第88話 転生幼児の中でのドワーフ像とエルフ像は偏りが激しかった。


趣味は人それぞれなのですよ……


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 水路で体を冷やした後脱ぎ散らかした衣類を取りに戻り、そのまま石鹸を使って体と一緒に洗ってしまう。総天然素材の石鹸なので環境を汚染する心配は無いし、この下流に人家は無いので心置きなく洗い流す事ができている。


 その後、鍛冶作業後と言う事で久しぶりに昼食を取る事にする。鍛冶作業は熱に耐える上に筋力を使うので非常に体力を使う。


 バテない為にも栄養はしっかりと補給しておきたい。とは言え何時も通りの麦粥と言う名のライ麦粥に、先日大量に出た油かすを振り掛けた物だ。


 因みに、この前の天かすは流石に量が多かったので、マクエルが石鹸を作った時に天ぷらと一緒に少し渡している。


 昨日見かけたマクエルからのお礼と言う名の盛大なノロケによれば奥さんのみならず家族にも気に入られたとの事。石鹸と合わせてお礼の言葉を頂いていた。


「ま、油かすでもまだ油も多少残っているし、栄養もあるからね。体力維持のエネルギー源としては実に優秀、鍛冶屋向けでは在るんだよね」


 ホクホク顔でライ麦粥をかき込みつつクリンは独り言ちる。因みに、一般的な鍛冶屋もクリンの様に直接的な食事を取らないが、農民と同じく合間にエールと塩漬け肉や腸詰、チーズなどを齧って栄養補給を行っている。


 この習慣は前世の中世世界の鍛冶師も同じだ。この世界のエールは前世の昔のエールと同じく大麦で作られ、濾過がそんなにされていないので、麦その物が結構混じっている。


 なのでエールをジョッキで飲めば麦粥を食べるのと同程度の栄養価があったりする。加えて鍛冶場の熱で汗をかく為、塩分補給として塩の利いた塩漬けや干物もたべるのだが、これが実に良くエールに合う。そして汗をかくので間食以外でも水分補給のエナドリ代わりに割と頻繁に飲む。


 鍛冶師にはこういう連中が多かった為、前世では鍛冶師の代名詞とされるドワーフに大酒飲みのイメージが付いたと言う説があったりする。


 前世でドワーフは空想の産物だが、この世界では実在する種族であり、前世の空想と同じく器用な種族であり鍛冶だけでなく製造業全般を得意とし、やはり大酒飲みだと言う。


「まだ実物は見ていないけれども、聞いた話だと殆ど前世のドワーフ族その物なんだよねぇ。向こうじゃ実在しない筈なのにこんなに類似点があるってのも変な話だよね。実は過去には実在していたのかもね」


 それはそれでロマンのある話である。そしてロマンがあるとすれば、クリンが聞いた限りでは、この世界のドワーフの女性は合法ロリであるらしい。一部の紳士諸君には朗報である。あるのだが、悲しいお知らせもある。どうやらこの世界のドワーフ女性は合法ロリであるが——同時に髭も生えているらしい。


「誰得だよその設定! 普通はロリか髭かの二択でしょうに! 何で一緒にするんだよ!……と、言いつつ実は僕興味ないからどうでもいいんだけどね!」


 自分で振っておきながら実にどうでも良さそうに粥を綺麗に食べつくした。実の所本気でドワーフには興味が殆ど無い。



 何故ならクリン君はエルフフェチだったからだ。



「情報仕入れてみたけれど、エルフは居るらしい事は確定何だけどどういうタイプか解らないんだよねぇ。長耳金髪さんも良いけどそれだと貧ぬー確定、だがそこが良い! 豊満ツンデレ黒エルフさんとか好物だ! でもムキムキマッチョパターンもあるよね……それはそれで最高! 媒体によっては戦闘種族のエルフタイプもあるっていうし……怖いけれどもそれはそれでそそるよね! ただ古典伝承の方の、小さい妖精タイプだとちょっとなぁ……アレ悪戯してくるし……でもそれはそれで有りだなっ! 妖精タイプなら肩とかに乗ってくれそうだし、寧ろ最高かよ!」


 この世界にもエルフは居るらしいが、余り人前に出てこない種族らしく、話を聞いた相手は総じて「美しいらしい」と言うだけで、実際にどういう種族なのか、妖精型なのか人間型なのかすら分かっていない。


