第191話 小人は確かに情報収集が得意であった模様。
遅くなりました。そして今回は少し短いです。
……3,000文字あるのに短く感じると言うのは割と末期症状ではないかと思わなくもない今日この頃。
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その日の夜。クリンの建築中の家の前の広場は祭りになった。『お祭り騒ぎ』ではない。セルヴァンを祀ったなんちゃって社を囲んでの、小人達が食べ物を持ち寄って飲んで騒ぎ、踊って歌う文字通りのお祭りだ。
「いや、ここ僕ん家の前なんだけど。何か普通に小人族に占領されているね」
眼前で広げられる騒ぎをぼんやりと眺めながら、クリンがぼやく。急遽決まった小人族のお祭りだがクリンは賓客として祭りに招かれた立場になっていた。
「だからここ僕ん家なんだけど。何で家の前で他種族が祭り開いてそれに招かれて居んだろうね? 普通逆じゃね?」
普通こういうのは自分達の住居、つまりは小人の里で開かれる物では無いのか、と言う思いがある。招かれるのなら普通は里の方だろう。建築中とは言え自分の家のまん前で勝手にお祭りを開催されたら招かれている気分も何もないと言う物だ。
「どうしました伝道師殿!? 暗い顔は祭りには不要ですぞ!?」
既に出来上がっているらしい小人族の長にそんな事を言われ、
「ですからその伝道師ってのもやめてくれません? 使徒よりはマシですが大して変わらないですよその呼び方」
と、クリンが苦い顔で言うが長は赤ら顔で大笑いする。
「ハハハハハ! コレまでの様子から貴方様がそう言う呼ばれ方をするのを嫌うのは解りますが、申し訳ないですが今日だけは我慢してくだされ! 何せこれ程目出度い事はそうそうありませんからな! 後日からは先程の様に呼ばせて頂きます。ですがこの日ばかりは貴方様に最大の敬意を払わせて下され!」
と、取り合う様子も無く上機嫌で注がれていた杯を傾けていた。その様子にクリンは「まぁ使徒様と祭り上げられるよりは遥かにマシか」と半ば諦めの溜息を吐く。
あの時、捧げ物をしたらセルヴァン像が輝きだすとか言うイレギュラーが起きたり、捧げた供物であるスープ粥が光となって消えたり、聞き覚えのある声が小人たち全員に聞こえたりと言う、クリン的には勘弁してほしい出来事が起きたのだが、少年が思っていたような事態にはならなかった。
クリンは神託と受け取られるかと身構えていたが、小人達には「普段からのお祈りに対するセルヴァンからのお褒めの言葉」と受け取った様だ。
実際にあの時に聞こえた言葉では変わった祈りだが殊勝な態度が認められた上に、供え物も新しい粥だけでいいから無理をするな、と言う意味の言葉だけだ。
何か特に命令された訳でも無いので、小人的には信仰心を認められたご褒美的な感じらしい。どうやらこの世界では極めて稀ではあるが起こる事らしい。
ただセルヴァン神が直接声を掛けたのは小人が知る限り初めての事らしく、その珍事を引き起こした祀りの作法を教えたクリンの事は、使徒というよりも信仰の伝道者と言う立ち位置になったらしい。
最大の感謝を込めて小人達が取り仕切る突発の祭りに主賓として招かれ、これからもセルヴァンを祀る為に他の祭事も教えて欲しいと懇願されていた。
クリンは一度教えているし、使徒として祀られるよりは遥かにマシだと考え了承し、こうやって多くの小人に囲まれて祭りを眺めている、と言う訳である。
当初は小人達がそれぞれ自慢の祭り料理を持ってきたのだが、その料理の材料の大部分はクリンの家から持って行ったライ麦や知らない間にくすねられていた野菜屑とかが材料だ。
有難みが微妙に無かった事と小人サイズの料理はどれも親指の先サイズであり食べて味の感想を聞かれた所で、ほぼ味が分からなかったので以降は辞退している。
代わりにクリンが作ったスープライ麦粥は里に残っている小人達も含めて全員に行き渡っても余る量があり、全員が一度は口にしたそうだ。
