第158話 転生少年と魔法。



皆様が☆や♡、感想で応援してくださったお陰で原稿消失のダメージから抜け、モチベーション爆上がりで続きが書けています(*´ω`*)

皆様の優しさに心洗われる重いです。

因みに異世界ファンタジーの週間ランキングも93位に爆上がりだっ!

まさかこんな形で100位突破するとは(笑)



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 結局、その日に教えられたのは簡単な魔法の説明だけで、本格的な魔法の勉強は翌日からになった。浄水器に使う材料の洗浄にかなり時間が掛かった為である。


 コレまでは数日置きに手習い所に来ていたのだが、この六年使いたくても使えなかった魔法を覚える為とあって、狩りや素材集めの頻度を落とし露店だけは売る品物の数を減らして週に(十日)一度ペースで商っていたが、その日以外はほぼ毎日テオドラの元に押しかけていた。


 テオドラから教わるのは初歩の魔法、所謂生活魔法と呼ばれる部類の物で、HTWの時代に使われていたような魔物を攻撃したり、クラフトの作業を代替するような大掛かりな物では無く、焚き付けに火をつけたり、布を軽く濡らしたり、そよ風を送る様な本当にささやかな物だった。


 それでも魔法に憧れていた少年は、テオドラが手本として見せた発火(イグニッション)の魔法や起風(ブリーズ)の魔法に、手を叩いて大はしゃぎして老婆をドン引きさせた。


 テオドラの元で初歩魔法を学ぶ事一ケ月と少し。その間も露店を続けボチボチと売り上げも伸びてきている。


 その露店も済ませ、手習い所での学習も無いこの日、クリンはこの森で住むようになってから念願を果たす事になる。





 そう。念願の「鍛冶作業の再開」である。その為にテオドラの手習いに足繁く通いながらも、帰りに時間を見つけては必要な物を揃え集め、森の中ではひたすら材料を作り溜めていた。


 先ずは今のクリンの作業に必須とも言えるラード作り。コレはブロランスの街では汚物の処理として豚が飼育されていたので、その豚を落とす際に出る脂身をもらい受けた。ただ、農村で育てられたり森に自生するファングボアなどと違い、やはり栄養が悪いのか大体の豚が痩せて筋張っており、取れる脂身の量は少なかった。


 幾つか養豚をしている場所を訪ねて、買い集めてはいたが中々纏まった量が取れず、チマチマと油を抽出しては溜めて行った。

 結局最終的にはダンジョン産の品を扱う行商人から運良くボア系の魔物肉を仕入れたと言う集団を見つけ出し、交渉して安く売ってもらって必要量を確保した。


 何よりも街の豚から取れた脂身から取ったラードは肉質の悪さから結構臭かった。食用には一切せずに工業用油としてだけ使う予定だが、それでも毎回温めるだけでかなり臭いがきつく、割と切実に食用に出来る程に質のいい脂身が欲しかったのが理由だ。


 他にも市場を巡って屑鉄を買いあさり、ついでに食堂を巡ってカタツムリの殻を手に入れ、森に入っては小動物を狩って毛皮を取り、肉は美味しく頂いたりテオドラへの手土産にしたり、骨は乾燥させて粉末にし、薪を集めては野焼きの炭を作り溜めた。


 こうして着々と下準備を進めてきて、晴れてようやく本格的な鍛冶作業の開始と相成った訳である。






 魔法はどうした、勉強していたのじゃなかったのか、という声が聞こえて来そうだが、ぶっちゃけあんな物はゲームとは言え前世で高度な魔法をガンガン使って来た人間である。魔力の使い方とこの世界の魔法言語さえ覚えたら、三日もあれば初歩魔法などすぐに使える様になっている。その後はただひたすら魔法言語の理解と魔法単語を記憶して、HTWの魔法との差異を修正すれば元から魔法が使えるゲームキャラ、直ぐに使えてしまった。


 コレまでクリンが魔法を使えなかった理由は実に単純。魔力はそれ単体では体内を巡るだけで特に変化しない為である。


 魔力と言う物はこの世界の人間なら誰しも持っている物である。つまり、血液や血中酸素の様なもので普通に体内を循環している物である。


 ファンタジー物にある様な、体内で魔力を循環させようとしてもやり様など精々が心拍数を上げる位である。自力で血中酸素や養分を自在に動かせる人間が居たらそれはマー〇ルやD〇コミックに出れる様なヒーロー位だろう。


