神に誘われて異世界転生してみた物の、良かったのか悪かったのか微妙ですが、概ね楽しく生きています。

第84話 あなたは塩派？ それともツユ派？

私事ですが、天ぷらを摘まみつつ冷酒をキュッと行くのが大好きです。

因みに私は天つゆ派ですが、酒のアテなら塩でもツユでも醤油でもOKです(笑)

ただし、ケチャップとマヨは全否定します(￣д￣)

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　揚がった天ぷらを手製土器皿に乗せて、上から軽く塩を振る。今回は試食みたいな物なので、自分で付けるのではなく先に振るスタイルにしている。

「と、言う訳でラード揚げの天ぷらの完成です。本当は天つゆが……まぁ言ってもしょうがないですね。さぁ、揚げ物は熱い内が華です。さっさとおあがりよっ！」

　前に使った三又串を差しだしながら言って来るので、マクエルはそれを受け取り、野草のなんちゃって天ぷらモドキに突き刺すと口に入れた。

　サクッと軽い食感。そして香って来る油の香りと、灰汁抜きにより苦味が抑えられた野菜の味と香り、衣の香ばしい香りに独特の舌ざわりに歯ざわり、そして少量掛けられた塩。それらが混然となってマクエルの口中に広がる。

「……なぁクリンよぅ」

「何でしょう？」

「何でこれにエール付けねえのよ？　絶対に合うはずだろコレ！」

「五歳児の家にんなもんあるか！」

　どこの世界でも天ぷらにビール、いやエールは正義らしい。この場にその正義が君臨しない事を嘆きながらも、マクエルはあっという間に天ぷらを平らげてしまった。

　因みに、クリンも適当になんちゃって天ぷらを摘まんでいたが、

「うん、山菜のフリッターモドキだね。天ぷらじゃぁないな」

　というのが感想だった。じゃあ何で天ぷらと呼んだのか謎である。せめて代用醤油で天つゆモドキが作れていたらもう少し違っていたかもしれない。

「いかがですか？　この天ぷら以外にも揚げ物料理は幾つもあります。また揚げ物にしなくても、炒め物や焼き物の時にこの脂を使うと結構味が良くなります」

「成程……確かにこりゃ油として見ても中々上等じゃないか……何より材料が安い。ただ精製するのがちと面倒そうだが……」

　試食であり量が少なかったのでそこがかなり不満であったが、味自体には十分満足が行く。ただ麦の研ぎ汁を付けて揚げただけの物で、こんな味が出るのなら料理としてもかなり上等な部類に入るだろう。軽く腹を撫でさすりながらマクエルが考えていると、

「結構使い勝手がいいでしょ？　それに食用にしなくても精製した脂で獣蝋にするなら、ただ取った脂を固めるよりは煙も匂いも弱いです。まぁそれでも十分匂いますが」

「へぇ、そういう使い方まで……随分便利なのよな……」

「ええ。ですがコレも主産業には向きませんよ。所詮は動物が居ないと作れないものです。そして薪は変わらず沢山要ります。産業化したら石鹸と同じ道を辿るだけです」

「んだよ、結局役に立たないじゃん！」

「しかし、ボアとか豚とかを解体した時に本来捨てていた部分を利用できるのですから、その分だけ儲けにはなります。そして儲け無くても食用油が一つ増える訳ですから、単純に日々のメニューが何種類か増えます。食べる以外にもワックス代わりに使える事は使えます。大規模産業にはなり得ませんが、村の生活を多少便利で豊にする程度なら十分有用だと思いません？」

「ああ……そういう考え方もあるのか……」

「あの獣脂石鹸はですね、本来この様に色々利用して余ったり汚れたりして使い道が無くなったラードを、最終的に『捨てるよりはマシ』な感じで作る物なんですよ。つまり肉の副産物の脂の更に副産物です。最初からそれを目的にするのは本末転倒と言う物なんですよね、実は」

　それでもあえてやるのなら別に止めはしませんけれど、とクリンが締め括る。

「……なんだよ、要するにコレは『爺さん婆さんの知恵』って奴なんじゃないか」

「お、ようやく分かりましたか。そうですよ、所詮は何千年も前に生まれても現在使われていない技術です。使い道は有りますが使いたければ使い方を考えなければ知っていた所で大して意味は無いです。これで金儲けがしたければ、精々旨い飯を作って観光客でも呼んで、お土産に余った石鹸を一個二個買ってもらうのが現実的と言う物です」

「こんな田舎の村に観光する物好きなんて来ないんだわ。まぁ、飯が旨けりゃ多少は来るようになるかもだが……なぁ、このラードだったか？　その作り方とこのテンプールンの作り方をウチの奥さんに教えてもいいんだろ？　こんな旨いなら食わない手は無いのよ」

