第152話 人使いが荒いのはこの世界のデフォルトらしい。



何か昨日投稿時間間違えたんだけれどもPVがすんげえ上がったんよ。

なので二匹目のドジョウを狙って今日も10時に投稿します(笑)

ま、土日は早く読みたいって人が多いのかも、っていうお試しです。


タダのお試しなので、明日からは何時も通りに17時に投稿予定です。



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 商売を終えて森の中の小屋に戻ったクリンは、早速なんちゃって正露丸の増産をしていた。と、言うよりも正確には残ったカンゾウの分量を使い切る為に正露丸に加工したと言うのが正しい。


 自作のほぼ掘っ立て小屋なのでこの手の生薬の保存には不安がある。専用の薬室を作っているなら話が別だがこの小屋で何時までも保管しておくと傷む未来しか見えない。


 クリン的には後チンピ(陳皮)粉末が欲しい所だったが、この世界にも柑橘類があると聞いてはいるが時期的に手に入らないし、この地域では薬として利用されていないらしく何処にも保管されていなかったので断念している。


「ま、秋になったら出回るし最悪自分で作ればいいでしょ」


 そして、新たに作ったテオドラに渡したのと同じサイズの壷二個分を増産し、保管しておく。正露丸は殺菌作用も強いので常温保管でも長持ちするのだ。だから大正時代に軍隊の常備薬としても使われている。


 唯一の不安はこの匂いで売れないかもだが、その時はその時。一度でも試せばコレが売れないなんて事は無いと言う変な自信もあり、予め作っておいて損はないと思っている。


 そして、新たに注文の入った木皿用の材料を求めて森を歩き回り、そのついでに今回は野兎を二匹狩る事が出来たので、後日テオドラの元へ向かう際の手土産にする。流石にもう解体しても吐く事は無かった。


「こうやって、人間は慣れて行く動物なんだろうねぇ」


 などと、解体して取り分けたウサギ肉を草の葉で包みながらクリンはしたり顔で頷く。実の所こんな事を言っているが内臓とかを処理する時に息を止めて匂いをかがない様にしたり、血抜きの跡、死後硬直が解けるまで解体をしなかったりして、何とか吐かないで済む様にしていたりするのだが。





 そうして、ウサギ肉を手土産にテオドラの手習い所に勉学に出向いたクリンであったが。


「……え、足りない? 追加が欲しい?」

「ああ。丁度知り合いの所で集団で下痢になったらしくてね。人数的に魔法薬(ポーション)に手を出せないらしくてね。タイミング良く腹下しの薬を欲しがっていたから試供用として渡したんだけどね。なんとまぁ、大体のヤツが一回、他も二回飲んだら嘘の様に下痢が治ったそうだよ。人数的に全員には渡らず、あの匂いが嫌で飲まなかった奴もいてね。改めて欲しいってのが居るんだよ」


 珍しくテオドラが困った様な顔で言って来る。彼女も自分で飲むのが嫌なのでこれ幸いとばかりに押し付けて見た物の、どうやら効果は絶大であったようだ。


「それに、治った奴らも仕事でまた腹を下す可能性があるから、出来れば予備を持っておきたいそうさね。今度はちゃんと金を払うそうだよ」

「はぁ。まぁまだ試作と言っていい物ですから……そうですね、自前で採取できなくて買った材料があるのでその代金として銀貨一枚だけもらえればこちらは構いませんが……所で副作用とかは無かったんですかね?」


「聞いた所は無いね。精々あの薬を飲んだ後、暫く水を飲んでも薬の味がしてツライって寝言だけさね。それで腹の下りが引っ込むなら儲けモンじゃないかね」


 やはり匂いだけは不評の様だ。だがそれを補って余りある効果があるとの事。


「アタシの薬も効くって自信はあったんだけどね。それでもこんな冗談みたいな効き方はしないよ。たった二つ、それも今じゃあまり使われない古い腹下しの材料足しただけでこの効果とか、悪い冗談さね。本当は他に何か怪しい物とか入れているんじゃないだろうね? あの二つ入れただけでこの匂いが出る事自体が信じられないんだけどね」


