格好してるし! いったいどこから来た何者なのよ!」
さっき俺がぶっ飛ばしたやつら、最強なの? あれで?
「ほう、聖王軍と来たか。 魔王の敵対勢力にふさわしいな。 それよりも聞き捨てならんな。 さっきの四人は最強の冒険者たちとか言ったな、聖王軍所属の勇者パーティーで間違い無いのか?」
「当たり前じゃない、ちなみにこれも常識的なことのはずなんだけど………なんであんたこんな事も知らないのよ?」
フラウは何度も質問してるのに、鳳凰院は一向に答えない。 にも関わらず、次から次に情報を聞き出している。
もっとも、聞き出してる情報は耳を疑うものばかりだが………
なるほど、これがなりきりコスプレってやつか。 鳳凰院も以外とノリがいいな。
「まず俺の疑問はそんな最強の勇者たちが、なぜお前を必死に追いかけ回していたかだ。 しかも捕らえようとしていた。 このことから推測すると、お前は魔王軍の重役である事が仮定される。 そしてもう一つ疑問が生まれる、重役だったとするとお前はここで何をしていたんだ?」
「………あたしさっき名乗ったわよね? あたしはフラウ・シェーネラウトよ? 知らないやつはいないと思ってたんだけど」
なんか話の展開についていけないが、こいつは自称有名人らしい。
フラウは、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべながら髪をバサっと指で弾いた。
「あたしが魔王軍幹部、誘惑のシェーネラウトよ? ここには最前線の部隊から要請された援軍要請に応じて来たの!」
「一人でか?」
鳳凰院はドヤ顔のフラウに真顔で問いかける。
するとフラウは徐々に涙目になり始めた。
「あたしの部下が、二千いたわよ。 でも分断されちゃった。 ………ひっく。 あいつらがこんなところにいるなんて、聞いてないわよ! たった四人で二千人の兵を相手にできるなんて反則よ!」
「おい鳳凰院。 泣いちゃったぞこの子? もうちょっと優しくしてやれ!」
フラウは悔しそうな顔でポタポタと大粒の涙を垂らしている。
しかし鳳凰院は全く動じず、顎に指を添えて何かを考えてる。
俺は泣いてるフラウを見て、こんなにもおどおどしてんのに。 こいつは鬼か?
「ふむ、あの四人が聖王軍最強の勇者パーティーって話は真実味が増してきたな。 そのわりには弱すぎる気がしたが、あんな雑魚で二千人も相手に戦えたのか?」
「あ、あいつらが………雑魚ですって?」
フラウは驚愕の表情でへたり込んだ。
「あんたがそんなに強いなら………あたしを助けてよ。 魔王軍がこの先で聖王軍に包囲されてるの。 あたし一人で行っても、何もできはしないわ」
へたり込んで静かに泣き出したフラウを見て、おれはこめかみをポリポリ掻きながら鳳凰院をガン見する。
なんだか助けてやりたい気持ちになってしまった。
すると鳳凰院はしめたとばかりに悪そうな顔で口角を上げた。
こいつは企んだ策がうまくハマると、よくこう言う化狐みたいな顔をしやがる。
「交換条件だ、俺たちはこの世界のことを知らん。 その魔王軍、助けてやるから全部教えろ」
鳳凰院は悪人面でにやけながらフラウに手を差し出した。
泣いていたフラウは………あれ?
なんかこいつも今、悪そうな顔で笑ったぞ?
「うふふ、大義であるわ? 強き者よ」
フラウは妖艶な笑みを浮かべながら差し出された手を取った。
鳳凰院の手に触れた次の瞬間、立ち上がりながら高らかに笑い出す。
「あーっはっはっはっはっは! バカな男ね! このあたしの手を取ったわね! もうあなたはあたしの下僕よ! さぁ、早速命令よ! あたしと一緒に魔王軍を助けに行くわよ! このあたしをお姫様のように抱えてすぐに進軍しなさい!」
鳳凰院の手を握ったまま、かん高い声で騒ぎ始めた。
おれは意味がわからずキョトンとしてしまう。
同じく鳳凰院もジトーっとした目でフラウを睨んでいた。
「………あれ? あなた、あたしに触れてるわよね?」
フラウは首を傾げながら鳳凰院の顔を二度、三度見する。
「なるほど、お前の特殊能力だか魔法の効果は相手に触れるのが発動条件なのか。 しかもさっきの口ぶりだと、触れた相手を言いなりにする事ができる。 違うか?」
鳳凰院の問いかけに対し、フラウは明後日の方角に視線を送りながらダラダラと汗を垂らし始めた。
顔色もどんどん悪くなっている。
「お、おかしいわ! おかしいわよ!」
「おかしいもクソもあるか、そもそもお前。 さっき俺が尻尾に触った事を忘れてたか? しかも痛い痛いと騒ぎながら俺のことを叩いてただろう? あの時は能力を発動してなかったのか?」
フラウはハッとした顔でモジモジし始める。
「お前、もしかしてポンコツなのか?」
「ポンコツって言うなぁぁぁ! この変態! だいたいあんた! 乙女の尻尾に触っておいて、なんでそんな平然としてられるのよぉぉぉ!」
もう片方の手で鳳凰院の肩や胸の辺りをバシバシ叩き始めるが、鳳凰院は呆れたような顔で立ち上がる。
立ち上がった鳳凰院を見たフラウは、顔を青ざめさせながらへたり込んでしまった。
ビクビクと震え出し、チワワのように怯えるフラウを冷え切った眼差しで見下ろす鳳凰院。
「バカな女だ、自分の能力が通じない相手に、暴言を吐きながら攻撃を仕掛けるとはな? まぁいい、言い残すことはあるか?」
「ちょっ! 待って………!」
鳳凰院はゆっくりと右の拳を上げると、フラウは真っ青な顔のまま滝のように涙を流した。
「降参です! 調子に乗って申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」
フラウの土下座は、教科書に載ってもおかしくないほど見事な物だった。
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