 神に調整されたボディとは言え、ごく一般的なこちらの世界の人間であるクリンにはそう言う事は出来ない。なのでコレまでは動かしようが無かった。


 だが、魔法の使い方を覚える事でその魔力が体内を流れる自覚が出来て初めて多少の操作が可能になる。しかし、それだけでは体内で循環して終わりである。


 魔力を魔法として変換させるには体内魔力とは別の、この世界の大気に自然に混じっている自然魔力、ファンタジー的な言い方をすれば魔素を酸素と共に吸入し体内魔力と化合させて反応を起こす必要が在る。


 前世で言う所のバイナリー反応の様なものだ。それを引き起こす事こそがこの世界での魔法を使う為のプロセスである。


 このプロセスを知らなかった為にクリンは魔法を使えず、元から循環している魔力も操作などしようが無く増やし様が無かった、という訳である。


 そして、この世界ではそれだけだとただ無意味に魔力が反応してタレ流れるだけである。それを魔法としての方向性を定めるのが「魔法言語」であり、要するに体内で反応させた魔法力を音として体外に放出し、大気の魔素と化合させて魔法現象を発現させている。


 この辺りはテオドラの説明からクリンが自分なりに解釈して言語化した物なので、正確ではないかもしれない。だが、少年自身は大体コレであっていると考えている。


 詳しい事はまだ検証中だが、本来は特定の音階で魔素を振動させればいいのだが、それでは現象が定まらない。音に言葉としての意味を持たせる事で、言葉に意思が乗り魔法の発動者が望む形へと変化し「現象」を再現させている。


 魔法言語だけでも意味が通じるのなら魔法は発動するが、細かい部分は汲み取って貰えず、ある程度のイメージを固めないと効果は弱まる様だ。


 従ってこの世界では魔法は「音を出す」必要が在り、異世界物に良くある無詠唱と言う物は出来ないらしい。ある程度の簡略化は可能だが最終的には発動の為のキーワード的な言葉はどうしても必要で、それでも途中の詠唱を省いている分効果はかなり落ちるとの事。頭の中で呪文を唱えると言う定番の方法も「他人の頭ん中なんて誰が何のためにくみ取るんだい」とテオドラに鼻で笑われた。


『まぁそれが出来るならそれは既に魔法では無く超能力だね』


 とクリンも思う。まぁ面倒では在るが「イメージだけで再現できる」とか言う雑な方法よりもシステマチックな法則に従って使える方が少年的には楽だし馴染んでいると言える。


 大体、魔法の「結果」を確固たるイメージを固める位なら、何も考えずに脳筋で言葉を唱えてその言葉の持つイメージに引っ張られる方が余程早いのではないかと少年は思う。


「何せ何か作っている最中でも別に作りたい物の構造を考えちゃう位に雑念の塊だからね僕。それに集中したら最終的にはなーんも考えていないし。イメージだけで魔法を使えとか言われても逆に無理ゲーな自信があるね」


 それが最終的にクリンが思った事だった。


そんな訳で、魔法言語で文法が作られ単語が存在しているこちらの世界の魔法はクリンには分かりやすく、HTWの魔法との互換性もあるので魔力の反応のさせ方さえ解ってしまえば、後は魔法言語を丸暗記するだけで良いし、文節を慣れ親しんだHTWの呪文に対応させれば、初級魔法などあっという間に習得出来てしまうと言う物である。


 本格的な魔法になるとスキルが無いと安定性に欠けるし魔力の変換効率が悪い。それに魔力量も関係してくるので、先ずは初歩魔法を使って魔力量の底上げと、初歩魔法スキルの発現を待つだけである。


 それまではスキル無しでも使える初歩魔法か効率の悪さを前提に無理矢理本格魔法を使うかするしかない。


 因みに魔法陣の方はどうなんだよという話になるのだが、此方はまた別の理論が存在するらしい。これに関してはテオドラはサワリしか知らず、また今は特に関係無いので割愛する事にする。何れ機会があれば述べたい所だ。