「チュー〇じゃあるまいし入っていませんよ。多分、多少工程が異なるせいじゃないですかね。材料は同じでも抽出方法が異なるので成分が強まったとかその辺じゃないですか」

「〇ュールが何か知らないけれど、アタシのレシピを抽出法変えられる時点でそれもどうかと思うけれどね。それだけであんな『ア~ウ~』と唸るゾンビみたいな連中が朝薬飲んで夕方にゃピンピンしているなんて、別な意味で悪夢みたいなもんさ」


「はぁ。効くとは思っていましたがそこまでとは……何だろう、幾らなんで効きが良すぎる気がする……所で、薬は何時もって来れば良いのでしょう? 次に来る予定なのは四日後の露店の時の予定なんですが」

「それなんだけどね。小僧が来たら夕方には取りに来るからそれまでに用意して欲しいってさ。アンタの事だからもう予備の薬は作ってあるんだろ?」


「ええ、それはまぁ。データは多い方が良いですから、当然予備は作りましたけれど……って、夕方!? 明日とかじゃなくて今日の夕方!?」

「そりゃ治っていない奴らからしたら切実だからねぇ。良かったじゃないか実験台がより取り見取りだよ。今回渡せば実証としては十分だろうから結果次第では次の露店で売っても構いやしないよ。こんなに結果が早く出るなんてツイている小僧だねぇ」


「いや、それは確かに有難いですが……僕、今日はココに勉強しに来たつもりなんで薬は持って来てないですけども!? 往復で三時間かかるんですよ!? 夕方だと今からとんぼ返りしないと間に合わないじゃないですかっ!!」

「そりゃぁご愁傷様。持って来てなかった事と、辺鄙な所に居を構えたのと、効きが良すぎる薬を作った小僧の落ち度だね。薬師目指すなら念のために持ち歩く位しな。ほれ、患者の為に便宜を図るのも薬師の務めだよ、とっとと取りに行きな!」


「あんなに捨てろだの悪臭剤だの言われたらたった一日二日で欲しがる人がでるなんて誰が思う物かっ! そして別に薬師は目指してないっ! っくそぅ、僕が作った薬が効きすぎてツライッ!! 商品に出来る様になったら絶対にボッタくってやるっ」


 盛大に嘆きつつも仕方なく手習い所を飛び出し来たばかりの道を戻るクリンである。何だかんだと口では言うが、クラフターとしての部分は作った物の効果を試す絶好の機会を逃したくないし、商人としての部分が例えたった銀貨一枚とは言え取り返せるのなら三時間かけて取りに戻るのも苦としないし、薬師としての部分では自分の作った薬で助かると言う人が居るのなら助けてやりたいと言う、それぞれの思いがある。


 結局は。神に異世界に誘われる程には善良な性質があるのがクリンと言う少年だ。とんぼ返りで森の中の小屋に戻り、なんちゃって正露丸の入った壷をリュックに詰めると直ぐにまた街に向かって行く。


「ああクソっ、こんな事になるならばぁちゃんに手土産なんて持っていくんじゃなかった! 肉渡してこき使われてるとか意味解らんっ! ああ、でもなんちゃって正露丸がこの世界でどれだけ効くのか興味もあるしっ! その上銀貨が帰って来るんだから文句は無いんだけれどもっ! いややっぱり文句は言いたいっ!」


 ブツクサ言いつつ街に戻り着いたのは予定よりも遅れ、昼の鐘(十二時)を一時間以上過ぎた頃合だった。やはりまだ体力が完全ではなく、流石に休憩無しにとんぼ返りをしたのではどうしても時間を余計に喰ってしまう。


「ようやく戻って来たね。三時間以上掛かって居るじゃないか」


 テオドラの手習い所に戻ると、老婆が無慈悲に言って来る。


「無理言わないでください……流石に片道一時間半の道を連続で三回辿る程の体力は無いです……いえ、有るつもりだったんですが予想よりも体力が無かったです……僕も自分の若さを過信出来ない年齢になって来たんですかね……」

