第105話 閑話9 The Reboot of 『Boho-ken Yarho‐u』 Thomas Cruise Story's 1



 はい、なんか意外と人気とリクエストの有ったあの男、プリケツのナイスガイのサブストーリーです。とうとう専用ストーリーまで付きやがったよコイツ……


 しかしリクエストした人はどういう訳か大体垢ごとコメントが消えているっ!


 あ、タイトルはスペルミスでは無いです。解る人には分かるオマージュ、小ネタです。




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 男の名はトーマス・クルーズ。本名では無い。アメリカの誇る大スターの名前をモジったハンドルネームだ。本名は非公開。最初は特に拘るつもりは無かったのだが、ハンドルネームが余りにも有名になってしまい、そのまま公的にはハンドルネームで通している。


 だが実は本名がイーサン(彼の父があのスパイドラマの大ファンなのだ)であり、割とまんまであるので本名公開出来ないと言うのもある上に、更に彼のファミリーネームはソコソコ有名だったりする。


 彼は登録者数一千万人以上を誇る超人気動画配信者で、主にサバイバル系の動画を配信し、既に十年の動画配信活動をしている。


 最初は本業——非公開では在るが、大手建築会社の副社長をしている——の息抜きに、購入したまま放置していた土地を、父である社長から自由に使っていいと言われ、息子で副社長と言う気楽な立場から、その場所でサバイバル生活を始めたのが動画配信の一番最初だ。他のサバイバル動画と差別化する為に、最初は何も持たず本当に裸一つでサバイバルが出来るのかの検証動画のつもりで、数回配信したらすぐに引退するつもりだった。


 これが最初の配信でいきなりバズってしまった。その場にある物だけで石槍を作り魚を獲り、そこらの枯れ枝で手熾しで火を点け獲物を食べるだけの、裸族の原始人の様なその動画が一日で十万再生された。それに気を良くし活動を続けて動画を配信し続け、二十代半ばで始めたこの活動は、気が付けばもう十年が経っていて、彼も三十代半ばに差し掛かっている。


 動画の構成上、彼の動画は一つがとても長く、一本で半月から一カ月程度の生活を編集で二時間から四時間の動画で掲載しているため、更新頻度は低く本数も十年で百五十本程度と、登録者数と活動期間の割には意外と少ない。しかし、動画はどれも再生数が千万回を超えている。

 それだけ内容が濃く見ごたえがある動画であり、活動開始から十年経った今でも、彼は人気動画配信者として、動画配信のトップ層に名を連ねたままであった。




 その彼は今新しい動画を撮影する為に、撮影スタッフと共に彼の私有地でありサバイバル拠点にしている場所に向け、車で移動中であった。


 移動中、運転はスタッフに任せ彼は動画に寄せられるコメントを確認していたが、古い動画に珍しく新規のコメントがあり、それを読んでいたのだが——そのコメントの中に懐かしい名前を見つけ、思わずニヤリとしてしまう。


 コメントを確認して、必要ならば返信もするのが彼の仕事なのだが、それをそっちのけで過去に何度も読んだコメントを追って、つい読んでしまう。


 そのたびにニヤニヤと笑いが止まらなくなる彼に、とうとう運転手をしていたスタッフが彼に声を掛ける。


「どうしたんだいトム? 嫌にニヤけているけれども、美女からエロメールでも来たかい? そしてそういうメールは大体スパムだから手を出さない方が良いと思うよ」


 ミラー越しにトーマスを見ながら、運転していたスタッフがそう言って来る。


「その愛称で呼ばないでくれといつも言っているだろう。これでも一応リスペクトでこのハンドルネームをつけているんだ。その名で呼ばれたらあざと過ぎる。次にその愛称で呼んだら君の事もロック様と呼ぶからな」

「やめてくれないかっ!? ただでさえガウェインって名前とこの容姿のせいでパクリ野郎と呼ばれているんだからなっ!? 彼のファンは怖いんだよ!」


「トムのファンもだよ。ボクも本名の方がバレたら後ろから刺されかねないよ。だから君も道連れにされたくなければその愛称では呼ばない方が賢明だよ」

「わ、解ったよ。ったく、人のよさそうな顔していて時々とんでも無いこと言い出すから始末に悪いぜ……」


 スタッフはハンドルを握りなおし、運転に集中しながらブツブツと文句を言う。このスタッフとの付き合いも長い。元はハイスクール時代の知り合いで、動画配信を始める際に声を掛けたのがキッカケで今でも動画撮影スタッフの一人として付き合い続けてくれている、一番の古参スタッフだ。


 そんな彼を持っても、トーマスは時々扱いにくい時がある。どうやら今がその扱いにくい時で、依然とタブレットをいじりながらニヤニヤしている。ハッキリ言って薄気味悪いことこの上ない。


