第142話3年ぶりの大阪へ

 高校受験が終わって、受験勉強から解放されて、緊迫した空気もなく、久しぶりにのんびりとした空気を味わいながら、柳本のところに行ってみた柳本も志望校に合格しており、お互いの健闘を称えあって、ちょっとした祝杯を挙げることになった。もちろん未成年者であるため酒を飲むわけではないが、柳本のお母さんが作ってくれたケーキやデザートとジュースをいただきながら、柳本の家で完敗。久しぶりにパソコンで野球ゲームをして楽しんだ。当時の野球ゲームは、今の物と比べると、かなりしょぼいものではあるが、いたるところで珍プレーが続出して楽しむことが出来た。

 夕方になって、家に帰ると今のところ勉強する必要もないので、かなり暇を持て余していた。楽しみな大阪への帰省にワクワクさせながら、関西地区で有効な周遊券と新大阪駅までの特急券と乗車券を用意し、出発日である3月27日を待った。大阪に帰省するのに持っておくお土産を買ったり、服を新調したりして準備を進め、3月27日、私は新幹線に乗って新大阪へと向かった。春休みとはいえ、平日なので自由席でも座れるだろうという考えであったが、その読みは甘かった。私が大阪に向かった当日は、高校野球で甲子園での試合が組まれていて、その応援などで甲子園球場に向かう人が大勢乗車しており、新大阪駅まで立ちっぱなしと言う羽目になってしまった。広島駅で後続の広島始発の新幹線に乗り換えてもよかったのであるが、星田には新大阪駅に○○時に到着するということと、自分が何号車に乗るのかということを伝えてあったので、乗り換えるということもできないので、そのまま乗車することにして、新大阪駅に到着。新幹線ホームで星田と合流し、そのまま地下鉄に乗り換えて、大阪市内で私鉄にさらに乗り換えて故郷に向かった。3年前まで私が住んでいたところと同じ風景が現れては後方に過ぎ去っていく。そして、車掌が私の故郷の駅であるT駅到着のアナウンスをして、やがて電車はT駅に到着。駅前の風景や駅から私が住んでいたところまでの道のりを懐かしみながら歩いていた。3年前、大阪から旅立っていくときの見た風景と何一つ変わってないのを目の当たりにして、懐かしさが一気にこみあげてきた。駅の近くのスーパーや駅の前後の踏切、ひっきりなしに行きかう電車や車、その駅の近くの幹線道路から細い路地に入って、私たち家族5人がかつて暮らしていたところにたどり着いた。そこにはまだ新しい家が2軒建っており、庭であった部分も家になっていた。しばらくの間、私はその場から離れられなかった。かつて私たちが住んでいたところには、数えきれないくらいの思い出が詰まっており、私が幼かった頃の思い出が蘇ってくるのである。しかし、私がかつて住んでいたところに来ることはできても、もう二度とそこに住むことはできない現実を思い知ると、やはり渡部や増井たちが私に対してやったことに対して、どうしても許せないという思いが頭の中をよぎる。もう人を恨むことはやめようと思っていたのであるが、やはり現実にはその悲劇の起きた現場に着くと、やはり憎しみの感情が湧き上がってくる。そんなに3年で心の傷が癒えることはないということなのだろうか。

 そして、くみちゃんが住んでいたアパートにも行ってみた。表札を見てみると、しんちゃん家族の名前が下位ってあった。

「元気に暮らしているんだな…」

そう思うとちょっと嬉しかった。そして星田の家に着いた。玄関を開けるとおばちゃんが出迎えてくれた。

「リンダ君久しぶりやねぇ~。背もごっつい伸びてびっくりしたわ~。元気にしてた?」

「これから1週間お世話になります。私は向こうで元気にしてましたよ。これ、山口のお土産です」

そう言って、山口銘菓の外郎を手渡した。おばちゃんは

「まぁ、これ外郎やないの?去年うちの息子が買ってきて食べたけど、美味しかったわ~」

そういって挨拶を済ませて星田の家に入った。およそ3年ぶりに見る星田の家。よく星田の家に遊びに行って、おばちゃんやおっちゃんにもよくしてもらったので、星田の家にも懐かしい思い出がたくさん残っている。

 その日は長距離の移動で疲れているだろうということで、日中は家の中で山口での暮らしぶりや、大阪と違うところ、山口のいいところなどを話して、おっちゃんが仕事から帰ってくるのを待っていた。やがて夕方になっておっちゃんが仕事から帰ってきて、

「おぉ~。リンダ君久しぶりやなぁ。ごっつい背も伸びて、ずいぶん大人っぽくなったんちゃうか?まぁ、ゆっくりしていってや~」

と言って、おっちゃんとも3年ぶりの再会を果たした。おっちゃんともいろいろと話をして、おばちゃんが作ってくれた夕食をいただきながら、楽しい時間が過ぎて行って、入浴を済ませて布団の中に入ると、さすがに長時間立ったまま大阪にやってきたので、疲れていたのか、深い眠りに落ちていった。

 翌日、目が覚めて私たちは朝食を済ませると、私にゆかりのある所や、星田が通う高校などに自転車で行こうということになって各地を見て回った。お正月に私の家族がみんなで初詣に行った神社、私たちが通った小学校、よく買い物に出かけたデパートや地元スーパー、そして星田が通う高校。いろいろと見て回った。途中二人でこんなことあったなとか、こんなことしたなとか、他愛のない話をしながら私たち住んでいたところ周辺を見て回った。そして星田の家に帰る途中、中井の声が聞こえた。

「あっ、リンダとちゃうか?」

と言う声がはっきりと聞こえた。中井としては、散々いじめ倒して、山口に追い出したのに、なんで大阪にいるんだと思ったのではないかと思う。声からして、憎しみを込めたような言い方であった。私は聞こえなかったふりをしてその場をやり過ごしたが、なんか一日の最後に気分が悪くなるようなことが起きてしまった。私としてはできれば会いたくない相手であった。

 やはり中井は私にやったことは何も思っていないし、反省なども全くしてないということがはっきりわかって、もう二度と俺の前に姿を現すなって思った。こんな奴はやはり何年たっても人の心の痛みとか辛い気持ちなんて、まったくわからないのだろうと思う。こういった奴は自分が一番で、他者を徹底的に叩き落さなければ気が済まないんだろうと思う。そうまでして自分の将来や、やがて生まれてくる子供たちに対して、胸を張って言える生き方なんだろうかって正直私は中井に対して思った。はっきり言って、中井と言う女はこの世から消え去ってほしい。その時私は明確に殺意にも似た感情を抱いていた。

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