第192話 そして状況は移り行く。


小人との本格的な交流の始まりです。




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 小人達との邂逅により、クリンの生活は劇的に変わった。それまでは自分達への供え物だと思ってライ麦や野菜屑などを持っていくか、その謝礼としてクリンに気が付かれない範囲での手伝い(それは少年にはバレバレだったようだが)をしていただけの関係だった。


 しかしクリンに教わった時空神への祭事がその信仰する神に認められてからは、常に姿を現し本格的な交流を図る様になっていた。


 小人達は最初は無償でクリンの生活、および生産の手伝いを買って出たのだが、それは少年の方が断った。


 労働には対価が必要だと言うのが少年の持論であるし、タダ程高い物は無いと言うポリシーもある。


 と言うか、そもそも以前までの生活で散々買い叩かれて来た身であるので、幾ら『感謝の証』と言われようがタダ働きを認める気は無かった。


 ——と、言うのは実は建前である。本音の部分では、


『一人だから好き勝手に作れるのに、手伝いなんてされたら気を使ってアレとかコレとかソレとか作り難いじゃん!』


 と言うのが正直な所だ。クリンにとってクラフトは生きる手段であるが、同時に最大の楽しみであり娯楽だ。楽しく遊びたいのに突然他人に入り込まれてたまるか、と言う思いが強い。


 変態企業が作った変態ゲームを好んでプレイした廃人プレーヤーはやはり変態になる宿命にある。クラフター気質もここに究めりと言う所か。


 ただ、コレはほぼ物作りに関しての事だ。流石に拠点の開墾や素材集めでは人手は有難い。そこで拠点整備や建築中の家の作業に関しては特定の対価を払う事で人足として手伝ってもらえるような形にした。


 対価はライ麦であったり、小人族が欲しい食料や物資をクリンが買い集めて届けたり、神事の作法を教える事で対価とし、小人族はそれに対して労働を、又はクリンが森で集め切れない資材などの提供をすると言う形に落ち着いた。


 要するに労働を含むクリンと小人間の交易が始まったような物だ。


 こうして労働力を手に入れたクリンは、先ずは水路と溜池の掘り起こしを済ませてしまう事にした。家の方は自力で建てたいので手伝いは固辞したが、小人達に貰った屑鉄を加工する為にも水路の整備が必要であり、更には建築中の家の屋根を、今回もやはり簡易瓦で作る事にしたので粘土が必要になった為でもある。


 溜池の近くまでの水路は既に掘り終わっていたので、溜池の掘り起こしとその先の川に戻す為の水路の掘り起こしだけであったので、小人とは言え数百人分のマンパワーが入れば数日で掘り起こされてしまう。


 この作業は勿論クリンが主導している。他人任せは性に合わない為小人達の作業は主にクリンが掘り返した土や粘土の運搬だった。


 こうして掘り起こされた粘土は、クリンが瓦に作り替えていく。小人達の手が使える事で作業が楽になったので、少年は瓦にも少し拘れる余裕が出来た。


 そこでクリンは森で拾って来た木材を削り型を作って、曲線のある瓦を大量生産し始めた。小屋の方の屋根に使っていた瓦はまっ平で薄い物だったので、重りや木の枝と紐などで止める必要があったが、曲線を付ける事で厚みが出せてかつ水の流れも作る事が出来る。何よりも重量が増すので押さえなくても台風クラスの風が吹かなければ簡単に飛ばない。


 その瓦を焼いている間の火の管理は小人に頼める。しかも燃料となる炭はクリンの自作だ。コストが殆ど変わらない。多少ライ麦が要る位だ。それでその間に他の作業が出来る様になったのだから少年にとっては大変有難い事だ。


 その間にクリンは街で露店をする為の材料集めなどが出来る。この時も手製の弓を手に何時もの様に森へ入っている。のだが——


「で、何でロティは当然の様な顔で僕の頭の上に乗っているんです? 狩りのお供は頼んでいませんよ?」

「私はお爺様から、伝道者様……じゃなかった、クリン殿の護衛を命じられていますので。狩りに対しての手出しはしませんので、どうぞお気になさらず!」


「それ、最初の狩りの手伝いの話ではないですか? 継続なんて話は聞いていませんよ?」

「私も一回だけとは聞いていませんので!」


 と、朗らかに答えられ、クリンは一つ溜息を吐くと隣に視線を向ける。


「……隣でさも当然の様な顔で着いて来ているバウンも同じ口なのでしょうか」

「はいっ! 最初に森を案内しろとおじ……長から言われてその後の命令の変更されていないので、この子も護衛は継続中です!」


「バフン!」


 その通りだ! とでもいう感じでバウンが吠える。


「ハァ……で、本音は?」

「里の子供達にニンジャーの話の続きをせがまれているのです! 子供達はこの前の様な祭りでも無ければおいそれと里の外に出られませんから」


「ああ、この前のアレはそう言う……で、狩りの道中にその話を聞きだそうって事ですか」

「それだけじゃありません! クィン・シー達もクリン殿の言う『ニンジャッケーン』と言うのが気になっているそうです! できればそちらのお話も聞きたいな、と!」


「……ああ、そう言えばウッカリと銀色で流れちゃう麻呂眉犬の話をしてしまいましたね。アレは別に忍者犬の話では無く仲間に居るだけなのですが……まぁ良いでしょう。折角ですし、獲物の痕跡を見つけるまではそのお話をしましょうか」