「……なぁトーマス。本当に何かそんなに楽しい事でもあったのか? 動画確認しているようだが……自分の動画見てニヤニヤしているナルシストがボスかと思うと、オレもステップアップ(転職)を考えたくなるんだ」

「……ん? ああ、ちょっと古い動画にコメントが来ていてね。それの返信をしていたら、つい昔のコメントをそのまま読み返してしまっていたんだ……って、なんだい、君はウチを辞めたいのかい?」


「い、いや! 別に辞めたい訳じゃないんだよトーマス! そ、そうか、昔のコメントを読んでいたんだな。たまには振り返ってみるのも良い事だよ、うん。しかし、古い動画か。どの動画にコメントが来たんだい?」

「最初の動画さ。有難い事に未だにカウントは回るしコメントももらえているよ。そして、その過去コメントに懐かしい名前を見つけてね。ついその名前の過去コメントを追って読んでしまっている所さ」


「へぇ、誰だい? オレも知っている名前かい?」

「多分知っているんじゃないかな。昔は頻繁にコメントくれていたから。『rip₋off』と言うハンドルネームで結構何度もコメントしてくれていたよ」

「……『ボッタクリ』とはまた随分なハンドルネーム……ん? 確かこれ大分昔に言った憶えあるな……思い出したっ! 確か六、七年位前の動画に頻繁にコメントをくれていたヤツだっ! 確かアドバイス的な事も何度か書いてきていて、君も参考にしたって言っていたな! 当時のスタッフ達の間でも何度か話題になっていたよ!」


「よく覚えていたね、その通りだよ。彼のアドバイスでジョーソーボリと言う井戸の工法と、ジャパニーズフイゴの構造を知ったんだよ」


 アメリカ人であるトーマスはこの時まで知らなかったが、どちらも日本の伝統的な技術で、上総掘り(彼らが読み間違えているだけでカズサボリである)は江戸時代以前から使われていたという井戸掘りの工法であり、和式鞴は本編で説明していた通りに、材料と道具が少なくても造れる物である。


 その為にサバイバルでも十分役立つのではないかとアドバイスを貰い、実際に動画内でそれらは使われていて、大いに役立っている。


「そうそう! ジャパニーズボーイ! 嫌に変な英語でコメントしてくると思ったらジャパンのキッズだったんだよなっ! 君にコメント残す為に必死に英語を勉強したとか書いてあったよ! いやぁ懐かしい!! ああ、そう言えば最近は彼のコメントを見なくなっていたなぁ……当時は結構な子供だったから飽きてしまったのかな」


 車を運転しながら気楽な様子で言うスタッフの男に、何度か言いかけては止め言いかけては止めを繰り返した後、結局は抑えた声で、


「……彼は亡くなったよ。五年も前にね」


 そう告げた。その瞬間、車が大きく揺れたが直ぐに何時もの丁寧な運転に戻った。トーマスはその事に対しては何も言わず沈黙を続けた。だがその沈黙を破りスタッフが口を開く。


「それは何時ものジョークではなくリアルかい?」

「ああ」

「……そうか」


 そう言った切り、スタッフの男は黙ってしまった。『そう言えば五年位前に嫌に落ち込んでいた事があったな』と思い出し、掛ける言葉が分からなかったのだ。


 だがややあって、


「……どうしてそれを君が知って居たんだい?」

「遺族の方がダイレクトメッセージをくれたんだよ。何でも彼が僕の動画を頻繁に閲覧していた事を知って居たそうで、コメントでやり取りが有った事を覚えていた遺族の人が念のためにと連絡をくれてね。それで知ったんだ」


「そうだったのか……それは知らなかったな。それで……亡くなった理由を聞いても? 事故か何かかい?」

「病気だよ。元々、動画にコメントをくれていた頃には余命宣告をされていたらしい」


「そんな……素振りは……コメントからは全く分からなかった……」


 くだんの少年の事は、スタッフの間でも一時期話題によく上っており、海外の、それも子供が態々トーマスの動画の為に英語を勉強してコメントを残していく姿に、皆でホッコリとしたものだ。そして子供なのに妙に色々と詳しく、鋭い突っ込みをコメントで入れて来るので、トーマスは勿論スタッフ一同、密かに『rip₋off』と名乗る少年からのコメントを楽しみにしていた。だがいつの頃からコメントの頻度が減り、やがて完全に途絶えてしまうと彼も彼以外のスタッフも少年の事を忘れてしまっていた。


 しかしトーマスだけは忘れずに覚えていた様だ。その事に何故か嬉しい気持ちになり、同時にふと当時の事がスタッフの男の頭の中で蘇っていた。





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 本当にさ、最初は数行しか出てこない筈だったのにさ……まぁ最初からキャラ設定していたワシが悪いんだけれどもっ!

 ただ実はいい所のボンボンの設定だけは最初から決めていたり(笑)


 しかも長くなっているので分割だっ!

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