「そのセリフは小僧にゃ百年早いね。少し待ってな」

 手習い場の椅子の上でぐったりしているクリンをその場に残し、なんちゃって正露丸だけはしっかり受け取ったテオドラは奥に引っ込む。


 早速薬の確認をするようだが、今の手習い場には他の子供達も勉強をしている時間なので、流石にあの匂いを撒き散らす訳にはいかないと奥で調べる事にした様だ。


 疲れて動けないクリンは他の子供達の様子をぼんやりと眺めているようで眺めておらず、虚ろな目で椅子に座っていたが、気が付けばテオドラが戻ってきており、手にはクリンが商品サンプルとして置いておいた木のコップを持っている。


「お疲れさん。相変わらず酷い匂いだけど、前と質は殆ど同じだったね。そら、これでもお飲み、薬湯だよ」


 と、手にした。この辺りではまだお茶を飲む習慣が無く、飲み物はエールか麦汁か果物の搾り汁、そして薬湯位である。街中では水は農村よりも悪い事が多く、水を飲む事は殆ど無い。スープですらこの辺りでは強い味付けをしないと飲めない程だ。


「またコレですか……ドーラばぁちゃん、時々これ飲ませますけれどハッキリってマズいんですよねぇ。長距離移動の後ですから冷たい水が飲みたい所なんですが」


 コップを受け取りながらクリンが渋い顔をする。薬湯と言っているが別に薬効成分がある訳では無い。大体の場合がその時期にたくさん撮れるハーブと言う名の雑草を乾燥させた物を煮た汁で、ハーブ茶と呼ぶのもおこがましい物だ。


「贅沢をお言いでないよ。飲めるだけマシさね。薬湯にしない水なんて飲もう物なら、あの薬を待っている連中の仲間入りするだけさね」


 テオドラに鼻で笑いながら言われ、渋々薬湯を口にする。四時間以上も歩きっぱなしであるので喉自体は渇いている。


「うぅん……やっぱりマズいですねぇ……何か渋いしエグイし……まぁ喉がスッとする感じなので喉には良さそうですが……」


 口に広がる何とも言えない青臭さに眉を顰める。最初の村で麦粥と言う名の草汁を食わされていたのでこの手の味には慣れてはいるが、慣れていてもマズい物は不味い。何時までも飲んでいたくは無いので、クリンは一気に飲み干す事にする。


「その割には毎回綺麗に飲み干すんだから変な小僧だよねぇ。それを飲み干せるのはウチじゃアンタ位だよ」

「まぁ、昔から似た様な物を口にしていましたからね。しかしいつも思うのですが、水がそんなに飲めないのなら普段は何を飲んでいるんですかね?」


「あん? そんなのエールに決まって居るじゃないか。お前さんはまだ早いけれども後二年もしたら大体どのガキも飲み始めるね。金持ちだと薄いワインを飲むらしいけどね。他は麦汁か果物の汁か、こういう薬湯だね」


 空になったコップを手の中で何となく弄びつつクリンが尋ねると、テオドラがそう答えた。この辺りはやはり前の村と似た様な物らしい。ただ薬湯はそんなに飲んでいなかった覚えがある。


「ま、夏になるとこの薬湯でも飲み辛くなるけどね」

「おや、それはどうしてです?」


「夏場は水が傷みやすいんだよ。この辺りの井戸は溜め井戸(地下水では無く川や池などから引いた水を各家庭で井戸に溜めておく方式の事)だからね。夏になると匂いが強くなって沸かしても飲みにくいんだよ」


 老婆のそんな言葉に、クリンは「フーン」と頷きつつ、


「……そうか、溜め井戸なんだ……夏場は更に水が悪くなると……フーン」


 口の中で小さく呟く。何となく、次に商品に出来そうな物が少年の頭の中に浮かんでおり、それをどうやって作ってどうやって売ろうかと考え始めていた。





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割と鬼畜なドーラ婆ちゃん。でもこの世界だとこの位のこき使われ具合は割と普通だったり(´・ω・)


そして新たな商売の種を見つけた模様!

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