神に誘われて異世界転生してみた物の、良かったのか悪かったのか微妙ですが、概ね楽しく生きています。
第107話 閑話11 The Reboot of 『Boho-ken Yarho‐u』 Thomas Cruise Story's 3
第107話 閑話11 The Reboot of 『Boho-ken Yarho‐u』 Thomas Cruise Story's 3
調子に乗って話を盛ってしまって長引いたトーマス編もこれでラストです。
======================================
そうして自作の服に着替えた後は、これも自作の装備品を身に付けていく。高炉を作る前に作ったレンガ炉で制作した鉄製ナイフ。鞘は野兎を狩って得た皮でつくってある。他にも手製の靴に手製のカバン等々、全て動画内で自作してそのまま実際に使用している物だ。
「……十年前はこれ等の装備は無く、石を削ってナイフにしていたんだよな……それに比べたら立派な装備になったよな……だがこれらも使わなくなって久しい……」
これらの装備は身には付けているが、最近は設備が充実してしまっており、クロスボウやスプリング射出式ナイフなどが作れている為、このナイフや他の初期に作った装備品の出番は殆どない。草や木を刈るのにももうマチェットや斧があるから必要ないのだ。
「色々と造れる物は増えた。増えたが……それと比例してなんか最近はこう……燃えて来る物が無い。全部自分で作ったのだからサバイバルには違いはないんだが……」
気が付けば、トーマスは一人でそんな事を口走っていた。道具が増え、設備が増え、造れる物が増えて、やれる事も増えた。サバイバル生活は初期に比べれば段違いに楽になったと言える。だが、楽なサバイバルというのはそれはもうサバイバルでは無いのではないか。
そんな思いが日々募って行く事に最近気が付いている。それでも動画の人気が衰えないのだから需要はある。なら続けてもいい筈だが、どうにも最近はいざ撮影になると急に乗らなくなってくる。現場に来る前にはどんなにワクワクしていても、いざ現場に付いてしまえば急にその気分がしぼんでいくのだから不思議な物だ。
そう他人事のように考えていたトーマスは、ふとある場所が目に付く。ここから大分距離があるが、そこもまだ彼の所有地の中で、うっそうと茂った雑草の向こうにポツンと朽ちた小屋の残骸が見えている。
そこはかつて、初めて動画を取り始めた時に撮影拠点にしていた場所。あの小屋は動画で初めて彼が自力で建てた小屋。
まだ技術が低くろくに慣れていない時期の物だった為に、直ぐにあちこち壊れ放棄した建物だ。そしてあの小屋の辺りは平地と言う事で最初の拠点にしたが、立地的にはあまりよく無く、水場も遠ければ平地のど真ん中なので大雨が降れば水浸しになり、風が吹けば遮るものが草しかないので小屋がダイレクトに風にさらされる。
余りにも不便だったので六回目の動画で拠点を移し、以降放棄をしたままの場所だった。その場所を目にした時——トクンッ——と自分の胸が脈打ったのをトーマスは自覚した。
一八歳で軍に志願し兵役を務めたのでサバイバルの知識は有った。因みに退役したのは二十三歳で、動画を始めた前年(彼の時代には予備役は登録制で彼はしなかった)だ。
知識と体力は有ったが技術は無かった為、初期の動画を見返したら結構酷い物だ、と今の彼は自分の事ながら思う。
——今ならもっと上手く、あの場所でサバイバル出来る。あの少年の様に楽しんで色々と物が作れる筈だ——
そう考えた時、再び彼の心臓が大きく跳ねた。本心ではやはりそれを願っているのかもしれない。そう思うとトーマスは実に落ち着かない気持ちになった。
移動中の車で、図らずもモリフミとの思い出話になった切っ掛けは、第一回目の動画に久しぶりのコメントが来て、それを読んでいる内に過去にモリフミがよこしたコメントを目にしたせいでもあるのだが、実はもう一つ理由がある。その理由とは……
彼はここ数日、不思議な夢をよく見る様になっていた。その夢は登場する人物は毎回同じだった。地球とは思えない場所で、見た事が無い集落で、見た覚えのない、白人にしてはやや骨格が異なる、薄い金髪の痩せすぎた子供が出て来る夢。
夢の中の子供は、トーマスが聞いた事ない様な言語で何かを喋っている。言葉の意味など全く理解出来なかったが、何やら子供は楽しそうに色々な物を作って居た。何の道具も持たず、その辺の石や木の枝を使い、泥を捏ねてレンガを作り。
実に楽しそうに。それらの作業を本当に楽しんで行っている姿に、夢だと分かっていてもトーマスは落ち着かない気持ちになって仕方が無かった。
初期の動画でトーマスが見せた事をそのまま再現する様に、そこにある物だけで様々な物を作り出していく姿に夢の中のトーマスは何故か、生前会う事が適わなかった日本人の少年の姿が重なって見えた気がした。
