第78話 転生幼児の平常運転。


今回は少し駆け足気味ですが、クリン君は色々やり出します。

 


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 突発性ラーメン作成騒動の後、マクエルはキッチリと石鹸を持って帰り、暫くの間はクリンにも落ち着いた時間が流れる。


 のだが、単純にクリンがやる事目白押しで忙しくなっただけである。


 先ずは貰った大量の脂身をラードにする作業である。せっせとラードを作っていったのだが、前回よりも量が多い為か全部加工するのに半日費やした。そして大量の油カスも同時に出来た。当面は油カスを粥に入れてたべられるだろう。


 因みに、麺は食いつくされたがスープは残っていたので、それで麦粥を作り油カスを振り掛け炙ったウサギモドキ肉を浮かべたら極上であった。


 それらの作業の合間に壊された弓も作り直した。ただコレは、最初に予備を作っておいたので、切り詰めて簡単にサイズ調整しただけで直ぐに完成した。弦の方も無事だったので僅か数時間で三代目の弓が完成した。今回は握りの所に蔓で作った糸を巻き付け握りやすくしており、また木の質が前回よりもよかったので使い勝手と性能はコチラの方がよくなっていた。


 そして、朝に夜に、暇な時があればただひたすら作って来た布も十分な量が溜まり、ようやく服を自作出来る運びとなった。

 勿論真っ先に作ったのは褌である。鍛冶作業には必須だと身に染みていたし、何より現代人としては何時までもフラフラとさせているのは落ち着かなく感じていたのだ。


 今回作ったのはもっこ褌である。畚とは日本の古い時代の運搬用具で、主に縄や竹紐などを編んで作る網状の道具で、よく時代劇とかで城を作る際に土砂や石を運ぶ為の道具として見かける物だ。


 それに構造が似ているために畚褌と呼ばれている。構造と使用感的に越中の方が楽だったのだが、畚の方が使う布地が少なかったので今回はそちらにした。


 ただ、本来は一本の紐で輪を作りその輪の中で片側を結んで使うのだが、その構造を作るのが面倒だったために、どちらかと言えば紐パンの様な構造になっている。


 次に作ったのは手袋である。革製の手袋は時間的にもう間に合わないので当初の予定通りに手製布の手袋を作った。


 型紙とかないので細かい成形は無理だと諦め、親指とそれ以外で分けたミトンタイプの物を二セット作った。コレは木皮の繊維の布が思っていたよりも薄かった為に、二重にして使う予定にしたからだった。


 次に作ったのはズボンである。こちらの世界風に言えばショースだ。褌を作ったとは言え、はやり筒型衣服一枚ではまるでスカートをはいているかのように下がスースーするので、鍛冶作業の時にはやっぱりあった方が良いと思い作った。


 裁縫に使った針は古釘を叩いて加工した物であり、糸も蔓草糸で少し太く細かい縫い付けには向いていなかったので、全体としては少しダボッとした感じになった。


 だがこれから体が大きくなる……予定のクリンにとっては寧ろ余裕があって良かったとも言える。


 その後、筒型衣も一着分だけ作った。今までの服の方が生地は良いのだが何せ着古しの仕立て直しである。繕いもおおいし生地も大分古い。


 生地も多めに作れたし、折角だから予備も兼ねて新着として作っても良いだろうと思い、作成した。見た目的にはコチラの方が大分質素になっているが、新品であり自作の思い入れもあり、着心地はコチラの方が良いと少年は自画自賛している。




 アレコレと作る事に忙しいクリンだが、その間も村の仕事は熟している。金額は相変わらず駄賃の域を超えないが、少年が良く働き手際も良い事が知れたのか最初の頃よりは機嫌よく払ってくれる人が増えた。


 大きくても地方の村なので保守的な気質が強く「子供に金を渡すのは良くない」と言う考えが根強いので仕方のない事なのだが、クリンは例外として扱われ出しているようで、最初程に文句を言うような人は居なくなった。


 しかし、しばらくすると徐々に仕事が減って来る。秋麦の植え付けや育成の作業がひと段落したのだ。暫くの間は細々とした雑用で少年の手を借りなくても何とかなる位の仕事量になって来たためである。