尚残った分はクィン・シー族が全て平らげている。犬に塩味付けた物は良いのか、とも思ったが犬型の精霊獣であって犬では無いので人間の食べ物でも平気との事だった。
祭りの席なので酒も進められたのだが、料理と同じく小人サイズなので一滴程度の量しかなく、クリンが本気で飲んだら小人達の分を丸ごと飲む羽目になるので、まだ子供であると言う事を盾に断った。
やがて夜も深くなり祭りが終わりに差し掛かると、小人達がある物を運んで来た。
「アレは?」
大勢の小人達が集まって運んで来る様子を不思議そうな顔でクリンが見ていると、小人族の長は居住いを正し、咳ばらいを一つする。
「今回は我々小人族に多大なるお骨折りを頂きましたからな。それも時空神様に認められるような神事まで教えて頂きました。ささやかではありますがお礼をしないと我ら小人族の矜持に関わります。ぜひ受け取って下され」
「ああ、そう言うのは良いです。別段お礼を受けるような事では無いですし。それに僕もロティとバウンのお陰で楽に狩りができましたし、新たな狩場も見つけられましたからね。そして皆さんのお祭りに参加させてもらっただけで十分です」
と、断ろうとしたのだが——
「伝道者様ならそうおっしゃると思いました。ですが、コレはぜひ受け取って頂きたく。貴方様が普段から欲しいと仰っていた物ですので」
「え、僕が欲しいと言っていた物? 何だろ……?」
首を傾げて目の前に運ばれて来た物を目にし——クリンは思わず目を見開く。
「こ、これは……っ!?」
「実はですな。つい先日森の奥に巣食っていたいたデミ・ゴブリンの集落が森のファングボアの群に襲撃されて壊滅していましてな。その跡地に残っていた物を皆でかき集めていたのですよ」
そう言ってクリンの目の前にある、山と積まれた錆びた剣や鏃、鉄製の胸当てなど——つまり、鉄材を掌で指し示した。
「て、鉄っ!! 金属っ!! それがこんなにっ!!」
規模が分からないがそれでもデミ・ゴブリンの集落一つ分の量の鉄材である。小人が運べるサイズと量であったとしてもコレまでクリンが買い集めた以上の量がある。
「我々も、どういうお礼が良いのか頭を悩ませたのですが……貴方様の行動に詳しい物によると、コレが一番喜ばれるのではないかと言われましてな。いかがでしょう?」
「ほ、本当に……本当に貰ってもいいです!?」
「ええ勿論。寧ろこのような物で良いのかと思う程です」
「とんでもありません、コレでいいです。いえ、コレがいいです! これ以上のお礼はありません、と言うか本当にいいんですね!? 返せと言ってももう返しませんよっ!?」
クリンの余りにもの剣幕に寧ろ小人族の長は引き気味であったが、
「そ、そんな事は言いません。ですが……そこまで喜ばれるとは。本当に鉄が欲しかったのですなぁ……」
「勿論ですよっ! 鉄を貰って喜ばない人間なんて居ません! いやぁ、最初は人のご飯かっぱらって行くわ祝詞教えろだなんだと面倒な事を言った挙句に勝手に人の家の前で祭り開いて面倒くせぇなぁとか思っていましたが、こんなお礼を頂けるのならいくらでも苦労しますし我慢もすると言う物ですよっ! いやぁトントン族と言う小人達は良い小人達だっ! ヒャッホウ、これであれもこれもそれもつくれるぞぉぉぉぉぉぉぉっ、フゥーッ!」
周囲の状況も忘れてその場で小躍りを始める。
たかだか鉄、それも錆びだらけの物を貰ってここまで喜ぶ人間は少年以外居ない気もするのだが、クリンにとってはどんな宝物よりも有難い物であり、テンションが爆上がりすると言う物。
代わりに、少年の上がりまくったテンションについて行けず、小人達のテンションはダダ下がりし、程なくして祭りはお開きとなるのであった。
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小人の祭りが終わってクリンの祭りが始まる(笑)
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