夢の中の少年は英語では無いどこかの言葉、それもヘタをしたら地球の言葉ではないかもしれない、謎の言葉で天に向かって声を上げていた。
言葉の意味が全く分からない筈なのに、何故か夢の中のトーマスには『貴方が動画内でやっていた事を異世界で丸パクリさせてもらっています!! アンタ最高だよっ!!』と言っている様に聞こえ——夢の中であると分かって居ながら、つい反射的に「
そんな夢を見てしまったせいだろうか。彼にとっての始まりの地であるあの場所から、何故か目が離せないでいる。
「準備は出来ているかい、トーマス? 君の準備が良ければ早速撮影に……うん?」
車を運転してきたスタッフの男がトーマスに声を掛けるが、彼が全く反応を示さない事に気が付き、彼の方をマジマジと見る。
「どうしたんだいトーマス? 一体何を見て……ん? アレは……いや、アソコは、最初に動画を撮影した場所じゃないか。懐かしいな、すっかり忘れていたよ。そうだった、最初はトーマスとオレ、二人だけであの場所で撮影を始めたんだったな」
トーマスの視線を追って、その先に懐かしい場所を見つけてスタッフの男は目を細める。彼の言う通り、最初はあそこでこの男と始めたんだった、とトーマスは思い出す。
何も持たず、本当に裸一つであの場所で始めた。だが数カ月——動画では五本分の期間であの場所からは撤退した。そう、逃げ出したのだ。
何も持たないでずっと続けるのには向かない場所だから。当時の彼にはその知識も技量も無かったから。場所を移してからは造れる物がどんどん増え、設備が徐々に本格的な物になって行き。その場所も移り今はもっと快適で過ごしやすい環境を整えている。
振り返って自分の姿を見る。汚れ一つない出来の良い服、中には何も入っていない肩掛けカバン、使う当てもないナイフ、柔らかい場所しか歩かなくなった自作ブーツ。
どれも現在は無くても何ら困らない物で身を包み、快適な設備に優れた道具に囲まれている。コレの何処がサバイバルなのか。
単に文明度が低いだけでやっている事はただの昔の人の生活の再現でしかないでは無いか。こんな安定した生活の何処にサバイバル要素があると言うのか。少なくともコレは彼の思い描いたサバイバルでは既に無い。
そんな思いに至り——
「そうだ。そうだったな。ジャパンには確か『初心忘れるべからず』とか言う言葉があったんだよな」
特に自覚しないままそう呟いていた。何よりも『あの場所から逃げ出したまま』と言うのは癪では無いか。あそこは最初に自分が選んだ場所だ。快適ではないからと場所を変えたが、本来サバイバルとは場所を選ばず環境を整えて快適にして行く物である筈だ。
「OK、予定変更しよう。もう一度アソコから、最初から始めようじゃないかロック様!」
スタッフの男……いや、学生時代からの親友である、有名な元プロレスラーの肉体派俳優に激似の彼にそう宣言し、身に付けていた装備類を外していく。
「おい、そのあだ名は止めろって言っただろトーマス! 変更ってどういうつもりだい!? 打ち合わせでは高炉の制作再開だ……って、なんで脱ぎだしているんだイーサン!?」
驚きの余り思わず本名で呼んでしまった事に気が付かず、ガウェインは声を上げる。何事かと集まっていたスタッフ達の視線が集中する中、トーマスは服をどんどんと脱いでいく。
「何でって、言っただろ? もう一度アソコから始めるって。丁度配信開始から十年。最初の忘れ物を取りに行くのには良い機会だとは思わないかい?」
「忘れモノって……お前、まだ気にしていたのか……」
ガウェインはトーマスがあの場所で活動を続ける事を断念した事を、未だに後悔している事を知っていた。何と言っても学生時代からの付き合いだ。そういう心の動きも解ってしまうし、初期の動画はずっと彼と二人で撮影して来たのだ。解らない訳がない。
「君も、あの場所を去った時には残念そうな顔だったろ。ならもう一度二人でチャレンジしようじゃないか。あの場所でもう一度、最初からサバイバル生活さ!」
「さ、最初からって……それは判ったが、だからなんで脱ぐんだよっ! お前そんな趣味があったのかっ!? あ、いや有ったか……」
装備を全部外したトーマスは、ついにシャツを脱ぎ軍隊仕込みの鍛え上げられた上半身をあらわにしつつ、
「それは失礼だぞロック様。言ったじゃないか最初から始めるって。僕たちの最初は、何も身に付けず。何も持たず。何も用意せず。本当に体一つの裸からのスタートだったじゃないか」
「いや、そうだがっ! 勿論覚えているがっ! 待て、ダメだ下は脱ぐなっ! 時代がもう違うんだよトーマス! 年々規制が厳しくなってきているっ! もうモザイク付けたからって見逃してくれるとは限ら……」
「ハッハッハッ! サプラァーーーーーーーーーイズ!!」
掛け声と共に最後の一枚を景気良く脱ぎ去り、生まれたままの姿で立ち、腰に手を当てて堂々と胸をはる。その姿は正に漢。どこかの少年が憧れた……かも知れない姿だ。
「ホーリー〇ット! 本当に全部脱ぎやがった!
