第65話手伝い拒否

 ゴールデンウィークが終わって、普通の生活が戻ってくると学校に行かなくてはならない。ゴールデンウィーク最後の子供の日の夕方は、私の心の中は光の差し込まない深海のように真っ暗であった。学校に行ったら

「お前なんか陽の当たるところに出さない」

そう言われているようで、半分自暴自棄になっていた。

 そんな状態で飯盒炊飯の時期になった。私の班は渡部と隅田の3人組で、お調子者の隅田とは気が合う中であったが、渡部がいることが一番のネックであった。私と渡部が一緒の班になったことで、

「薫ちゃん、リンダと同じ班なんて最悪やな」

「ほんまやで。なんでうちがあいつと同じ班にならなあかんのやろう」

「あいつが炊いたご飯食べたら口が腐るわ」

など悪口雑言が容赦なく飛び交っていた。そして渡部が

「お前はご飯炊くな。お前が炊いたご飯食べたら口が腐るねん」

そう言われた。そうまで言うのであれば、私は一切手伝わないと心に決めて、飯盒炊飯が行われる二色浜に向かった。電車を降りて海岸に向かう途中も、下級生が危険なんことをしていようが、何をしていようが、私は一切かかわらなかった。そして海岸に着いて火をおこしたりするのも一切手伝わなかった。渡部が

「なんであんたは何も手伝わへんの?いい気なもんやね」

「は?飯炊くなって言ったのはおまえやろ?俺が炊いた飯食ったら口が腐るんやろ?そんなん言われてまでなんで俺が手伝わなあかんねん」

その言葉を下級生がいる前で思いっきり言ってやった。渡部はバツが悪そうにしながら

「なんで今そんなこと言う必要あるうん?」

と言ってくるので、私は

「二度と俺に手伝えって言ってくるな。俺はお前の言うことは絶対聞かへん」

そう言い放って、一切の手伝いを拒んだため、火起こしの段階で既にほかの班よりも大幅に後れを取っていた。ほかの班がカレーを食べる用意が出来上がった頃、ようやく火おこしが終わって、カレーの材料を煮込む段階であった。隅田が

「リンダが腹立つ気持ちもようわかるけど、頼むから手伝ってくれへんか」

というのであるが、その要望にも一切耳を貸さなかった。自分で全部できるから俺に飯を炊くなって言ったんやろ?俺が炊いた飯を食ったら皆の口が腐るんやろ?やったら手伝わんほうが皆のためやん。隅田と渡部が悪戦苦闘する姿を冷ややかな目で見ていた。そう

「ざまーみろ」

って言うような目で。そのうち下級生たちから

「まだでけへんの?僕らお腹が空いたわ」

などという声が上がり始めた。そして下級生の一人が

「なんでリンダさんは何も手伝わへんの?」

と聞かれたので、渡部が私に対して言い放った言葉をそのまま伝えた。私の言葉を聞いた下級生は

「信じられへん。なんでそんなこと言うんやろ?」

というような顔をしていた。ようやくカレーが出来上がった頃には、他の班はすでに自由時間になっていた。そのことで下級生からは不満の声が上がっていた。

「私たちの班だけ自由時間が無くなった」

そういう声が聞かれたのである。下級生からすればその不満はもっともな思いであったと思う。食べ終わった後の片付けも、私は自分の食器だけ洗って片づけを済ませると、他のことは一切手伝わなかった。再び渡部が

「あんたも少しは手伝いや。皆が忙しい思いしてんのに、あんたはいったい何やってん?」

と言うので

「はぁ?お前さぁ、俺が触ったものに触れたら手が腐るんちゃうんkぁ?瀬谷から俺は自分の片付けが終わったら手伝わんことにしたんやけど、まだ何か不満なんか?」

「本当おまえってやつはむかつく奴やな。あとで覚えとけよ」

などと呪詛の言葉を吐き捨てていた。そしてまったく楽しくない飯盒炊飯は終わりを迎えて、学校に帰ってきた。渡部からは私に対しての怒りの声が上がり、隅田は今後班で行動するとき、どうしたらええんやろという悩みを抱えることになった。隅田に申し訳ないが、この飯盒炊飯の後、班で行動するときは一切の手伝いを拒否した私である。


