第205話 どこの世界でも技術と言うのは先ず模倣から始まる物である。らしい。
遅くなりました。ダン○ダンにハマってしまった……アレ面白すぎる……
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露店での新商品が見事にスカったクリンであったが、初日こそ凹んだ物の余り気にしては居なかった。
元々が現状のクリンでは作れる商品が限られており、更にはコチラの世界には今までに無い料理や飲み物なので、直ぐに売れると言う事は無いだろうと思っていた。
特になんちゃってラタトゥイユは、此方の世界では食堂なら話は別だが屋台でここまで野菜を沢山使ったメニューなど無い。それこそ汁物やソースで野菜を沢山使う事はあっても、野菜炒めの様な物を屋台で売られる事は無い。単純に食べるのが難しいからだ。
器自体は大きい葉で賄えるが、野菜炒めやパスタは食べるのに匙か串が必要だ。食堂ならそれらは有るが屋台では無いのが通常だ。
クリンもその事は解っていたので、森で集めた木端を削って割りばしもどきを添えては居た物の、屋台料理は基本手だけで食べられる物が主流だ。加えて箸など無いので、串が二本添えられた所で食べ難いだけだ。
そして麦湯。暑いから汁物を止めたのに、何故熱い麦汁を飲むのか。それがこの辺りの連中の正直な感想だ。
この辺りに暑い時に熱い物を飲んで暑気払いをするという習慣は無い。精々が冷たい物は消化に悪いので生ぬるい状態で飲む位だ。
そしてこちらも加えて麦汁は甘い物かエールにする物と言う頭がある。焦がして苦味を出して飲むというのはこの辺りでは割と変態の所業だ。
唯一冷や水だけは甘味があるので子供や女性に受けてそれなりに売れた。ただ主力と呼ぶには売れ行きは芳しくない。
売れ行以外にも芳しくない物が一つある。最近猫が寄り付かなくなった事だ。
暑くなって来たので衛生面の不安から肉類を使わなくなった事が影響したのか、あまり野良猫達が近寄らなくなったのがクリン的には少し残念に思う所だ。
「もっともレッド・アイが着いて来る様になってからパタリと姿を見せなくなってはいましたけれど……やはり精霊獣でも犬とは相性が悪いのですかねぇ」
この街で猫は厄介事除けには結構良かったので、全く姿が見せないというのは困るのだが、代りに大型犬(に見える)レッド・アイが側に控えているので、結局は厄介な客は少ないままだったのは助かる事だった。
しかし、それでも日が経つにつれて徐々に売れ行きが上がっていく。切っ掛けは野菜売りのオヤジだ。このオヤジ、自分の店の野菜を卸しているとあってやはり気になるのか、初日になんちゃってラタトゥイユパスタを食べて以来、毎日必ず一回買って行く。
「ウチの野菜がこんなに旨く料理されているのに食わない理由は無い!」
との事で、寧ろ自分の店の野菜の宣伝をするのに態々買って試食させて居たりする事もある。最初の方は売れ残れれば全て買って自宅に持ち帰って家族に食べさせたり商売仲間に配ったりして自慢していた程気に入った様である。
そして転機が訪れたのはその数日後である。刻んだ野菜のラタトゥイユが麺に絡んでいるとは言え、やはりパスタでは食べ難い。
一応森暮らしのクリンであるから木の端材と言うのは相応に手に入る。その端材で串を造り箸代わりに二本添えて出しておいてはあるが、箸を使う習慣が無いこの世界ではそれこそ使い方が分からない。
機転の利く者なら二本の串を上手く使って食べられているが、どうにもこの世界の人間は横着だ。そう言う機転を利かせる者は少数派だ。
そこで、偶々薄焼きパンを出している屋台と隣り合わせになった時、余りにも食いにくいと文句を言って来る相手に辟易して、
『じゃあ隣の薄焼きパンを買って、それに掛けて包んで食べてみてはどうです? 少し味を濃い目にしますからそれなら食べやすいと思いますよ』
と、声を掛けた。薄焼きパンは掌より少し大きいサイズで二銅貨(二十円)と、添え物として買われる事が多い物だった。
隣の露店ではコレに店頭に並べた別売りの具を掛けて食べる形式だったので、何も載せない薄焼きパンだけを買えばそこまで割高でも無い。
結果としてそのアドバイスを聞き入れた客が隣で薄焼きパン購入し、それになんちゃってラタトゥイユパスタを掛けてやったら、コレがウケた。
薄焼きパンだけでは正直物足りないのだが、パスタが加わったお陰で腹持ちが良くなり、かつラタトゥイユもどきの味を濃くしたお陰でソースとしても機能し、ちょっとした異世界版塩焼きそばパンみたいになった。
最初は屋台の店主は薄焼きパンしか買わない客が増えた事に難色をしめしたのだが、クリンの店の売り上げと比例して売れて行く事に味をしめ、やがてまるでセット販売の様な感じで広がって行った。
最も、クリンがラタトゥイユもどきを作るのは夏の間だけだったので一時的な物ではあったのだが。
一方の麦湯の方だが……クリンはコチラの売り上げに関しては一切心配していなかった。苦い焦げ臭い、暑い時に熱い物を飲む意味が分から無い、エールにしないなら麦が勿体ないなどと散々な評価を受けていたのだが。
ここ半年の間に知り合った人物「達」が居る。そして、その知り合った「彼女達」に突き刺さる魔法の売り文句を知っていたからだ。それを彼女達の耳元で囁けば、男性陣には不評な麦湯も、あっという間に即売れの勢いになる。
——麦湯はボッター村では美容に良い飲み物と言われています。お腹の調子も整えて、特に浮腫みなどに効果がある飲み物なんですよ——
そう囁いただけ。たったそれだけで、下痢の常習である謎商売のお姉様方が一瞬で纏め買いして行く。
「ま、実際にそう言う効能があるしね。前世でも健康飲料として飲まれていた物だから最初から女性に売れるのは解っていたし」
と、言う事だった。何せ江戸の昔から女性人気のある飲み物だ。食物繊維が多いので便秘解消にもなるし、ミネラルと水分で浮腫みも取れてホットで飲むなら冷え性にも効果があるとされている。正に女性に嬉しい飲み物の代表だ。
こうして気が付けば、クリンの露店の売り上げは徐々にだが右肩上がりに上がっていく。木製食器の数が減り鋳掛を休止しても十分な額の売り上げが叩き出せる様になっていた。
そして売り上げが上がれば、やはり良からぬことを考える輩も現れるのが世の常と言う物なのだろう。
この日はそんな輩が現れた日だった。ここ最近の流れで午後の鐘(午後三時)が鳴ってから一時間程で店仕舞いをし始めているのだが、その習慣を狙われた様だ。
売上を入れた壷を回収してして背負子に積もうとした時、クリンの危険予測スキルが反応した。
ナイフを新作して以降活動範囲が広がり、危険な森の中でゴリゴリに採集をしまくっている恩恵か、クリンの危険予測スキルも成長した様でここ最近はスキルの精度も上がって来ていると自覚している。
しかし、今は寧ろそれが裏目に出た様だ。魔物や野生動物が跋扈するような場所で六歳で我が物顔で歩き回る頭のネジが飛んだ少年が鍛えた危険予測スキルだ。
たかだか街中で降りかかる危険など幾らでも対処できる。そう言う慢心があったのかもしれない。加えて用心深いこの少年でも年中気を張り続けられる程に神経はアラミド繊維で出来てはいない。幾らスキルの補助があるとは言え本人の意識が鈍って居れば、スキルの反応も鈍ると言う物。
この時のクリンは正にそれであり、スキルで危険を察知したのとほぼ同時に、
『クリン殿!?』「バフッ!!」
と言うロティの切羽詰まった声とレッド・アイの吠え声、そして背中に強い衝撃が走っていた。
それでも最初の村で身に沁みついてしまっている経験から反射的に体から力を抜き衝撃が通る方に体を浮かせてそちらに転がる様にして衝撃を逃がす。
「グフッ!」
背中を蹴り飛ばされた、と理解した時にはクリンの体は既に地面に転がっている。一瞬呼吸が止まる程の衝撃だったが、ギリギリ打撃のイナしは間に合った様で威力程に痛みや内部ダメージは無い。無いが痛い事に違いは無い。と、
「猫が居なきゃテメぇなんぞただの小僧だっ! 散々コケにしてくれたお礼だ、迷惑料にこいつは貰って行くぞクソガキ!」
そんな事を言いながら売り上げが入った壷をひったくって逃げようとしているチンピラ風の男の姿が目に映る。
「ゲヘッ、ゴホッ……え、誰!?」
背中を蹴られ転がった衝撃にせき込みつつクリンが思わず言う。全く見覚えのない男だったからだ。
実際は何度かクリンに絡んで来て小銭を巻き上げようとしたチンピラ男なのだが、その都度猫や謎職業のお姉様に妨害されていたので、少年は綺麗さっぱりこの男の事は忘れている。なのでお礼だの迷惑料だの言われても身に覚えが無かった。
クリンにはサッパリ覚えは無いのだが、それでも一日の売り上げを全部持っていかれるのは癪である。
幸いな事に蹴り転がらされたにしてはダメージは殆ど流せていて既に行動に移れる。森の野獣や魔物程の殺意を持たなかった為にスキルの反応が悪く後れを取ったが、万が一の用心に懐に手製スリングと投げ易そうな石は二個確保してある。
簡単に逃がす気はない——そう考えながらスリングを懐から引っ張り出し——
『逃がしませんっ! さぁレッド・アイ、こういう時の為に特訓した技を見せる時です!』
「バッッッフン!」
——引っ張り出そうとした時、やたらと気合の入ったロティの声とレッド・アイの吠え声がクリンの耳に入る。
男は既に売り上げの入った壷を抱えて通りを走り出している。だが、精霊獣であるレッド・アイにはまだ十分射程距離である様だ。
ガッ! と瞬間的に地面を四つ足で踏みしめ姿勢を低くする。途端、クリンの危険予測スキルが激しく警鐘を鳴らして来る。
「あの態勢……ま、まさかっ!?」
サーッとクリンの顔が青ざめ、額に嫌な汗が噴き出して来る。だが姿隠しで隠れている小人の少女と街中と言う場違いな場所にいる精霊獣様は止まらない。止まる気はない。
「ちょ、まっ! それはダメですーーーーーー!」
叫ぶも時既に遅し。クリンの耳には「ドンッ!」とレッド・アイが地面を蹴って駆けだす音と「ゴウッ!」と風を裂く音、そして——
『行け、今必殺のっ! 偽・変異抜牙、螺旋撃!!』
と言うロティのノリノリの声が届いただけだった。
どうやら一人と一匹はクリンから某お犬軍団の話を聞き出して以降、密かに特訓していた様である。彼等でも聞いただけの技を完全再現は無理だったらしく、どうやら話から想像して模したオリジナル技を編み出していたらしい。
凄まじい勢いでレッド・アイは逃げる男に追いつき、その場で跳躍しながらまるでドリルの様に体を回転させながら男に噛みつく。
「だからその技は色々な意味でヤバいですって!!」
男にとって不幸だったのは——野良猫が居ない代わりに犬が居る事に気が付かなかった事と——レッド・アイと言う、普段は牛サイズの精霊獣が街中に入り込む為に変化して小型し、まだ「小型化した自分のサイズ感に慣れていない」と言うこの二つが重なった所にあるだろう。
いや、寧ろ即死では無かったので幸運だったのかもしれない。普段牛サイズのレッド・アイが普通に飛びついて噛みつけば、男の喉や頭にその牙が直撃する。
だが今のレッド・アイは「普通の」大型犬サイズである。体高はそこまでない。つまり、そのサイズの犬が牛サイズのつもりで噛みつく場所は何処になるのか。
それは勿論。
まるで弾丸の様に体を回転させながら突っ込んだレッド・アイの牙は、逃げる男の下半身、と言うかぶっちゃけ股間部目掛けてダイレクトアタックになる訳である。
——合掌——
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時間が掛かった割にはネタ多いですなぁ……
まぁ、ちょっと書き直ししたのと、ダン○ダン見ちゃって脳が影響されてちょっとヤバい状態なので抜けるまで苦戦している、と言う感じなのですが(笑)
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