 それでもクリン君的には「どのパターンでもOK、バッチコイ!」と言う事らしい。流石エルフフェチを自認するだけは有る。


 因みに、どのパターンでも女性である事を前提にしている。その辺りはやはり男の子だ。





 そんな夢見るクリン君は昼食を終えると横になり、本当に夢の世界へと旅立つ。午後にも作業を続けるつもりなので、体力回復の為に食後のひと眠りは欠かせない。


 小一時間ほど仮眠を取った後、今はあまり着なくなった前村長の服を拵え直した筒型衣を着込む。先程洗った服はまだ乾いていないし、予備の服は出来ればまだ汚したくないので、鍛冶作業に着るのは躊躇われた。


 ぶっちゃけ前の村長の服はゲンが悪いし気分も悪いのだが、用済みになったからと燃やしてしまえる程に物資に恵まれても居ない。布の高いこの世界では穴が開いても使い道は幾らでもある。なので着潰すまでは我慢して使うつもりだ。地味に布地が良いのもある。


 ショースと褌は仕方ないので予備の物を身に付ける。身支度を整えたら鍛冶場に向かい昼前まで打っていたノコギリ用の鉄板の具合を確かめる。


 鉄板は薄いのでとっくに冷めている。本来なら専用の窯などで百八十度から二百三十度辺りの温度で一時間ほど焼きなますのだが、無い物は仕方がない。無ければ無いで出来なくは無いし、そこまで質の良い鉄では無いので拘った所でたかが知れている。


「本格的な物はこの村から出て自分で設備を整えてから。今はヤッツケ仕事のでっち上げ上等ってね」


 三枚の鉄板を手に金床に行き、鍛冶場の金槌を借りて叩いて歪みを取って行く。整形の前に先ず大まかに歪みを取ってやらないと、この後の作業がやり難い。そんなに力はいらないが地味に体力が要る。


 特にクリンの場合は未成熟も良い所の五歳の体だ。この二ヶ月で食生活がだいぶ良くなり以前よりもふっくらとしてきたが、それでもまだ痩せ過ぎの部類である。


 片手では十分な鍛力が得られないと見ると、例によって両手で槌を持ち足で鉄板を動かして伸ばしていく、独特の方法で歪み取りをしていく。


 焼きなまされた鉄は柔らかく、またこの鉄板は薄いので割と歪みを取りやすい。それでもまぁまぁの時間が掛かる作業だ。


 しかも柔らかいので力加減を間違えると簡単に折れたり割れたりしてしまう。どれ位割れ易いかと言うと——




「……君。……クリン君! 聞こえないのか!?」


 集中している所にこんな感じで耳元で騒がれてしまえば、体がビクリと反応し、


「っ!?」


 手元が狂い少し強い力で、金槌の少し角の所で端の方を叩いてしまっただけで、


「カキョン!」


 と言う少し間抜けな音と共にバックりと鉄板が割けてしまう程度には柔らかい。


「「あ」」


 槌を振り下ろした所で固まったクリンと、いつの間にか隣に立っていた門番一号ことトマソンの声が重なる。


 トマソンはどうしようかとオロオロとしだしたが、クリンは割れた鉄板を前に槌を振り下ろした姿勢で固まったままである。


「ああ……っと……その……す、スマン!」


 自分が不用意に声をかけた為だと思い、素直に謝罪をしたトマソンであったが、その言葉が聞こえた瞬間、


「スマンで済んだら警察はいらねえんだよ! いや衛兵か? どっちでも良いよバカ野郎! 前の鍛冶師に言われなかったんかなぁ、『鍛冶師の作業中に声かけるな』ってよぉ! 普通の鍛冶師なら必ずそう言うよなぁ、なあおい! 作業している所みえなかったか、おおん!? 声かけるならこっちが気が付くか作業が止まるまで待つのがセオリーってもんだろうが鍛冶作業危険なんだぞ死にてえのなら他所でやれやボケ!!」


 何時にも増して激高してくる少年の姿に、町で衛兵をしていて荒事に慣れている筈のトマソンをして背中に冷たい汗が流れるのを自覚する。


 五歳の子供とは思えない殺気を身に纏い、手に持った金槌で頭をかち割られるのではないかと、この時のトマソンは本気で思ったのだった。





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念の為。作者はドワーフェチでもエロフ好きでも無いです。

モン娘フェチです。( ー`дー´)キリッ



それは兎も角。

劇中では多分初めてのクリン君のマジ切れだと思われ(笑)


金槌を持っている鍛冶屋に迂闊に近づいたり声かけたりしたらいけません。大変危険です。作業的に、では無く職人の習性的に、です。


金槌振っている時に気楽に肩なんぞを叩かれた日には反射的に殴りつけそうになってしまった事が何度か有ります。


まぁ、普通の人にはそんな機会無いとは思いますが(笑)


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