第188話 出合いの時。それはやらかしの第一歩でもある。


もう開き直って暫くはこの位の時間の更新で行こう、うん(笑)



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 色々とあってクリンは小人達に祭事用のライ麦粥の作り方を教える事になったのだが、その為には色々と集める必要が出た。


 今回はココでお開きと言う事にし、後日改めて作り方を教える運びとなった。


 その間にクリンは森で必要な素材を集めようと狩りに出ようとしたのだが、小人族の長が巨大な生き物を伴って少年の下に現れた。


「デカっ!! え、牛? い、いや顔的には犬? でも幾ら大型犬つったって、こんな大きな犬なんて聞いた事無いよっ!? まさかモ〇の君とかの一族!? いや、アレは五メートル越えだから流石にソレよりは小さいけど……」


 見た目はモフっとした犬だがサイズが桁違いで、体高は一・五メートルを優に超え全長は二メートルは無いだろうが百七十センチは余裕で超えている。ほぼ成牛と同じサイズ感だ。やや愛嬌のある顔立ちだが赤く光る眼が恐怖を煽る。


「牛や犬ではありません。いや、犬に近くはありますし犬の眷属も従えてはいますが、この者は我らの里を守るクィン・シーの一族。れっきとした精霊獣であります」


 小人族の長によれば、精霊獣は既存の動物に近い特徴を持った精霊と獣の中間の様な存在で、精霊寄りではあるが肉体を持つので精霊では無いらしい。精霊は肉体を持たないそうだ。正確には霊力を持たない人間には姿が見えずに肉体が無いように見えるらしい。


 正直定義が今一理解出来ないが「そう言う物」と取り敢えず納得する事にするクリン。「ま、いいか」の精神はココでも生きている。


 精霊獣はその性質から妖精族と親和性が高く、特に小人族は特定の精霊獣の種族と共生関係にある事が多いらしい。


「クィン・シー族は古より我らトゥムトゥム族と共生している一族でしてな。我らトゥムトゥム族は森の中に小人の里を作っているのですが、彼らはその里を脅かそうとする相手から守ってくれている、いわば里の守護者ですな」


 森の中の里と言っても直接存在している訳ではなく、妖精界と呼ばれる一種の異次元空間にあるのだとか。妖精族は基本的にその様な異空間を作り集落を作って暮らしているとの事。族毎に様々な場所で異空間の集落を築いているそうで、トゥムトゥム族の場合はその場所がこの森の中、と言う事らしい。


「この者は我らの里の守護者の一体です。名をバウンワウンダルボルと言います」


 と、小人族の長はお座りの姿勢でたたずむ巨大な犬——精霊獣を指し示して紹介する。


「バフンッ!」


 まるで「よろしくな!」とでも言う様に尻尾をパタパタさせながら短く吠える。このサイズなので中々の迫力だ。


「ええと……バウワウンダルボル……ダメだ覚えられない……」

「ははは。流石に精霊獣の名は人族には発音しにくいし聞き取り難いでしょう。バウンとでも短く呼んでやって下され」


「分かりました。初めましてバウン、よろしくお願いします」

「バフン!」


「……もしかして、人間の言葉が理解出来ています?」

「勿論です。犬に近い容姿ですが精霊獣ですからな。喋る事は出来ませぬが言葉を解す事は当然できますぞ」


「バフッ!」


 そうだ、とばかりにバウンが吠える。正直クリンには「何が当然なのか」と思う所なのだが、取り敢えずはそう言う物かと納得する。


「それはそうと、何で僕は今この精霊獣? を紹介されたのでしょうか?」

「おお、肝心の説明をしていませんでしたな。その格好を見るに森の中に入られるおつもりではありませんかな、クリン様」


「はい、その予定です。が、そのクリン様ってのは止めてもらえません? 何か偉そうに聞こえるので……」

「では来訪者様」


「それはそれで色々とバレそうなのでやめて下さい。名前で呼んで構いませんから様は付けないで貰えませんかね」


「ではクリン殿。我らの立場上呼び捨ては出来ませぬのでコレでご容赦を」

「……うぅん……六歳で殿呼ばわりされるのもアレなんだけどなぁ……仕方無い。もうそれでいいですよ」


「ありがとうございます。ではクリン殿、森に入られるのなら是非ともこの者を共としてお連れ下され」

「え、この犬……じゃないや、精霊獣さんをですか? 何でまた?」


「今回森に入られるのは我らに特別なライ麦粥を教える、その材料を集めるつもりなのでしょう? 我らの為にお骨折りいただくのですから、森の案内並びに護衛としてせめてこの者を共としてつけさせて下さい」

