想いの熱量
私だって閣下を側で守りたいと思って忠誠を誓った。
なのに何でこんなにも差を感じるんだろう。
閣下が本物の騎士だから?
明確な内容だったから?
駄目だ、手にキスされたから余計な事まで入ってきて思考が濁流に流される。
「ロゼ」
気づくとすぐ側に閣下の顔があった。
今までだって間近で見る事もあったのに、色気まで感じ取れるのは何でだろう。
駄目だ、目の前がぐるぐるしてきた……。
「その、返事が聞きたいんだが……」
ハッ、閣下が困った顔をしてる。
そうだ、『騎士の誓い』を受けてたんだった。
どうしよう、『はい』って答えるべきなのか。
だって公爵様からだもの、断るなんて失礼だし。
そう、そう答えなきゃ。
でも、でも!!
「ご、ごめんなさい!!」
自分の中で何か弾けたみたいに大きな声が出た。
しかも敬語も使ってないし!!
駄目だ駄目だ、こんなの絶対駄目なのに!!
「それは……アルフレッドが良いという事、だろうか……」
「な、何でアルフレッド様がでてくるんですか?! もうこれ以上情報量を増やさないでください!!」
もう頭がパンクして泣きそうだ。
すると閣下が口に手を当てて笑いを堪えてるのが見えた。
それを見て私はとうとう泣いてしまった。
「済まない、混乱させるつもりはなかったんだ。 ただ、アルの事は……、その、仲が良さそうに思えたからで……」
「アルフレッド様は森の熊と同じです!」
「森の熊? ……それはどういう意味だ?」
「……出来るなら、出くわしたくないです」
誤解されたくなくて正直に言ったらまた笑われてしまった。
聞いといて何なのよ!!
「そう睨まないでくれ。 その答えはさすがに想定外だった。 そうか、熊か。 いや、良かった」
閣下は口元を隠して耳を赤くする。
何だろう、まだ笑ってるの?
笑って和んだって事かな。
「だがそうなると、謹慎明けから大変かもな」
「……何でですか?」
「アルが直々に『君を預かりたい』と言っていた。 気があるとかじゃないなら、多分君を直指導するつもりだ」
「何でですか?!」
「それだけ育てがいがあると判断したんだろう。 ……諦めてくれ」
スッと目を逸らす閣下を見て、私はこれから地獄を見るんだと悟ってしまった。
どうやらアルフレッド様との縁は、切っても切れないものになってしまうらしい。
騎士になるのってこんなにも大変なのか……。
しょげてると閣下が指で目元をそっと撫でた。
「で、そろそろ泣き止んでくれないか。 これ以上は本当にルカスに呪い殺されそうだ」
「いっそ呪われたら良いと思います……」
「そう拗ねるな。 君が言うと冗談に聞こえないだろ」
それでも閣下はクスクスと小さく笑いながら、私の頭を優しく撫でた。
「君との約束はちゃんと守る。 だがその後の事だが……」
あ、そうだ……。
閣下から受けた、『騎士の誓い』。
勢いだったとしても『ごめんなさい』って言ってしまったから傷付けたかもしれない。
「閣下、あの、その……」
「君の反応を見てるとどうやら早急過ぎたらしい。 君とアルとが何も無いというのなら、今は『保留』という形で心に留めておいてほしい」
「でも……」
「無かった事にしたくないんだ」
そう呟いて、閣下はそのまま私の横髪を掬い、それにゆっくりと唇を当てた。
「いい返事を貰えるよう努力するよ」
私を射抜こうとする強い眼差しに、一つの答えが頭を掠めた。
『騎士の誓い』で私と閣下の格が違うのは当たり前。
だって私が敬愛する気持ちと、閣下の気持ちは違うものだから。
それは、とても信じ難い事だけど。
でもそれが万が一真実だったなら、受けてはいけないものになる。
セロが公爵閣下と一緒にいて良いはずがないんだから。
『欲しかったもの』なのに『いらないもの』にしなきゃいけないなんて、正直考えたくない。
だから今は答えが『保留』になった事に心底ホッとしていた。
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