第108話 閑話12 転生幼児の半休日。 その1
本編に入れる程では無かった、或いはページ数的に入れられなかった、正にこぼれ話集パートです。
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コレはまだクリン・ボッター少年が、第二の村から旅立つ前のお話。
村での収穫がひと段落する時期だが、少年の仕事はこの時分からジリジリと増加傾向であった。それと言うのも今のメインの仕事が農具のメンテナンスだからである。
村に最初に来た頃の予定では、刈り取りの手伝いに忙しい時期だったのだが、鍛冶師不在のこの村で「一応」は鍛冶師の真似事ができる彼に修理の依頼がなされ、収穫の忙しい時期にどうしても発生する農具の破損や損傷の修理、一足早く収穫が終わった農家の道具の、来年の作付けに向けてのメンテナンスなどで、仕事はひっきりなしに来ている。
今日も朝から自警団員が修理依頼のあった農具を持ち運び、それを処理している。だが、連日運ばれている量からすれば微量であり、一時間半程度で修理は全て終わってしまう。
「うん? 今日はやけに修理品が少ないですね……もう今シーズンは一通り修理が終わってしまったと言う事なのでしょうか?」
「ん? ああ、月末まで後六日だからな。通常は五日前からだが流石に一日前にはこういう手入れも後回しにしてひと段落させるからな。明日からはもっと減るだろうな」
今日の担当であるトマソンがそう言って来るが、クリンには意味が解らず首を傾げていると、
「収穫の終わる月末は収穫祭だ。村で多少ずらす事があると聞いているが、大体どこも同じ筈だが……君の前の村では違う時期だったのか?」
「ああ……成程、収穫祭ですか。ウチの村では決まった時期では無いですね。最後の畑の収穫が終わった時点でその二、三日後が収穫祭でしたね。へぇ、そうか……ここでは毎年この月の終わりが『断食』の日だったのか……」
納得した様な顔で頷いているクリンに、彼のセリフに不穏な言葉が聞こえてトマソンは一瞬眉を顰める。
「……断食? いや、祀る神によりそう言う習慣があると聞いているが……だが普通収穫祭ではやらないのではないか?」
「あ、これは僕が勝手にそう呼んでいるだけです。ほら、祭りの時ってみんなで食べ物持ち寄って騒ぐじゃないですか。で、当然農奴と農奴扱いの僕は除外されるんですね。農奴の方がどうかは知らないですが、僕の場合は家に食べ物が無いので当然その日はご飯抜きなんですよ。村を抜け出したくてもその日ばかりは皆夜中まで騒いでいますからね。見つかったらヤバいのでその日は大人しくしているしかないので。なので毎年収穫祭の日はご飯抜きで耐えるしかなかったので断食の日って呼んでいたんですよ」
「アハハハハ」と軽く笑い飛ばす幼児に、トマソンは思わず眉間に皺を寄せる。
「うん、迂闊に聞いた俺が悪かった。そして、出来れば君の以前の村の話はもっとソフトな物でお願いしたい。正直反応に困るんだ、何時も」
「それを僕に言われましても。それに元の村でコレが最もソフトな話題かと。放置されていただけですからね。しかし、そうなると今日どころか祭りが終わるまではお仕事は終わりって感じですかねぇ」
「そうだな、今日はもう終わりだと思うが……どうだろう。例年なら何だかんだで祭りに必要な物の細かい修理があるとは思うが、量はやはり今日以上に減るだろうな」
「そうですか……じゃぁどうしましょう。お祭りまでは自警団の方が来るような仕事はお休みって事になるんですかね」
「いや、祭りの当日は警備とかあるから流石に来ないが、それまでは微量でも何かしら修理が出る筈だから来るはずだ。ただまぁ、当日まではこんな感じで開店休業みたいになるんじゃないかな」
「成程……じゃあ今日はどうしましょうか。最近皆さんをこきつ……ゴホンッ! お手伝いして頂けているお陰で森に行って薪とか材料とか集める程でも無いですし……午後からも特に無さそうなんで飛び込みが来ても明日に回すと言う事で、今日はもうお休みにしましょうかね?」
こんなんじゃ種火を燃やしておくだけでも勿体ないですし、と、レンガ炉に申し訳程度に入れて燃えている炭を眺めながら言う。
「休みか……それが順当なんだろうが……」
対してトマソンは額に人差し指を当てながら、最近になって鍛冶場の壁に備え付けられた物に目を向けていた。