「どうぞ。別に僕が考えた訳では在りませんのでお好きに。それにダメと言ったらどうせエールの樽でも持ち込んで僕に作らせるつもりでしょ？」

「ハハハ良く分かったのよな。こんな旨い物を独り占めなんて許さんのよ！　それにウチの奥さんは料理が上手なんだわ！　教えた方が絶対にクリンより旨い物を作るのよ！」

「……結局最後はノロケかよっ！　しかも美人で常識がある上に料理上手まで属性乗せるなんて盛り過ぎじゃねえの！？　アンタ、マジでよくその奥さん捕まえられましたね！」

　まぁ、美人云々はマクエルの自称なので信用していないが、それを口に出さない分別位はクリンも持ち合わせている。

　その後、お代わりを熱望したマクエルのリクエストにより追加の山菜が揚げられ、試しに自分で揚げて作り方を覚え、ちゃっかりと「奥さんへの土産」と称して残りを今日作った獣脂石鹼と一緒に持ち帰って行った。

「全く……図々しいと言うか逞しいと言うか……アレで『コレも俺が作ったのよ！』とか言って天ぷら自慢する気なんだろうなぁ。でもさ、アレ奥さんが気に入ったらどうするつもりなんだろ。ラード作りなんてあんな面倒臭いの、絶対にマクエルさんの仕事になると思うんだけど」

　村の中心の方へ帰って行くマクエルを見送りながら、クリンはふとそんな事を思う。ある程度の量のラードを作ろうと思ったら実は意外と体力が要るので、前世でもアレを作るのは男性が多い。

自警団なんて体力使う仕事をしているマクエルに、それにプラスして石鹸作りも待っている。果たして体持つのだろうかと他人事のように考える。

「ラードかぁ。広まると良いなぁ。アレ自分で作るの怠いし臭いし、誰か作ったの買えるならその方が楽なんだよね。料理油として使われて、色々料理が広まったら面白そうなんだよねぇ」

　前の村よりもマシと言うだけで大して好きでもない村だが、ほぼ麦粥しかないメニューにアレコレ加わって食生活が豊になる分には少年も歓迎だった。歓迎ではあるが……

「まぁ無理だろうね。恐らく広まる事は無いでしょ。『今』無いんだから」

　ラードも製法自体はかなり古くからある。この世界でも昔の人が発見していない訳が無い。現に獣脂蝋があるのだから絶対に見つけている筈だ。

　クリン的にはこの手の技法を披露して、「ああ、これって○○なのよ！」みたいな言葉を期待していたのだが……今の所見事に空振り続きである。

「今まで見て来た限り、この辺りって妙に西洋圏に近い習慣と習性有るんだよなぁ。特に住人の気質とか似すぎてる位なんだよねぇ」

　魔法は有るし魔物もいるし、どうやら多神教らしいと言う違いはあるがかなり酷似している。植生や気候なども西ヨーロッパにかなり近いとクリンは感じている。

「まぁ、全く同じと言う訳でも無いのだから、多少は期待していましょう。種は撒いておいて損はないってね」

　脂の精製が根付けば、将来的にアレやソレなどのちょっとステキな薬品まで辿り着く。作り方は勿論知っているが、自分でそれらを作るのはハッキリ言って面倒だ。

　材料集めやそれを作る為の材料を作る所からやるとか、面倒以外の何物でもない。なのでこの世界の住人に頑張って作り出して欲しい。完成品を自分で買うだけの方が遥かに楽なのだ。ぜひ期待したい所である。

　と、全く期待していない口調で言いながら、クリンは小屋の中へと戻って行った。

　そして二日後。石鹸作りを教えると言う面倒事を片付けたクリンはその日は仕事をしない事を前もって伝え、前日の昼過ぎから準備をしていた。

　布が完成しアレコレと衣類を作り、貰った丸太を一つ丸ごと使い細工をし、追加の木墨も暇な時に制作済み。そして面倒な約束はラーメン作り以外片付いた。そちら（ラーメン）は材料の関係上当分は先になるだろう。

　時は来た。そうクリンは意欲満々、満を持して本格的な鍛冶作業に入ろうとしていた。

「最初は作業用にも使える、完全新作オリジナルナイフから、と思っていたけれど急遽予定変更！　工具造りからだぁ！　先ずは木工用の鑿（ノミ）や鉋、そしてノコギリだぁ！」

　オー！　と一人で拳を突き上げ気合を入れ鍛冶屋へと向かうのだった。

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次回から、再び鍛冶回突入！

一度やったしなるべく短くする気ではいるんですよ、ハイ。

ただ……コレが書きたくてやっているので……ね。