 何だかんだで一人きりで森の中に暮らすクリンは割と会話に飢えていた。街に出た時にテオドラや露天商達と会話をしているがそれだけだ。


 最初の村ではそもそも会話が成立しなかったし、次の村でも会話らしい会話はほぼ門番ズとオマケのマルハーゲン達だけで、それも割と仕事がらみの業務的な内容が多い。まぁ最後の方は少し馬鹿話もしていたが。


 なまじ街で人間らしい会話と言う物をしてしまっている為、無自覚に人恋しさを覚えてしまっているのかもしれない。


 結局クリンは狩りの行き帰りに一人と一匹に請われるままに、前世の忍者絡みの話を、面白おかしく語って聞かせていたのだった。






 その様に押しかけ護衛と言うか強制事情聴取と言うか、紙芝居をねだる子供の様な感じで付きまとわれているのだが、悪い事ばかりでは無い。


 森の中を単独で警戒して進むよりは神経をすり減らす事は無いし、何よりもバウンがクリンが採取した物を運んでくれるのが大きい。


 狩りの最中はサイズが大きいと獲物が警戒するので小型化してついてきているが、荷物を運ぶ時は大型化して運べるため、運搬量が段違いに上がっていた。


 特に助かったのは伐採した樹木の運搬だ。斧を作りそれまでよりも幹の太い木も伐採出来る様になったのは良いが、重量の関係で少年には運び出す事が出来なかった。


 オーラコート 《筋力増強》を用いれば運べなくはないが、クリンの現在の魔力量ではそれを使っても精々拠点の周囲数メートル以内を運ぶのが限界だ。


 運ぶ重量、増強する筋力量が上がれば上がる程魔力の消費が激しくなっていく。鍛冶作業で使用しているが一度に維持できるのは数分程度だ。


 なので、折角斧を作ったは良いがほぼ薪割りにしか使用していなかった。それをバウンが伐採にもついて来るとなると、多少太い幹も小さく切り分ける事もなく丸ごと運んでもらえる。


「いやぁ、こればかりは本当に助かります。一メートル程度の長さにカットすれば僕でも運べなくないですが、それじゃぁ太くて長い木を切り出す意味無いですからねぇ」


「バフフンッ、バッフ!」

「『伝説のイーガニンジャー犬に負けられないから、どんと任せてくれ!』だそうです」


「…………そうですか。いや……ありがとうございま……す?」


 バウンの言葉を翻訳したロティに、微妙な表情で一応礼を伝えて貰う。何か、もう引き返せない所に来てしまっている予感がヒシヒシとしたのだが、取り敢えず伐採の方が大事だったので、クリンは気にしない事にした。してしまっていた。


 こうして、微妙に怪しい方向に誤解が増えつつも、小人達とクィン・シー達の助けを借り、クリンの生活拠点はどんどんと充実していく。


 水路が一通り掘り終わり、晴れて川から水を引き込み水路と溜池を満たしていく。その様子を小人達も喜んではしゃぎながら見ている。


 クリンもこの時ばかりは「これで川まで行かなくても水浴びが出来るっ!」と大いにはしゃいでいた。


 そして量産した瓦も十分な量が焼き上がり、骨組みを仕上げた屋根に積み上げて行く。基本的には土壁の小屋で遣ったのと同じだ。まだ板に加工できる程の設備が無いので細い丸木を組み、防水シート代わりの大きい葉を敷き詰めてその上に引っかかりとなる干し草と枝を組んでいき瓦を積み上げて行く。


 まだ完全に壁が出来ていないが、これで取り敢えず雨が降っても安心になった。そうなると、次に待っているのは——


「鍛冶の時間だぁぁぁぁぁぁぁっ! 壁を仕上げても良いけれどもいい加減鍛冶がしたいんだ僕はぁぁぁぁぁぁっ!」


 と、言う事らしかった。






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小人達と交流が始まれば話はかなり早く進んでいく(笑)

まぁ次回か鍛冶シーンなのでまた流れは滞るだろうがな!


そしてクリン君のやらかしが徐々に花開いて行く……

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