第202話 走り出したら止まらない転生少年の真骨頂。



少し遅れましたが、何とか二日に一回ペースを保てています(;´Д`)

そして二日に一回なのでやはり4500字オーバーしてるよ……


追記:滑車を作った際の台詞が少々この時のクリン君らしくないので、一部差し換えさせていただきましたm(__)m

そして差し替えたら5500文字オーバーしちった(‘∀‘)テヘペロ



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 家の建築に狩りに採取にナイフの新造と、色々忙しく動いた為に時間が空いてしまった露店だったが、カオスな状況ながらも大部分の商品が売り切れその日の商売が終わる。


 この日売ったのは薬草の類いと作り溜めた木製食器がメインで、幾つかは売れ残っていた。元々鍛冶作業や収集の合間の暇な時間に生薬や木製食器を作り溜めしていたので量は揃っていたので売れ残りが出るのは織り込み済みだ。


 それでもやはりここ最近の主力である飲食物や副収入として優秀だった鋳掛をしなかった為、売上金額的にはやや大人しい。


 数は多くても種類がやはり少ないのは売り上げに関係してくる様だ。そう思ったクリンは、つい色気を出して「売れ残っても構わない」と言う物を急遽露店で出す事にした。


 それはブッシュ・クラフトナイフを作る際の習作として作った小型ナイフだ。


 ブッシュ・クラフトナイフの方は売る気などサラサラないが、小型のナイフの方は現状打ち直しナイフとサイズが変わらないので出番が無い。


 何れ打ち直しナイフは潰してしまうつもりなので、そうすれば使うだろうが当面は使い道が無い。無いのだが、初鍛冶の習作の割には結構出来が良い。


 つい「この世界で作った初めてのナイフがこの世界の人間相手でも売れるのか」と言う色気が出てしまい、興味本位でつい値段を付けて商品として並べてしまった。


 此方は刃渡り十センチ未満のナイフながらも銀貨二十枚(二万円)と、此方の世界の相場としてもやや強気の値段設定で、正直露店で売る値段では無い。


「でも『この僕』が作って出来が良いと思うナイフが、この世界の相場なんて事は無い筈だ。寧ろ十分格安の値段の筈だね」


 などとHTWのトップ層クラフターとしての矜持を爆発させていたのだが、当然の事ながら殆ど見向きもされず売れ残っている。


 ナイフに目を留める者は結構居たのだが、値段を見ただけでおおよその客はスルーしていく。その中に一人だけジッとクリン手製のナイフを見つめていた者が居た。

 

 それは茶色い髪をした子供で、子供と言うがクリンよりは年上で十歳過ぎ位に見える子供だ。熱心にナイフと値札を見比べていたが、やがて溜息を吐いて露店から離れて行った。


 その様子が何となく印象に残り、彼の様子が前世の映画やドラマなどで見た事のある、「陳列されたトランペットを眺める子供」に見えてしまい、「あの子なら多少値引きして売ってやってもいいかなぁ」とクリンは思わず呟いていたが——それでもお前よりは背が高いし年上だ! と突っ込んでくれる者はこの露店市場には居なかった。


 その様に露店を再開したクリンだが、余り鍛冶や建築に時間を摂り過ぎて間が空いてしまうと、また騒ぎになりそうだと考え露店の頻度を上げた。コレまでは五から六日の間を開けていたが三から四日で店を開く事にした。


 コレまではテオドラの手習い所に週(十日)五日程顔を出していたのだが、老婆から「もうとっくに小僧に教える事は無いわい」と言われていて、学ぶ事は無くなっていた。


 ただクリン的には既に勉強よりもこちらの世界の常識や習慣をテオドラや子供達から学ぶ事に考えがシフトしていたので、子供に勉強を教えたり森で手に入れた薬草を老婆に持ち込むという名目で週に数度は顔を出してはいる。


 その様に習慣が変わった為露店を開く頻度も上がったのだがそれに比例して売り物を作る時間がネックとなって来ていた。


 木製食器は作るのにどうしても時間が掛かるし、生薬も乾燥や加工で数日要る。そうするとやはり飲食物を売るのが商品としては手軽なのだが季節的に汁物は売り難い。


 そこでテオドラと相談し、本来大麦の収穫を待ってからする予定だった麦湯の販売を前倒しにする事にした。


 季節的に大麦の端境期であり、今大麦を買うと割高なので正直利益が少ないのだが、クリン的にも「冬の麦湯も良いけどやはり麦茶は夏だよね」と言う思いがあり、商品の穴埋めの意味も兼ねて販売に踏み切った。