 兎にも角にも、クリンにとって魔法は使い方が分かってしまえば特に固執するほどの事も無いので、最初の食い付きは何処へやらでサックリと学習を済ませている。

 その辺の態度の落差がテオドラには肩透かしを食らった様な気持ちだったとの事。





「そんな事よりも今は鍛冶だね! まだ壁は無いけれども、鍛冶場も出来ているし必要な物も大体そろったし、鉄も十分な量が集まった! となればやるしかないでしょう!」


 この時の為に和式鞴も新たに作成済みだ。ただ、この鞴はクリンの中ではまだまだ未完成品である。前の村で作った物も同じなのだが、内部構造がまだ十全に再現出来ていないのだ。鞴の箱の上下にラードを刷り込んで滑りを良くしているが、本来の鞴なら上蓋と底板に良く磨いた銅板を張り付けている物だ。良く磨いた銅板が一番引っかかりが少なく滑りが良いとされている。


 そして空気を送り出す為のシマ板と呼ばれる部分に、箱に密着しながらも滑りが良くなり空気を沢山送り出せるように毛皮を張り付けておくものなのだが、クリンは前の村から持ってきたウサギの毛皮を付けている。だが余り滑りは良く無く前世だとテンと言うイタチ科の動物の毛皮が一番良いとされ、次に狸の毛皮も良いとされている。それ以外の毛皮は基本「代用」扱いである。


 勿論、毛皮を使わない方法もあるのだがその場合は頻繁に交換が必要になって来るか、若しくは現代科学で作られた人工物だ。手に入れたくても手に入らないし、入ったとしても銅板を張っていないこの鞴では摩耗が早くなるだけだ。


「まぁ、銅板を手に入れるなり作るなりするのにも時間が掛かりそうだし、当面作れたとしても鉄板で代用するしかないんだけどね」


 現状のクリンでは鍛冶屋か鉱物屋に行かないと銅を手に入れにくい。もっとも、本当は手に入れようと思えば簡単に手に入る。


 銅貨を鋳潰せばいい。元々その為に銅貨という物が生まれたので、銅のインゴットの様な物である。ただ、それをしてしまうと銅貨の流通量が変わってしまうし、国次第では銅貨に何を混ぜられているか分からない。そして純粋にクリンの財産が目減りする。


 あまり現実的ではない方法なので今は諦めている所であった。まぁ、それもこれも後の話であり、現状の鞴でも土器式の物よりは効率が良いのは間違いなかった。


 この鞴を使って今回作ろうとしているのはクリンにとっての必需品——ヤットコである。前の村で使っていた物は鍛冶場の備品であったため持ってこれず、また当時のクリンの手持ちの鉄材ではハンマーヘッドを作るのに手一杯でヤットコにまで手が出せなかった。


 今はまだ殆ど鍛冶をしておらず、精々が鏃程度なので木の枝で何とか誤魔化せていたがこれからはそうはいかない。なのでヤットコを作るのは大前提である。


 そしてもう一つ。斧を作るのも目的である。何時までも掘っ立て小屋に毛が生えたような土壁の小屋では不便なので、そろそろ新しく建てかえたい所なのだ。その為に森の中で使えそうな木材は拾い集めていて、大分集まってはいるがもうそろそろちゃんとした木材を採取したい所だった。


 この二つを作れば集めた鉄材は殆ど使い果たす。もしかしたらナイフ一本作れる位の鉄は余るかも知れない。頑張って集めてもその程度だ。だがヤットコと斧は絶対に必要な物なので作らない訳にはいかない。


「だがしかーしっ! すんなりと作り始められないのは何時もの事だっ!斧とヤットコを作る、前に作る為の材料を作る所から始めないと駄目なんだな、これがっ!」


 クリンが集めた鉄材はほぼ屑鉄だ。そのままではただ熱しただけでは使えない。この屑鉄を材料とする為には、屑鉄を一度鋳溶かして再生させる作業、所謂、卸金おろしがね造りが必要になる。


 つまりクリンがこれから取り掛かろうとしているのは卸金を作る作業——俗に古鉄卸ふるがねおろしと呼ばれる作業だった。





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調子に乗ってまた4700文字近くあるが許してねっ!

因みにこの魔法をアッサリと覚えるのは最初からの予定です(笑)


だってワシ、魔法使いじゃないから魔法なんて使った事無いから詳しく書けんのよ……(;´Д`)


後、ココの所投稿遅くなっていたからフライング投稿してみたっ!(笑)

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