何を言われても楽しそうに笑うだけのトーマスに、ガウェインは埒が明かないと他のスタッフに目を向け、
「おいカメラ! カメラをよこせ! うるせぇ、ゴチャゴチャ言ってるとケツに○○ねじ込むぞ! 今はモザイク掛けただけじゃだめだ! 出来るだけダイレクトに映さない様にしないとモザイクしてもBANされるんだよっ! お前じゃあの野郎がどう動くか予想できないだろ? 俺はもうあのウ〇コ野郎の行動に慣れているからなっ、何とか映さない様に撮れるっ! この突飛な行動は読めなかったけどよっ! 付き合いが長い分お前よりマシだ、早くよこせ!」
めっきり口調の荒くなったガウェインは奪い取る様にカメラをもぎ取ると、慌ててトーマスの横に並ぶように立つ。
「よし、良く聞けよク〇野郎、なるべく正面に立つなよ。ズラして撮れれば昔の動画もあるから何とかリメイクで話を持って行ける。間違っても真正面に立つんじゃねえぞ!? 幾らテメエの粗末な○○○隠しても今はそれで一発アウトだからなっ!」
「うん、やっぱり君の口調はそれ位の方が調子が出ていいね。最近の君は丸くなりすぎて正直気味悪かったからね」
「うるせぇク〇ボケ野郎が! 要らねえ苦労掛けるんじゃねえよっ! こちとら娘がこの口調真似たら即離婚だって言われてんだよカスがっ! 気を付けていたのに戻っちまったじゃないかっ……それより注意したこと分かったのか、ああん?」
「聞いていたよガウェイン君。それじゃぁ始めようか。また君と二人、十年越しの再起動をあの場所から始めようじゃないか!」
「……ったく、エラく感傷的な事をぬかすじゃないか。しょうがねえ、今まで付き合ってやったんだ、今度も付き合ってやるよイーサン……いや、Mrトーマス!」
不敵な笑みを浮かべてカメラを構えて来る親友に、トーマスは最近あまり見せなくなっていた『胡散臭い笑顔』と評される独特な笑い方で自慢の歯を光らせる。
「その調子だよ、偽ロック様! では行こうか、マンネリ化した生活では無く、筋書きのないサバイバルと言う荒野に! 体一つでどこまで出来るか、ボクと自然との大勝負だ!」
トーマスはバシンッと親友の肩を大きく叩くと、十年前と同じように、力強い足取りで生い茂る雑草の中へと突き進んでいく。
「何も持たなくても、知恵と知識と勇気があればどんな所ででも生きて行ける物さ。何も持たずに生きて来た君の様に、ボクも再び何もない所からあらゆるものを作り出していこう。これぞサバイバル、これぞクラフターと言う物だよなぁ、
それは誰に向けての言葉なのかは、ただのスタッフから戻った親友の男以外の者達には分からなかったが、状況を飲み込めない彼等を他所に、二人はそのまま雑草の茂みの中へと消えて行ってしまった。
一か月後。久しぶりに更新されたトーマス・クルーズの動画は、前回の続きを期待していた視聴者の期待を裏切り、これまでの事が無かった事のように再び何も持たない状態から始めだした。
その姿に、文明のトレースを期待していた最近の視聴者たちはこぞって非難を浴びせた。見たいのはそこじゃない、と。
だが、動画の初期から視聴して来たファンからは「これぞトーマス・クルーズ本来の姿だ!」と絶賛し、動画の再生回数はあっという間に跳ね上がり、登録者も一気に二百万人増えた。これによりトーマスの人気は再燃し、これから数年で登録者が一億人に届く所まで行くのだが——それは今回とはまた別の話である。
後、コレだけは彼の名誉の為に記載せねばならない。彼は別にヌーディストでは無いので、やはりこのリブート動画でも五動画目で衣類を作り、以降はちゃんと衣服を着たまま動画配信を行っている。
時々、川や沼に潜る際にプリケツを晒す事もあるが——以降は大体服を着ている。
そう、服は着ているのである。
======================================
多少本編と記述が異なるのは、一応「視点が違うための齟齬」と言う演出です。意図的に微妙にずらして書いてあります。
2つ目の村から旅立ち、必要な物は大体作った今、原始的な製法のアドバイザーである彼の出番は恐らく殆ど無くなるでしょう。魔法も出て来るので尚更。
なので有終の美を飾ろうとしたら話を盛り過ぎたっ!何よりガウェイン、お前何処から出て来た、最初の予定には居なかったぞ! そして何か気に入っちゃった!
でもまぁ、トーマスと一緒にもう出番はないんだけどねっ!
タイトルについてのネタバラシは、昔「冒険野郎」ってアメリカドラマがありまして。とある雑誌の英語表記がコレだったんですよ(笑)
と言う感じでトーマス編は終了です。しかし、ここまでトーマスを濃く書いといてアレですが……この話、果たして需要あるのだろうか……
後。あの番組を知っている人でも「マク〇イバー」と呼ぶのは比較的新しい方の放送枠で見た人で「マ●ガイヤー」と呼んでいるのは初期放送枠で見た人です(笑)
え、ワシ?勿論「冒険野郎マ〇ガイヤー」ですが何か?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます