第155話 クラフターの矜持


この回実は何度も書き直していてえれぇ時間くったんですよ。ギリギリ投稿に間に合った! ズサーc⌒っ゚Д゚)っ

なので誤字あると思いますがご容赦を(笑)



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 麦湯へのどこまでも不評なテオドラの評価に、クリンは自分だけでの消費に留め販売はしない方針へと頭の中で傾けていると、


「小僧は何処か力の入れ方がおかしいね。ズレていると言っていいかも知れない。この麦湯とかもそうだけど、あの背負子も相当バカバカしい物だよ。普通はあんな物をあんなクオリティで作ろうなんてしやしないよ」


 不味そうにコップを傾けながら、テオドラがクリンが背負ってきた背負子に目を向ける。


「見た所、木材も目の詰まった丈夫そうな物を使っているし、歪みも無いしがたつきも無い。実に運びやすそうな肩紐に丈夫そうな底板。背中には草縄をクッション代わりにして、予備の縄まで常備していると来た。お前さんは一体コレを幾らで売る気なんだい?」


「や、コレは売る気は無いですよ。単に家から荷物を運ぶのに便利な様に作っただけです。売る事は考えていません?」

「はぁ? お前さん毎回こんな物を付けて売る気かい? そいつは頭がおかしいって物さ」


「ですから売る気は無いですよ? コレが無いと帰りに荷物持って帰れませんし」


 どうも話がかみ合っていない様子に、クリンは詳しく話を聞くと、どうやらこの世界にも背負子はあるのだが、普通は「その背負子ごと売る」物だそうだ。


 そもそもがクリンの様に何種類もの商品を背負子に積んで露店を開く位なら、荷車を使って運ぶのが普通らしい。背負子は前世で言う所の「パレット」みたいな物で、同じ品物を纏めて運ぶ時に使う物だそうだ。だから通常売る時は一々荷解きしたりせずに背負子ごと纏めて売ってしまう物らしい。


 その方が荷車を持っている者なら収納しやすいし、無い者でもそのまま背負子を使って持ち帰れる。クリンの様なバラ売りをする場合はそもそも背負子を使わない。


 だからこの世界の背負子はクリンが作っていた様な即席の物に毛が生えた様な雑な物が主流だし、材料を厳選して何年も使えそうな丈夫な物を作ったりはしないそうだ。


「だからこんなしっかりとした背負子を作ろうなんざ、普通は考えないさね。売るにしても丈夫過ぎて高価そうだから敬遠されるし、タダで付けてやるにゃ手間が掛かり過ぎだよ。この麦湯だってそうさ。こんな焦げ臭いにおい付けて、確かに水が飲めるようになるかも知れないけどね、そんな手間かける位なら普通にエール仕込んだ方が早いさね。わざわざ変わった事をする必要なんざ何処にもないだろうよ」


「そうですか? 同じものでもより丈夫な物の方が良いですし、同じ構造でもより便利な方が楽になりませんかね」


「同じ物なら同じ物でいいじゃないか。多少便利で多少丈夫にした所でどれだけ変わるんだい? そして変わった所で元の物と大差ないだろうさ。それなのに作る手間は増えるし値段も上がるだろうよ。それなら今までの物で今までの値段の方が良いさ。必要だと言うのなら今までの物を変える位なら新しい物を作る方が良いさね」


「……それだと何時までも不便なままじゃありません? それに新しい物だってそんなポンポン作れないし考え出されないでしょう。必要な物なんて、大体は昔の人が既に考えているでしょうから」

「そうさ。だからある物を今でも使い続けるのさ。既に大体の便利な物は世の中にある。わざわざそれを多少便利にして金を掛ける必要は何処にもないさね」


 テオドラは「やっぱり苦くて飲み難いねぇ」と言いつつコップを机に置く。その様子を眺めるとは無しに眺めながら、クリンは、


『……中世西洋圏の合理主義的思考の強化版みたいな考え方だね。成程、文明の進歩が鈍化してセルヴァン様がヤキモキする訳だよ。前世だと魔物が居ないから、自分達で生み出さなくても他文化圏と争って文化を奪う事が出来たけど、魔物が多いコッチだと人間同士の争いが少ないかタイムスパンが長いんだろうね。新しく作らないし奪えないなら、そりゃぁ文明の進歩が遅くなるのも頷けるってモンだよ』


 と、内心で考えていた。良し悪しは別として、前世ではほぼ絶えず人間は人間同士で争い、相手を征服する事でその文化文明を取り込んで来ている。自ら生み出す事もあるが、それも人間同士の争いの過程で生まれて来た物が大部分だ。


 だからクリンが作る様な道具が然程注目されない。現状、彼は一足飛びに文化を進められる様な物は作り出せていない。作る為の材料も無ければその道具も無い。結果としてそこにある物で現存する物の模倣ないし改良版を作るのが関の山だ。


 使う技術もほぼこの世界に既にある技法のみ。精々現代工学に基づいた造形を取り入れる位しか出来ていない。


 確かにクリンが作る物は便利では在る物の、この世界の人間にとっては「態々現存する物の形を変えたり素材を変えたりして喜んでいる変人」止まりでしかない。


 少年が今主力として売っている木皿も丈夫で扱いやすい形状で同業者に人気が出て来ているが、それもあくまでも値段が相場とほぼ同じだからだ。


 本来かけている時間と技術を考えれば相場の倍からは欲しい。しかし、それでは売れない。陶製の皿が売れないのが良い例だ。相場の値段で本来は木皿と同じく使用感は既存の物よりも使い易く形が揃っているので、木皿が売れているのだからこちらも売れてもおかしくない筈だ。


 しかし現実としては売れない。それは元々現地の陶製食器が値段が高い為に殆ど売れていないからだ。付加価値など彼らはそんなに気にしていない。


 気にする様な者は金持ちや貴族などの上流階級の人間であり、庶民はそんな物を気にしない。そして上流階級の人間が気にする付加価値と言うのは美術的及び資産的な価値だ。クリンが拘る使い易さや丈夫さなどは最初から気にしていない。


「しかし、ハッキリ言ってそれは僕的には面白くないんだよねぇ」


 それがクリンの偽らざる本音だ。便利、使い易い、丈夫。ソコに価値を見出されないなどクラフターとして容認など出来る訳が無い。


「僕は自分の事をクラフターだと思っています。そして道具と言う物は使う人の役に立ち、且つ使う人を幸せにし、使う人の生活を少しでも豊かにする物だと思っています。クラフターと言う存在に何か意味があるのなら、そう言う道具を作る事にあると考えています。ただ使えればいい、役に立てばいいだけなら道具など作らず、その辺にある石ころや棒切れを頑張って工夫して使えばいいだけです。それではつまらないから僕らクラフターは少しでも良い物を、少しでも役に立つ物を、少しでも便利になる物を考えて作っています」


「ハッ! 如何にも青臭い子供が考えそうな事だね」

「ええ。何せまだ六歳ですからね。ココは一つ子供らしく好き勝手に自分の思う通りにやろうと思います。使うだけなら適当な物でも良いのかもしれませんが、どうせ売るなら少しでもその人の役に立つ物がいいでしょう。その方が感謝されますし、相手も気持ちよく金を払ってくれると言う物です。そして、クラフター相手には『感謝の気持ちは現金で』というのが昔から決まっています」


「……そこだけは子供らしくない考えだねぇ」

「と、言う訳で先ずはこの街の皆様の認識から変えてみようかと思います。が、その前に先ずはドーラばぁちゃんの認識から変えてみようかと思います」


「誰がドーラだい、気安く呼ぶなっつってんだろうが小僧!」


 手にしていたもう一つのコップを机に叩き付けながら言うテオドラに、クリンはシレっと聞き流して、テオドラが叩き付けたコップを指差す。


「それ、最初に苦くて飲めないって言っていた大麦百パーの方の麦湯を入れたコップです。そしてライ麦入りの方はとっくに空になっていますね」


 言われて、テオドラは思わず手元に視線を落とす。その先には空になった二つのコップが並んでいた。


「……おや……」


「苦いマズイと言いつつも二杯ともに完飲してますね。あの薬湯が飲める人がこの麦湯が飲めない訳が無いと思っていたんですよ。ダメですねぇ、お代わりする時には『マズイ、もう一杯!』と言ってもらわないと。バーちゃんなんですから」


 とクリンは得意げな顔でそんなどうでもいい事を言うのだった。


 知らず知らずの間に完飲していたテオドラは、結局クリンから焙煎した麦を受け取り、淹れ方をしっかりレクチャーしてもらい、濾す為の布を張った茶漉しも同時に受け渡され、暫くは自分で飲んだり子供達に飲ませたりして感想をクリンに伝える事になった。





 何だかんだありつつも麦茶が無駄にならずに済みそうな事にクリンはホッと胸をなでおろし、背負子を背負い直して市場に向かう事となる。


 結構長い時間話していたので市場に着いたのは普段と同じ時間になっている。そして、何時交代しているのか不思議に思う位、毎回顔を合わせる受付の男に税を払って何時もの区画で露店を開く。場所は何となく前回と同じボロアパートの前にしている。


 商品自体は木製食器と薬、それとセルヴァン像のみと前回よりもラインナップは減ったが、背負子のお陰で量自体は増えた。注文分を除いて各サイズが四十枚、大皿が十枚、コップが三十。コチラはゴブレットタイプが欲しいと言われたのでその分が増えている。


「まぁ、運べる量は増えたけれど作れる量的に、コレが一杯一杯かな。何と今日はセルヴァン様の像は三体も持って来ているし! 何時もは一体だけだから売れなかったけれど、三体もあれば一つくらい売れるでしょ!」


 そう意気込む間に朝の鐘(九時)が鳴り市場が開放される。先ずは野菜売りに大サイズの残りと大皿、それから他の露天商から受けた注文分を卸す。


 その後、何人か噂を聞きつけた別の露天商が覗きに来て食器を買っていき、午後の鐘(三時)になる前には木製食器は完売した。注文の方も今回はゴブレット型のコップの注文が入った。薬の方もボチボチと売れた。


 なんちゃって正露丸はまだ売り出していない。まだテオドラから大量に渡した相手の経過を聞いていなかったので今回は見送っている。


 そして、なんとついにセルヴァンの神像が売れた。一体だけだが他国から来た商人が、自国で祀られていたのでセルヴァンの事を知っており、珍しさと懐かしさで購入してくれたらしい。


「何か国の神像よりも大分美化されている気がするなぁ」


 とはその商人の言である。


 そうして午後の鐘が鳴る頃に店仕舞いを始めたのだが——少年がすっかりと忘れていた——その途中でクリンはお礼参りの襲撃を受けてしまうのであった。





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はい、感想にもあった青汁ネタは、この回にぶち込む予定だったので、前回はスルーしていました(笑)

本当はコワモテのバーちゃんじゃなくてジーちゃんにやらせたかったんですが(笑)

意外とお茶目なドーラばあちゃんもたまには良いでしょう(笑)


そして次回は襲撃コース。

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