#009 荒川警部の事件簿
荒川警部は、鋭い観察力と冷静な判断力で数多くの難事件を解決してきた。
ある晩、町の裏通りで裕福な経営者が殺害される事件が発生した。
被害者は何者かによって背後から小型の刃物で刺され、現場には凶器以外の手がかりは残されていなかった。
荒川警部は現場に到着し、冷静に状況を観察した。
被害者は裏通りで倒れており、周囲には人通りも少なく、事件を直接見たものはいなかった。
周辺の監視カメラの映像を確認すると、被害者が一人で歩いている様子が映っていたが、事件発生の前後に怪しい人物は映っていなかった。
また、被害者の財布や鞄も荒らされた様子はなかった。
動機は怨恨だろうか。
「犯人はどうやって被害者に近づいたんでしょう?どこか物陰に隠れて待ち伏せていたんでしょうか?」
捜査員の玉川は頭をかきながら尋ねた。
しかし、監視カメラに映らずに待ち伏せできるような場所は見当たらなかった。
状況からすると、まるで遠隔から何者かに狙撃されたかのようだ。
カメラの位置や立地を考えると、犯人から被害者への距離は50m以上はあるだろう。
小型の刃物とはいえ、50mもの距離を正確に命中させられるだろうか?
それとも、何か見落としているのか。
「ウクライナの戦争で、ロシアの戦車が破壊される様子を最近ニュースで見たんだ」
突然、荒川警部が語り出した。
「僕も見ましたよ。それがどうしたんです?」
「つまりさ。今回の被害者がロシアの戦車かもしれないってことだよ」
玉川は警部の考えがわからない。
「ドローンの専門家を呼んでくれないか。話を聞いてみたい」
ようやく玉川も警部の意図を理解した。
ドローンの専門家に状況を説明した荒川警部は、
「ドローンを使って、遠隔から被害者を刺殺できる可能性がありますかね?」
と尋ねた。
「監視カメラに映らずに」
と付け加えた。
専門家は、被害者と犯人の距離が離れていても、小型のドローンに取り付けられる簡易な装置に小型の刃物を装着し、被害者に命中させることは技術的に可能だと分析した。
「ドローンが十分な速度で移動していた場合、監視カメラで捉え切れなかった可能性はあります。カメラ性能にもよりますが、5FPS程度のフレームレートのものが多いですから。」
「フレームレートって何ですか?」
玉川が尋ねる。
「簡単に言うと、5FPSは1秒間に5回の画像が撮影されるってことです。例えば家庭用ビデオカメラだと30FPS程度が一般的ですね」
「監視カメラにも、ドローンの影くらい映っているかも知れないな」
荒川警部が言った。
捜査チームは、ドローンの特定と操縦記録の捜査に乗り出した。
周辺の防犯カメラの映像も再度丁寧に検証し直す。
「この事件、解決できそうだな。ドローンの痕跡を見つければ、犯人の正体がわかるはずだ」
荒川警部は薄い笑みを浮かべた。
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