 テオドラに相談したのは水の確保の為だ。焙煎した麦だけを売る事も考えなくもないが、この世界にはまだそう言う飲み方は生まれていない。


 テオドラの前例がある通りに現物の焙煎麦だけでは手を出してくれそうも無いので、先ずは飲ませる必要があると考えたのだ。


 そうするとクリンの暮らす森から水を運ぶというのはどう考えても非合理的だ。それに麦を焙煎する場所も必要だし、その為の道具を毎回運ぶのも手間なので保管場所も欲しい。





 最初は渋るテオドラであったが、麦湯が予定よりも早く手に入るようになり、更には優先的に分けてもらえ(それも作りたてをその場で、だ)、更に使用料と保管料を払うとあっては認めるのもヤブサカでは無かった。


 無かったのだが、この時の老婆はまだクリンの事をよく理解していなかった。多少小器用で無駄に色々知っている小僧程度にしか考えなかった。


 クリン君が金を出してまで使用許可を求めたのである。金を払う以上「そのまま利用する」などと言う非効率な事をする訳が無い。


 裏庭で井戸周りの様子を確認したクリンは、翌日から資材を持ち込み始める。


「商売にも水を使わせてもらうとなると、流石に今の濾過装置では小さくて効率が悪いですので。大型化して更に濾過水を貯めておく機能も付けさせてもらいます」


 と、六歳児が以前勝手に設置していった濾過装置を改造して行った。それ自体は仕方ないとテオドラも黙認した。


 今ではこの濾過装置があるお陰で手習い所に来る子供達もここの水は臭くないと喜んで飲んでいた所なので、水量が増えるのは有難い事であり便利になるに越した事は無い。


 などと気楽に考えていたら、件の六歳児は最近連れ歩く様になった犬みたいな何かの背に木材を括り付けて運び込んで来る。


「うんうん、この世界では余り使い道が無かったと思っていたロープワークがここで生きてきましたね! レッド・アイも運びにくいと言う事は無いですか?」

「バッフバッフッ!」


「ん? 『結び方一つで運び易くなるとは知らなかった』? ああ、翻訳ありが……ゴホッゲホッ! それならよかったです」


 などとやっていたかと思えば、持ち運んだ木材を使って井戸の回りに柱を立てたかと思えば屋根までついていた。


「ちょ、小僧、何でこんな物まで建ててんだいっ!? こんな大掛かりな改装するなんて聞いていないよっ!?」


 テオドラも手習い所を運営している身であり、クリンにずっと着いて回るわけにはいかない。子供達に勉強を教えている間、眼を離すしかなくその隙にガッツリと井戸周りが魔改造されていれば驚きもする物である。


 しかし当のクリンはと言えば、シレっとした様子で、


「だって井戸屋形の一つも無いと不便でしょう。濡れるしゴミも入りやすいですし。それにコレを取り付ける場所が必要ですし」


 と、手にしていた物をテオドラに見せる。


「おまっ……そんな物何処で手に入れたんだい!?」

「手に入れたというか作りました」


 と、これまた何でもない事の様に言ってのける。クリンが見せたのは部分的に金属を使ってはいるが、大部分が木でできた木製釣瓶、その基部だ。


「作っ……!? 何でこんな物が作れるんだいっ!?」


 この世界でも滑車は勿論ある。だがこの世界の滑車はクリンの前世の中世初期と同じく滑車は大分大きい。まだ小さく作る事が困難であり、六歳の子供が片手で持てるようなサイズでは無い。


「何でって……こんなの構造知っていれば後は木工の加工技術次第ですから簡単に作れますよ?」


「お前、ふざけんじゃないよっ! そんなんで簡単に作れる訳無いだろっ! 神殿の井戸を見た事無いのかいっ!? 小僧の胴体よりもデカいだろうがっ! そんな小さい滑車なんて簡単に作れないんだよっ!」


 テオドラが額に血管を浮かせて怒鳴るが——クリンは「何を言っているんだろうこの人?」と言う目で老婆を見て来る。


「ええと……既に皆さん似た様な物はもう普通に作って使っていますが?」

「ああ!? 何言っているんだい、滑車の小型化なんて出来たって話は聞いた事無いよっ! それが出来なくてどんだけ多くの連中が……」


 テオドラの怒鳴りを途中で遮る様に、クリンが溜息と共に、


「マジっすか……まさか『現存する物が使えるんだからそのままで良いじゃん』とか考えているパターン?」


 と漏らすが、テオドラにはサッパリ意味が分からない。その様子を見たクリンは再び溜息を吐き、


「前世の西洋圏もこう言う傾向強かったて聞くけど、そんな所まで似ているのかぁ……ドーラばぁちゃんでもとかちょっと面倒だな」


 と呟きながら手習い所の台所の方に向かう。その背中に向けてテオドラが「だから気安く呼ぶんじゃないよっ!」といつもの怒鳴り声をあげたが、気にせず台所の隅に置いてあった、ちょっとした荷物を運ぶ為の手押し車を引っ張り出して、老婆の下に戻って来る。


 そして台車の、木を丸く削っただけの小さな車輪を指差して見せる。


「ほら、普通に使っていますよね」

「ほらって……ただの車輪だろ? そんなのと滑車は別の物だろうが!」


「ええ、そこで止まるの……じゃコレでどうです?」


 と言って台車をひっくり返して車輪を上に向ける。円形に削っただけの丸木に軸が通してありその軸を板で挟んであるだけの簡素な車輪。


 テオドラが「だから何だ」と言いかけたのでクリンは自分の髪を留めていた草紐を解いて車輪の上に乗せる。


「今は紐が乗っているだけですが、車輪に溝でも刻めば普通に滑車ですね」


 と、紐を使って車輪を動かして見せる。それを見たテオドラは——


「ハハハハハハハハハハ! こりゃ傑作だ! お役人や学者連中が『滑車を小型化できない』って頭悩まして、結局バカでかい滑車使い続けて居ながら、似た物がとうの昔に出来ているとか、こりゃ笑い種じゃないか!!」


 腹を抱えて爆笑してしまっていた。言われてみれば滑車も車の字が付いているのだから車輪と同じだ。台車を動かす程度の車輪が作れるのに小型化出来ない訳が無い。


「この程度の事、誰かが気が付いていてもおかしくないんですけどねぇ。多分アレじゃないですか? 小さいと壊れやすいからって強度を保つには新しい素材とか無ければ小型化出来ない、とか思い込んだりしていたんじゃないですかね」


 溜息交じりのクリンの言葉にテオドラは「いかにもありそうな話だね」と頷く。滑車が使われる様な場所は毎日大量の水を必要としている場所なので、摩耗を押さえて故障しにくい様な丈夫さが求められている。


 この台車の様な小さな車輪は元々頻繁に使う事など考えて居ないので強度が低い。毎日使えば多分一年もしないで摩耗してしまうだろう。


「摩耗した所で『じゃあ交換しろよ、小さいんだから作るの楽なんだし』ってだけなんですが……何で作って無いのか実に不思議です」


 そんなクリンの言葉にテオドラも苦笑いをしながら頷いてしまう。ただ老婆には何となく理由が推察出来てしまう。


 要するに一種の思い込みと言うヤツである。言われてみれば普通に車輪なのだから強度の問題さえクリアできれば簡単に小型化出来る物だ。


 元の物が大きくて丈夫であるから「同じ位の強度が無くてはいけない」と言う思い込みが「別に壊れたら交換すればいいじゃん、簡単なんだし」と言う、単純な考えを阻害してしまう。交換すると言うだけでそれはとてつもない手間に思えてしまうのだろう。特に古い時代の西洋圏ではその意識が強い。


 この世界でもその習性に近い物があり、クリンとしては一々説明するのが面倒で仕方がない。せめてこの聡明な老婆位は説明なしで理解してほしい物だと溜息をもらす。


 だがテオドラはテオドラで溜息が漏れる。この少年は思考が柔軟過ぎる。「言われてみれば」というケースが多すぎる。


 コレまでの常識を簡単に突き抜けて来るこの発想力は大した物だと思うが、


「やはり小僧の考え方は刺激が強すぎるねぇ……確かに単純に考えればこんな物は簡単に思いついて良い筈なんだけどね。それに気が付かないのが世間だという事を教えないといけない様だね……」


 と、テオドラにはそれはそれで頭の痛い事であった。


「まぁ、取り敢えずコレもあたしの勇み足ってのは解ったさ。で、何でそんな物を持ちだしているのさ。しかもこんな屋根まで建ててさ。この井戸に使う気なんだろうがそんなに深い井戸じゃないだろうよ」


 老婆の言う通り、街中の井戸は溜め井戸なのでそんなに深くは無い。水の少ない時期でも精々五、六メートル程度の深さしかない。


 実際にテオドラはコレまで普通に紐付きの桶で水汲みをしている。不便は不便だが滑車が必要な程でもない。


 だが目の前の六歳児は「フンッ」と鼻で笑い飛ばす。


「不便な物を不便なまま使うとか、そんなドMの様な真似をクラフターとしては見過ごす訳にはいきませんね。『ある方が楽』なのだから作るのは当たり前です」


 と自信満々に言い出し、テオドラは今度こそハッキリと溜息を吐く。


「そんな当たり前はこの世にないよ。まったく、世の中のクラフターってのはこんなはた迷惑な連中ばかりなのかねぇ。ただまぁ……最近水汲みで腰がきつくなってきたのは確かではあるね」


 結局。有るに越した事は無いと言う少年の言い分は間違いでは無い。間違いでは無いのだが、だからこそ実にタチが悪いと思うテオドラだった。



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はい、勉学が一段落したのでクリン君のやらかしは加速していきます(笑)

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