「えぇ!? そんな大げさな……いつも通りの狩りだから別に気にしなくても……それに、その巨体と威圧感ですとかえって獲物が逃げてしまいそうなのですが……」


 クリンが難色をしめすと小人族の長は笑って、


「ははははははは! その辺はご心配めさるな。バウンワウンダルボル!」


 小人族の長が精霊獣の名を呼ぶと「バフフッ!」と勇ましく吠え、見る間に精霊獣の身体が縮んで行き、体長一メートルを切る位の大型犬サイズになった。


「お、おおっ!?」


 予想外の事にクリンは驚いていると、精霊獣は「バッフ!」と自慢そうに吠える。サイズが小さくなった事でモフモフ度合いが増し威圧感が減っている。だが赤く輝く目はそのままなので特に印象的だ。


「……赤目……そう、赤目って名前の犬が居たな。何だっけ……忍者犬? ああ、思い出した、銀で流れちゃうお犬様の話だ! 忍者もどき集団に飼われている忍者犬とか出来過ぎだろう!」

「……ニンジャー? 前にもその様に呼ばれていましたな?」


 思わず突っ込んでしまった言葉を聞き留められ、クリンは慌てて咳払いをする。


「ゴホンッ! 何でも無いです、お気になさらず! しかし、精霊獣って言うのは凄いですね、こんな事も出来るのですか」

「はい。我らもそうですが彼らも時折人の里に出向く事も有りますからな。人の世に合わせた姿になる事も当然できます。そして……おいでなさい、ロティム・トティム・パッセルト・ポチャムン・キラムン・バンタリア・トゥムトゥム!」


 小人族の長が背後に向かってそう呼ぶと、


「はい、おじい様!」


 と元気のよい声が聞こえ、ついで「とう!」と言う掛け声と共に小さい影が飛び出して来て、クリンの目の前でクルリと一回転して着地する。


「初めまして来訪者様!私はロティム・トティム・パッセルト・ポチャムン・キラムン・バンタリア・トゥムトゥム! 族長、ランティム・トムティム・ホロイスラー・ポチャムン・キラムン・バンタリア・トゥムトゥムの孫です、よろしくお願いします!」


 かしこまった様子でそう言われ、クリンは——


「だから長い、名前が長いって! 祖父も孫も! というか来訪者と様は止めて!」


 と、目の前の小人族の少女、ロティム・トティム・パッセルト・ポチャムン・キラムン・バンタリア・トゥムトゥムに向かって盛大に突っ込んでいた。


「いや、申し訳ありません。呼称の事は後で一族に通達しておくので今はご容赦を。そして、我らの名が長いのは一族の伝統でしてな。呼びにくいようでしたらロティム・トティム・バンタリア・トゥムトゥムと呼んでやって下され」

「いやいや、それでも長いでしょっ! 半分位にしかなってないよ!」


「……ではロティとでも呼んでやって下され」

「最初からそっちで紹介してよ!? って、実は貴方達も名前長くて面倒だから普段からそう呼んでいるんじゃないです!?」


「はて何のことか解りませんな。この者は名乗った通り、私めの孫娘です。精霊獣は人の言葉は理解出来ますが話せません。ですが、我らは長年の交流により彼らの意思が読み取れるのですよ。要するに通訳ですな。意思疎通の為にもこの者も共としてお連れ頂きたく思います」


「頂きたく思います、らい……じゃなかった、クリンさ……クリン殿!」


 祖父と一緒に頭を下げたロティはパチンと片目を瞑ってクリンに言った。それに対してクリンはニッコリと笑って、


「似合わないのでウインクはしない方がいいですね」


「「……なんですとっ!?」」


 何故か言われたロティだけではなく小人族の長も驚愕の表情を浮かべたのであった。





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ようやく小人少女の登場……そしてチラホラとクリンのやらかしの種まきがなされていますなぁ(笑)

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