 ただ、そうして少し暇になるのは数週間程で、直ぐに収穫に向けた作業で徐々に忙しくなる。それまでの休養期間の様な感じのタイミングに入っていた。


 勿論、細かな雑用はあるので探せば仕事は有るのだろうが、本当に子供の手伝いレベルの仕事しかなくなるので、ただでさえ安い給金が銅貨一、二枚と言う正に子供のお駄賃しかもらえないので、あまり面白くない。


 ではその間何をしていたかと言うと——自分の小屋の前に流れる水路の底攫いである。クリンは時々水路の流れをボーっと見る事があったのだが、その時に気が付いたのだ。水路の底の泥溜りに、赤茶けた細かい砂が溜まっている事に。


 それを見た瞬間、クリンは水路に飛び込みその赤茶けた砂をあるだけかき集めて、引き上げたのだった。


 この水路は近くを流れる川を水源として引いた物で、畑と村の中を通ってまた川に流れて行く造りになっている。結構長い人工水路なのだが元は川の水である。


 この溜まっていた土も元は川の土であり、その川は山の上の方から流れてきていた。山から流れて来る茶褐色の土——つまり砂鉄だ。


 この土が取れると言う事はこの山のどこかに鉱源があると言う事だが、そこは少年にはどうでもいい。


「砂鉄集めりゃ鉄が作れるじゃん!」


 この一点である。前世日本の古い時代でも砂鉄は主に川の土溜りから集められている。地域によって砂鉄の質が異なるが、ここの赤茶けた砂鉄も十分利用できる質の物である。


 砂鉄は鍛冶作業において幾らでも利用が出来る物だ。クリンは早速木の皮や草を編んで作った箕(穀物を振るい分ける農具。篩その物としても使われる)を作り、前の村でも作った木製スコップと鋤も作りあげ、それを手に、自分の小屋の周囲数百メートルほどの底を浚い、溜まった泥を数日間かけて篩い分け砂鉄を取り出していった。


 やり方自体は砂金を取るのと同じだ。だが砂金よりは集めやすいと言われている。そうやって集めた砂鉄だが、そんなに量は取れなかった。クリンが作った土器の碗に二杯分有るか無いか位だ。掛けた時間と手間からすればハッキリと微量だ。


「まぁ川から直じゃないし、元々そこまで砂鉄の多い水質でもなさそうだしね。これだけ取れれば御の字の方でしょう」


 砂鉄はそのまま溶かして鉄にする事も出来るが、古い鉄を再加工する場合の癒着材や補強材としても使え、結構使い道が多いのだ。特にこれから以前の村から持ち込んだ廃鉄を再利用して道具を作る気のクリンにはとても有難かった。

そんな事があり、本格的に鍛冶作業を行える装備と材料が手に入ったので本格的に制作作業に入ろうとしたのだが——


 一つの問題が起きる。いや、細かく言えば問題は二つか。その問題とは、


「頼む、この通りだっ!」

「お願いするっす!」


 クリンの目の前で九十度以上に頭を下げている門番二号と青頭マルハーゲン(ツルッパゲよりクリン変名)の二人が家に押しかけずっとこの態勢を続けている事だ。

この世界……はまだ分からないが、この周辺には土下座と言う風習が無いので、どうやらこの辺りではこの姿勢が最大の謝辞の表明である様だ。


 土下座の習慣があったらきっとしていたに違いない、なんて頭の隅で考えながらクリンはコテンと首を傾げる。


「頼むと言われても、僕は一体何を頼まれているのでしょう? そしてそのやたらとデカい丸太はなんなのですかね?」


 頭を下げる二人の向こうに、先程から見えている結構な太さの丸太が三本、異彩を放ってそそり立つ姿が映り気になって仕方がない。


「ああ、コレはだな……前にお前さんにラン麺ご馳走になっただろ? で、ウッカリとその事を嫁さんに自慢しちゃったのよ。滅茶苦茶旨かったってな。したらよぉ……」

「したら?」


「嫁さんに『謝罪の付き添いに行ったアンタが、何で五歳の親無しの子供に飯タカってんだ!!』ってすげえ怒られた……」












「……………………………………はぁ」


 答えになっていない答えに、クリンは何とかそう答えたのであった。





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 この展開はキッチリ読まれていましたなぁ(笑)

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