何やら板の上に草で編んだらしい縄が二本の柱で支えられ、その向こうには掘っ立て小屋のミニチュアの様な物があり、扉が付いていないために中に小さな金属片が入れられているのがここからでも解る。
「この前、突然君が何やら作り出して飾っているアレ……最初は何やら解らなかったが……もしかしてアレは何かの神を祀る祭壇の様な物では無いのだろうか?」
「はい……? ああ、あれですか。僕のぜん……ゴホンッ! お世話になった本家のクリンさんの地域では、この様な作業場には高い所に見守ってくれる神様を祀る習慣があったそうなのですよ。僕も一時的にとは言え鍛冶場を借りていますからね。やはりその辺は踏襲しないとアレでしょう。この辺りの風習が分からないので、取り敢えずにほ……ボッター村の様式をお借りして、形だけでもと作ったんですよ」
トマソンの視線につられ、自作の掘っ立て小屋のミニチュア……手製神棚に目を向けながらクリンは答える。有り物と種類の少ない手製木工具で作ったので多少不格好だが、一応神棚の様式は踏襲している。
本来は鏡を備えるのだが、流石にまだ鏡にまでは手が出せないし、鍛冶場に祀る神だからと自分で集めて自分で溶かした砂鉄を一欠片ご神体代わりに祭ってある。お供え物は水と塩だけなので少し寂しいが今はコレで勘弁してください、と言うのがクリンの心境である。
「前から思っていたが、やはり君は何だかんだで信心深いよな。しかし、言っては悪いが祀り方や様式が少々独特に過ぎる。一度ちゃんと神殿に詣出てこの辺りの礼法や様式を学んでみてはどうだろうか。コレも悪くは無いが、我流では気を悪くする信者もいない訳では無い」
「……そんなに独特ですかね?」
「悪いが、そんな鉄くず……失礼、鉄の塊をご神体として祀る様式は聞いた事が無い。通常は神の像かシンボルとなる図形や絵などだ。この村にも神殿はあるのだから一度参拝してはどうだろうか。村の神殿だから規模は小さいが様式は踏襲しているので、こういう簡易礼拝所を今後作る際にも参考になると思うよ」
「この砂鉄は雑ですが一応玉鋼なので鍛冶神のシンボルなんですけれどもね……ただこちらのせか……こちらの風習ではないので、トマソンさんの言葉には一理ありますね。いつかは行こうかと思っていましたから暇な時に行って見ますかねぇ」
「それなら、丁度これから暇なのだから私が案内するから行って見ないかな?」
「これからです……? それはまた随分急ですね」
「そうだが、どうせこれからやる事など無いだろう。俺も暇だしな。やる事無いのに鍛冶屋に籠る位なら、道案内の名目で村内を警邏出来るしそちらの方が他の団員達に対する罪悪感が薄れると言う物だろう?」
そう言うトマソンの言葉に、クリンの方は少し胡散臭い物を見る様な目で暫く眺めていたが、やがて頬を撫でながら「ハンッ」と鼻で笑うような顔をする。
「ああ、成程。鍛冶場に引きこもっていないで少しは村の中に出ろって事ですか。言われてみればこの村に来てこの鍛冶場と農業関連の場所以外はほぼ商店以外に行っていませんからね、僕。この機会に少しは村の事を知っておけ、って所ですかね」
シレっとクリンが言ってのけるのに、トマソンは思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「……全く、上手く言葉を飾ったつもりなんだがな。そんなに分かりやすかったか?」
「ええ、思いっきり。まぁトマソンさんらしいお節介と言う所でしょうか」
「……はぁ、コレを村長に知られたらまた説教食らいそうだな……で、どうするんだい?」
「そうですねぇ……まぁこのまま来るかどうかわからない仕事を待つくらいなら、トマソンさんの策略に乗って見ますかねぇ。神殿に興味があるのは事実ですし」
「たまにはトマソンさんの顔も立てないといけませんからね」と意地悪そうな顔で頷いたクリンに、トマソンはハッキリとした乾いた笑い声をあげるのだった。
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まぁ、一種の舞台裏と言うか、小ネタを集めて一つの話にした感じの物でしょうか。
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