第77話 ラン麺、いざ実食!
ラン麺なんてネタ挟むから長くなるんだよなぁ……
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そして、麺が茹で上がる少し前に手製の素焼き碗に作った醤油モドキを中に入っている肉やキノコごと入れスープで伸ばし味を見ながら塩で整える。
いよいよ麺が茹で上がり、手笊で器用に湯の中から麺を掬いあげて湯切りをする。
「その内テボでも作ってやろうかな。……ラーメン以外使い道無いからいいか……」
湯切りが済めば麺をそれぞれの器に取り分けて入れる。五百グラムの粉を買ったが打ち粉に使った分もあるので正味で言えば多分四百グラム分位か。それでも茹でれば大体倍と少しに増えるので八百グラムから九百グラムの量はある。
「大人二人だから大盛りの三百五十グラム目安にするか。流石に僕はそんな量食べられないし……と言うか何回か食べる予定だったけど結局一回で終わりかぁ……」
スープの中で麺を泳がせて整えるなんて技まで見せつつ、上に薬味代わりのハーブとラードタップリのツリーフットのスライスを乗せる。
ラードがパッとスープに溶けて広がり、薄い茶褐色のスープの色と相まって、見た目はかなりラーメンである。
「っしゃ! ラーメンだよっ! まごう事なくラーメンだよっ! 異世界ラーメンの完成だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
思わず自分の分の器を天に掲げ、大きな声を上げてしまう。思えば完全に前世の食べ物を再現して料理したのは今回が初めてであり、それがラーメンだとは中々感慨深いと言う物である。
しかしそんな少年の思いを知らない二人には奇異な行動にしか見えず、若干引いていた。
「さぁさぁ! 何をグズグズしているんです!? コレは熱々の内に食べないとのびてしまうんです! そこに置いてあるのがお二人の分なので、自分で運んでくださいっ!」
「ええっ!? 普通運んでくれるんじゃねえの!?」
「何を甘ったれた事を。ラーメンは時間が命です。食べるのは戦争なんですよ。こうしている間にも麺は伸びて行くんです! あ、箸など使えないでしょうからソコに匙と
言うが早いが、クリンは草サンダルを足だけで脱ぎ捨て上がり、何時もの定位置まで走る様に器を運ぶと、パン!と手を合わせて「いただきます!」と言うと豪快に麺を啜り始めるのであった。
「うぅん……幅広だからちょっとウドン感出ちゃっているけれども……この歯を弾く腰、スープの滑らかなのど越し、そして香る脂っ! ちゃんとラーメンしているぅ!! やるじゃないか、僕っ!」
ラーメンはスープから、と言う言葉があるがそんな事は知った事じゃない、とばかりに真っ先に麺を啜り、歯ごたえを楽しみ飲み込んで喉を滑って行く感触を楽しむ。
そして、そこですかさずスープ。多少喉にもつれるような麺ののど越しが、それにより滑らかに胃の中へと落ちて行く。久しぶりのラーメンは、麺料理なのだからやはり麺を楽しみたい。そう考えると必然的にそう言う食べ方になってしまった。
暫くの間、満足そうな顔で麺を啜り、スープを飲み、チャーシュー代わりの肉を齧り取り、味わっていたのだが——
いくら思い出補正があり、久しぶりに食べたラーメンで、HTW仕込みの再現率の高いレシピと腕前を用いたとしても。
やはり禄に厳選せずに勢いで集めただけの材料で作ったラーメンである。中程まで食べてしまえば、どうしても『コレジャナイ』感が出てきてしまう。
「麺は腰があるとは聞こえがいいけど硬いだけ。しかも粉が粗いし混ぜ物も多いから蕎麦みたいな感じだ…………そしてやはりスープは出汁が薄いね。前世のラーメン基準にしちゃうとやっぱりガラの量が足りないし、昆布とか煮干しとかの乾物が無い分旨味が寂しいね。香味野菜もこの倍以上は欲しい……そしてこの味……なまじ醤油を思い出させる味と香りと色なだけあって、何かすんごい残念感が漂ってくるよ……」
確かに代用醤油として考えれば悪くはない。悪くは無いのだが醤油ラーメン風に使うのにはやはり味がソフト過ぎる。
醤油ベースにするには旨味とコクが圧倒的に足りない。はっきり言って醤油の匂いだけする味の薄い塩ラーメンを食べている気分だ。