 その飯盒炊飯で私がとった態度が気に食わないと、休みが明けた2日後、学校に行ったら、渡部が文句を言っていた。

「あいつ、ほんまに何も手伝わへんのやで。こっちは忙しい思いしてんのわかってて無視しやがった」

「なんなんそれ。めっちゃ最悪やん。腹立つやろう?」

「ほんまめっちゃむかつくわ」

そんな話がわざと私に聞こえるよ鵜に大きな声で話をするので丸聞こえであった。私は

「そんなん知るかい」

そう思ってた。そして、私のところにやってきて、久保が

「あんたさぁ。全然手伝いもせんかったんやってな。自分を何様と思ってんねん」

「だからさぁ、俺はお前らが「俺が触ったものに触れたら手が腐る」って言うから、手が腐ったら困るやろうと思って何もいらわんかっただけやん。渡部さぁ、俺が作ったもん食ったら口が腐る言うたよな?それを忘れたとは言わさんぞ。ええやん。手も口も腐らんかったんやから文句ないやろ」

と言い返すと、久保から蹴りが飛んできた。私が間一髪のところでかわして、その蹴りが渡部の顔面にヒットした。

「薫ちゃんごめん。今の痛かったやろ~」

そうすると今度は増井が背後から羽交い絞めにしてきた。この時は完全にロックされた状態ではなかったため、、腕を引き抜くと増井の腹に思いっきりエルボを食らわせてやった。予期せぬ私の反撃に腹を思いっきり突き上げられた増井は腹を抱え込みながらその場に崩れ落ちた。

「今めっちゃ痛いやろ。それがお前らが俺に対して味合わせてきた痛みや」

私が反撃して来るとは予想していなかったのであろう、渡部・増井・久保の3人はいったん私のところから離れていった。そして、その日の終わりの会になったのであるが、私が増井や渡部・久保に対して暴力をふるったといわれ、増井が

「今日、僕は何もしていないのに、リンダ君からエルボをお腹にされました。めっちゃ痛かったです。謝ってほしいです」

と切り出すと、渡部が

「リンダ君が私の顔面にも蹴りを入れてきました。私は何もしていないのにされました。この前の飯盒炊飯では、皆が忙しくしているのに、全然手伝いもせんで、ずるいと思います」

と言われた。楢崎先生は私が

「暴力を振るった」

というのが信じられないという顔で、私に事の顛末を聞きに来た。そして、私に対するいじめが収束せずに継続していること・私が触ったものに触れたら手が腐ると言われていること・この前の飯盒炊飯で

「私が作ったものを食べると口が腐る」

と言われたことなど、具体的な事実を洗いざらい話して、いじめが解決していないことを話した。そのことについては先生は、生活ノートを再提出させて、いじめ加害行為をしているということなどを書き込んで、親に見せるようにさせた。終わりの会で、私が暴力行為を働いた悪い奴ということを言いたかった渡部たちであるが、逆に自分たちを追い詰めることになってしまったのである。この時私は正直

「これはまずいことになったな…」

と思った。親に説教されたり、怒鳴られたりして反省するなどあるわけなく、逆に私への怒りを増幅させて復讐して来るのではないかと思ったからである。そしてその悪い予感は当たってしまった。翌日学校に行くと

「てめぇ。うちらがどんなけ親に怒鳴られたと思ってんねん。お前が全部悪いんや。お前さえおらんかったらうちらは家ではいい子でおれんねん。本当。マジで死ねや」

「本当、このクラスにおまえなんかおらんでええねん。お前が死んだらみんなが幸せになれるんや。さっさと死ね」

などの罵声・罵倒を浴びせかけてきた。そして今度は私の腕が抜けないように、強力に羽交い絞めにされて、清川や中井・久保。湯川・渡部や浜山・天田たちが次々と私のお腹や胸に蹴りやパンチを繰り出す。逃げられない状態の中で、まさにサンドバック状態であった。 

そして最後に

「お前ら、このことをセンコウにチクったら、またこいつが痛い目にあうんやからな。よう覚えとけ」

そう言い放つと

「あぁスッキリした」

と言いながら、教室の外に出ていった。私はあまりの痛みにその場を動くことができなかった。星田たちが

「何があったんや?保健室に行くか?」

奴らを逆なでするようなことをしたら、マジで殺されると思った私は

「もうええねん。俺はこのクラスにおったらあかん人間なんや。もうどうなってもええわ。死んだほうが楽かもな…」

そう言って何とか自分の席に戻った。授業中も殴られた胸や蹴りを入れられた腹部がずきずきと痛む。体育の授業があるので、体操服に着替えようとしたのであるが、蹴られたり殴られたりした腹部や胸の痛みの影響で、とても運動ができる状態ではなかったので、体育の授業の参加を見送った。

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