ホントの事が知りたくて
何でこんな事になってるんだろう。
決闘した上に怪我までしたからこっぴどく叱られると思ってた。
なのに今、私は閣下に抱き締められていた。
抱き上げられた時とは違って、立ったままだと私の身体はすっぽりと閣下の腕の中に収まってしまう。
こんなに体格差があるなんて思わなかった。
しかもヴランディ家にいる時と同じ香りがするから、自分が誰に抱かれているのかも分かってしまう。
どうしよう、恥ずかしくて身体の熱が上がってきた。
……フェリス様が帰った後で良かった。
こんな所見られたら間違いなく誤解される。
「あの、閣下……」
「……」
「ちょっと苦しいです……」
するとようやく腕の力が緩んだ。
ぷはっと小さく息を吐いて顔を上げると、乱れた前髪から綺麗な綺麗な青い宝石が見えた。
「……身体は大丈夫なのか……?」
「えっ? あ、はい、今は痛み止めが効いてますので」
すると閣下は『そうか』と言って小さく溜息を吐くと、また私を腕の中に収めた。
え、待って。
今の離れるタイミングだったよね?
もしかして、拘束って意味なの?
やっぱり騒ぎ立てて迷惑かけた事に怒ってるんだ!
「申し訳ありません!」
「……何がだ」
「昨日注意されたばかりなのに、また騒動を起こしてしまって……」
「そうだな。 傷を負ってまで張り合うんじゃない。 あまり心配かけないでくれ」
「はい……」
返事をすると、ようやく解放された。
やっぱり拘束されてたんだ。
指摘される前に謝罪しといて良かった。
「もう帰れるのか?」
「はい、先程お医者さんから許可を貰いましたので」
「そうか、じゃあ帰るぞ」
「え?」
「何だ、アルフレッドの方が良かったか?」
「いえ、そんな事は……」
「遠慮するな。 今から呼んでくるから」
「大丈夫です! 閣下と一緒が良いです!!」
……。
……。
……あれ、閣下が固まってしまった。
一緒にだなんて、身の程知らずだったかな。
アルフレッド様が幾ら良い人だとしても、あの方の側にいるにはまだまだ勇気と気合がいるんですよ。
するとコホン、と小さく咳払いをした閣下は私の荷物を肩にかけた。
これは、一緒に行ってくれるって事かな。
「ありがとうございます」
何でアルフレッド様が出てきたのかわからないけど、お礼を言ったら閣下は少しだけ頬を緩めた。
その笑みにまた心が揺さぶられる。
何でこの人はこんなにも優しくしてくれるんだろう。
幾ら父への恩義だからって、ここまでされてしまうと甘えたくなってしまう。
人並みの幸せを望んでしまう。
ふとアルフレッド様が言ってた言葉を思い出し、勇気を出して声を上げた。
「閣下!」
「なんだ、忘れ物か?」
「いえ、その……、何故ここまで優しくして下さるんですか? ルカスの娘だからというのはわかりますが、その、距離が近いというか、なんというか……」
「安心しろ、次はないから」
「え?」
「療養が済んだらアルフレッドが君を預かると言ってる。 魔晶石の事もそこで聞けば良い」
「え、じゃあ私はアルフレッド様の所に行くんですか……?」
「住み込みの必要はないと言っていたが、君がそうしたいならそうすれば良い」
「いやです!!」
思わず大きな声が出てしまい、慌てて口を塞いだ。
そんな答えが聞きたかったんじゃない。
こんな事が言いたかったんじゃない。
そもそも『いやです』なんて言える立場じゃない。
セロは従順じゃなきゃ駄目なのに。
だけどどうしても『わかりました』の一言がでなくて、代わりにボロボロと涙が零れた。
「……泣くほど嫌なのか」
「だって閣下が『爵位復活までここにいればいい』って言ったんじゃないですか」
「それは君の意見を尊重しようと……」
「だったら始めから一人にしておいてほしかったです!」
セロを匿えばヴランディ家に迷惑がかかる。
だから保護して欲しくないって言ったのに。
両親が死んでからはいつも真っ暗な部屋に一人だった。
叔父の屋敷に連れてこられても、誰かとまともに話す事なんてないし、温かい食事も、安心して眠れる寝床もなかった。
誰も私のことなんか見向きもしない。
それは自分がセロだから仕方ない。
そう思って諦めていたのに。
でも外の世界に連れ出された時、眩しすぎて目眩がしたのを覚えてる。
あの日、手放した夢も両親との思い出も輝きが増した。
そうしてくれたのが父を慕っていた貴方だったから――。
でも幸せな夢ほど目覚めた時のショックは大きくて胸に突き刺さるんだと知った。
「君を泣かせたなんてルカス殿が知ったら、俺は殺されるだろうな」
ふと父の名前を聞いて私は顔を上げた。
目が合った閣下は苦しげに笑った。
「君を守ると決めていたのに、その責務を他人に委ねようとして済まなかった。 だが、俺は君が思うほど善良な人間ではない。 寧ろ君を苦しめた元凶だ。 それだけは覚えていてくれ」
以前私が命を絶とうとした時と同じ様に、閣下は苦しげに言葉を紡いでいく。
粛々と話すその顔は、剣豪の顔でも、騎士団長の顔でもない、ただ一人の人間の顔。
「何故、閣下が私を苦しめた元凶になるんですか?」
「それは……」
「元凶になるのかを決めるのは私です! だから……教えてください!!」
「……」
押し黙った閣下からの返事が聞きたくて、ジッと顔を見つめる。
暫く沈黙の時間が流れた後、閣下は小さく息を吐いた。
「分かった。 ちゃんと話すから……屋敷に戻ってきてくれるか?」
「……わかりました」
返事をすると、閣下は私の目尻を優しく拭ってくれた。
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