第142話 転生少年、商売を模索する。
クリン君、ようやく物を売って稼ぐと言うクラフターらしい活動に入ろうと色々と準備をしています。
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ベッドが完成した日には十分な量の瓦も焼き上がった。早速屋根の葺き替えに入る。一人では屋根に瓦を運び上げるのにも時間が掛かる為、天気の様子から雨が来なさそうな今の内にやるべきだと考えた為だ。
まぁ、レンガを十枚から十五枚ほど積んでそれを蔓草紐で縛り、屋根に上がって引っ張り上げればいいだけなので、準備さえできれば割と設置は早い。
屋根に積んだ草を取り除き骨組みとシート代わりの葉っぱだけの状態に戻した屋根に、端の方から瓦を乗せて行く、
この瓦は素焼きでしかも反りも付いていない平瓦なのだが、底面の片側に短い爪の様な物を付けて焼いてある。この爪を骨組みに引っ掛け落ちない様にし、更にその上に瓦が三分の一程度重なる様にして端の方から中心部に向かって配置していく。
これにより、爪と瓦の自重で自然と屋根に密着し多少の風では瓦が飛ばない様にしている。
更に屋根の中心部分にはへの字に焼いた瓦を乗せ、隙間を粘土を盛って詰める。
そして瓦の数か所に長い棒を乗せ、その棒は蔓草紐で棟と骨組みにガッチリと固定し、更にその瓦の何カ所かに重石となる石を乗せれば、台風規模の風が吹かない限りは簡単に瓦が飛ぶ事は無い。
「ふふふふ、まんま昔の貧乏屋の屋根瓦だねぇ。昭和時代にはギリギリこんな構造の屋根がまだあったって聞くけれど、流石に見た事は無いね。でも、やって見た感じだと確かにこれなら余程の事が無ければ持つでしょう!」
数日を予定していた屋根の葺き替えが一日で終わったクリンが満足そうに頷く。手際が良い事もあるが、やはり小屋サイズで屋根が小さく少年の体重がまだ軽く骨組みの屋根に乗っても平気だった事も一日で作業が終わった理由であろう。
こうして屋根が変わった小屋で、出来たベッドでグッスリと眠るクリンであった。
この様に住処の目途が立てば、そろそろ商売に手を出す時期かもしれない。夜の間に木工上げの神像作成は続けているので、神像の数はある程度揃っている。この流れで何か木製の食器を作って取り敢えずどれ位売れるか様子見をするべきだろう。
そう思ったクリンは早速木の皿やコップなどを作成し始めた。倒木から削り出した物なので、材質が良い訳では無いがクリンの覚えた技法によりある程度薄くて使い易い形状の木製食器が出来て行く。表面は前の村から持ってきたヤスリ代わりの荒革で擦って滑らかにする心配りまでしている。
しかし、このままではただ木を削っただけであり、少年の年齢と相まって「子供の工作」扱いされて大して売れないだろう。
何よりもただ削っただけの物を売るなど、職人としての矜持が許さない。まだ職人じゃないだろう、と突っ込まれそうだが少年的にはソレは無い話だった。
ニスを塗りたい所だが、まだ樹液が出る木や油の取れる植物を見つけて居ないのでそれは断念せざるを得ない。流石にラードは持って来ていない。あれば代用できたのだが。
そこで今回は少し小技を使う事にする。時間がある時に何れは必要になるだろうと、倒木やノコギリで切り倒した木から皮を剥いだ物を捨てずに水に浸けて煮て繊維を何時でも取り出せる様にしており、その煮汁に作った木製食器を一日漬け込んでおく。
こうすると木肌に木の皮から出て来たタンニンがしみ込み、独特の枯れた風合いを出し、表面をコーティングしてくれる。
漬け込み期間を長く取れば更に枯れた風合いが出るが、時間に比例して乾燥時間も長くなってしまう為、今回は一日だけの漬け込みで済ませ、二日程乾燥させた。
コレによりコーティング剤を使わなくても木目の表面処理が行え、また水に強くなり保ちも良くなる。
「うんうん、これなら十分売り物と言えるね。この上から更にニスでも塗りたいのが本音なんだけれども……まぁそれは街に出た時に油を手に入れるまで我慢かなぁ」
こうして木皿をサイズ違いで三十枚コップを十個用意し、街で試しに売ってみる事にする。コップの数が少ないのは削り出す関係上結構な大きさの木材が必要だった事と、リュックに入れて運ぶので皿の方が運びやすくコップだと嵩むから、という理由である。
こうして、クリンはお金を得るための手段として商売を始める事を決め、ある日の早朝に荷物を背負って街に出る。
小屋を出る前に、リュックの中身を全部出し集めた鉄材は草葉に包んで地面に埋め、道具類はナイフとハンマー以外は屋根の見えない所に隠しておいた。
これらの道具と材料は、現在のクリンにとって生命線とも言える。無いとは思うが森に入り込んだ人間なり何なりに、留守の間に家探しでもされて盗まれたり悪戯でもされたら目も当てられない。その場合森での生活はほぼ詰んでしまう。
コレまではリュックに入れて纏めて持ち歩いていたのだが、そのリュックには商品となる木製食器がパンパンに詰まっている。
持ち歩く余裕がない為に置いて行くしか無く、苦肉の策として道具類は隠しておく事にした。因みにお金は金貨の殆どを既に別の場所に埋めており、手元にあるのは数枚の銀貨と銅貨だけである。
割とこの世界で散々な目に会ってきたクリンはこの世界の人間を信用していない為、こういう用心を怠る事はしない。
警戒心の強い少年であるが、だからこそ今まで生き延びて来れたのだろう。
「今日ならモガナ神殿通りの市が無難だね。売値は銅貨九枚から三枚だね。面倒を避けたいのなら全部一率で銅貨一枚か二枚だね」