「代用醤油つくるなら酒と砂糖、あともう少し旨味の強い肉とキノコが無いとキツイかな……次からはこんな行き当たりばったりではなく、最初から材料を厳選して集めてじっくり時間をかけて作ろう……うん」
決してマズい訳では無い。寧ろ転生して以来口にして来た食べ物の中で一番旨いとすらいえる。だが、前世の模倣をしてしまったために、どうしても前世との違いが食べ進めると目についてしまい、いくら旨くても「コレはラーメンでは無い」と頭が判断してしまうのだった。
クリンの評価としては「正直微妙なラーメン」と言う割と散々な感想であったのだが、クリンの前世のラーメンなど全く知らない、この世界の人間には違った評価を受けた様だ。
「な……なんじゃこりゃ!? こんな薄そうな色なのに不思議な香りがして、こんな複雑な味がするスープなんて飲んだ事ねえっ! それにこのパスタ、いやヌードルか? 確かにこんな歯ごたえあるパスタなんてねえのよな、言うとおりに別物よ! これがスープと絡んで旨ぇのなんの! ラン麺ってすげえなぁっ!」
「確かに、こりゃぁパスタとは別の物っす! ソースでこの麺食っても大して旨くなさそうなのが分かるっすよ! そしてこのスープ……本当になんなんすか!? こんな薄っぺらい肉が二枚ちょんと入っているだけなのに、何でこんなにツリーフットの旨味が出ているんすか!? 謎過ぎるっす!!」
大絶賛しつつ夢中で木串に麺を巻き付けながらマクエル曰くラン麺を勢いよく食べて行く。この辺りの地域には「出汁」と言う概念が無い。
沢山の具材で汁物を作る事は有っても、汁の為だけに具材を煮込んで出汁を取り、その出汁で更に煮込むと言う考え方が無い為、クリンにとっては薄い出汁でもマクエル達にとっては濃厚な旨味として感じられていた。
二人にとっては全く未知の経験であり、麺が喉を滑り落ちる感覚がこんなに気持ちが良い物だとは初めて知ったのだった。
二人は夢中で食べ進め麺を食べつくした後は、汁の一滴も残さないと言わんばかりに綺麗に飲み干し、満足そうな息を吐いた。
「……ええと……そんなに旨いですか、これ?」
自分的には微妙であり、勿体ないので全部食べつくしただけなので、二人の食べっぷりにやや引きながらクリンが聞くと、
「ああ? 何言ってんだクリンよぅ。俺ぁこんな旨い食い物は初めてよっ!」
「自分もっす! まさかただのスープにあれだけの味が閉じ込められているなんて、考えた事も無かったっす!」
ほめちぎって来る二人に微妙な顔を浮かべるが、褒められて悪い気はしない。それぞれの感想を聞きながら、次にはもっと旨いのを作ろう、と考えていたのだったが……
「ただ、一つだけ不満があるんだわ……」
表情を改め真剣な顔で言って来るマクエルに『ああ、初めて食べたから旨く感じただけで、食べ終わったらやっぱりアラに気が付いたのかな』と自分と同じような感想を持ったのだろうと思った。のだが。マクエルは素焼きの器をクリンの方に突き出しながら、
「ラン麺とやらは確かにうまかったんだが、汁と麺に具が薄い肉二個と細切れの肉や野菜みたいなのだけじゃ物足りないんだわ。もう一杯もらえん?」
「あ、それなら自分もお願いするっす。自警団で働いていると体使うっすからね。一杯だけじゃちょっと足りないっす」
そう言ってこちらも器を突き出してきて——
「あるわけねえだろうよ! 僕の何回か分の麺が一発でなくなってるわ! つうか謝罪に来たんだろアンタら!? ちったぁ遠慮せぇよ、ぶぶ漬け食らわせるぞ!?」
思わず本気で怒鳴っていたのであった。
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実食時のマクエル達の反応は、実際の経験をもとにしていたりします。
若い頃に海外で生活していた事があり、そこでアメリカンチャイニーズを食べてしまったために「コレジャナイ」感に襲われ自作でラーメン作った事があるんですね(笑)
その時の私の反応と、押しかけて来て勝手に食べて行った現地の友人の反応をそのまま引用してみました(笑)
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