朝早く森を発ったクリンは、先ず先にテオドラの手習い所を訪ねた。彼女自身は開門の鐘(六時)で起きだしていた様子だが、手習い所を開けるのは朝の鐘(九時)であった為、大体朝の七時過ぎ位の時間に訪れた少年に嫌な顔をしたが、彼が『商品を露店で売りたいので、どの市で売るのがお勧めか、後商品の値段はどの位が目安か』と尋ねた時の第一声が最初の言葉だった。
「……まだ商品を出していないのですが……」
「見る必要も無いね。お前さんの様な小僧が一人で露店なんて開こうと思えば、何を売る気か知らないけどね、銅貨十枚以上の値段を付けたら面倒しかないよ。大人が横にいるなら話は別だが、小僧にゃそう言う大人はいないだろ。そうでなくても、ここらじゃ子供が売る物なんて大体それ位の値段が相場と言うモンだね」
「……ここでもやはり腕じゃなくて年齢で値段が決まるんですか。面倒臭っ!」
「ほぅ? その口ぶりだとこの前の様にどこかで拾い集めた薬草とか野草とか、そんな物じゃなくて、何かの材料とか道具とかかい、売る気なのは?」
「ええ、まぁ……物は試しに自分で作った木製食器類を売って見ようかと思いまして。一応ある程度の年齢になったらどこかの工場で下働きでもしようかと思っているので、それなりに物を作る腕があるつもりなんですよ、これでも」
「ふぅん……自分で作った、ねぇ……やけに自信有り気だねぇ」
どこまでも胡散臭そうな物を見る目を崩さないテオドラだが、ややあってから「どれ、一応見ておこうかね。出してみな」と言うので、改めてクリンはリュックから木皿を数枚、コップを一つ取り出し老婆に見せる。
「こりゃぁ……本当に小僧が作ったものかい……? 驚いたね、ちゃんとした木工品じゃないか……このコップも削り出しだね……しかも随分薄く削って割れもヒビも無いとは。それに、何だいこの色合い。一見薄汚れている様に見えるけれども妙な味があるねぇ」
手渡された木製食器を眺めたりひっくり返したり叩いて感触を試したりしながら、テオドラが呆れた様な口調で言って来る。
「思っていた以上に器用なんだね、小僧。これなら確かに売って見たいって気持ちは解るし、将来木工職人になりたいってのもそりゃ頷けるってモンだね」
「ああ、いえ。別に木工職人になりたい訳では無いです。本職は鍛冶師なので。ただ鍛冶師は街で弟子入りするのは難しいと聞いていますので、物作りの職人なら一通りの事は出来るので、木工はあくまでも選択の一つですね」
「かっ!? ……正気かい、その歳でアンタ……それに一通り出来るだって?」
「ええまぁ。話したと思いますが最初の村がアレだったので、何でも自分で作る必要が在ったんですよ。このナイフは自作では無いですが鈍らを打ち直した物ですし、この服も繊維から自分で叩き出して織った物です」
「はぁ……語学の学習速度と言い、あの語り聞かせと言い……その上に鍛冶に木工に織物だって!? 本気で多才な小僧さねぇ……しかし、この出来だと銅貨一枚二枚は無いね。逆に盗品だと疑われかねない。銅貨十枚は付けないと不自然って物さね」
二十枚でも行けない事は無いだろうね、とテオドラは頭が痛いとばかりに額に手を遣り、頭を振りながら言う。ただその値段だと高級品扱いになりあまり売れないだろうとの事。
「そうさね……小僧の場合は横道通りの目抜き市が良いだろうね。カザン神殿の門前通りみたいな通りだけど目抜き市はその外れで、ちっとばかり荒っぽい奴らが集まっているけれども、小僧の様なガキが混ざるには向いているね。ソコならコレを自分で作ったと言わずに『親の代理で売りに来た』とでも言えば何とかなるかもね。ただなるべく大人が近くにいる場所で露店しな。そして売れ残っても最後まで店続けたら駄目だよ。日が高い内に店仕舞いしな。この街は治安が良い方だけれども子供が銅貨十枚持つと目を付けるバカも居ない訳じゃないからね。なるべく人通りの多い場所を通って、一旦ここに戻ってきな」
テオドラはそんなアドバイスを少年にする。目抜き市とは、どうやらクリンが最初に覗いた市の一つでライ麦を買ったあの通り近辺の事らしい。
「ああ、それからこの街で野良猫を見つけてもイジメてはダメだからね。この街の猫は頭が良くてね。イジメると群をなして仕返ししてくるんだ。だから絶対にダメだからね。寧ろ小僧の場合は野良猫を見かけたら近くに寄らせる方が良いね。この街の人間なら猫に懐かれている人間に手を出そうってバカはいないからね」
「はぁ……エラいアグレッシブな野良猫ですね……と言うかそれ本当に猫なんです? まぁ猫は好きですからイジメたりはしませんが……前世では動物セラピーとか言って猫とか犬とかと触れ合える日が有りましたしねぇ」
生前は満足に動物と触れ合う暇が無かったので、実は割と猫とか好きなタイプである。ただどちらかと言えば犬派のクリン君だった。
正直テオドラの言っている意味は解らなかったがイジメる気など無いので頷いておく。こうして、クリンはテオドラのアドバイスを受けて目抜き通りに向かい、転生前転生後も含めて、初めての露店に挑むのであった。
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現代だと子供でも適正な値段と言う物が付けられますが、古い時代だとこの世界の様に子供と言うだけで値段が勝手に決められる事って割とあったりしたんですよね。
そういう意味では昔は孤児と言うのは本当に生きにくかったと思います。
ま、クリン君位になると「面倒臭っ!」の一言で済ませられますが(笑)
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