古書店奮闘記

セドリ

ある日のことです。

B〇〇K 〇FFの袋を下げたお客様がいらっしゃいました。

山ほど買ったであろう大きな袋を持ち、どれだけ欲しい本があるのか、と思いました。

うちの古書店は割と良心的で、人気作・最新作にはそれなりの値段をつけますが、そこに“ヤケ”や“イタミ”があると50円〜100円程値下げすることがあります。

お客様は人気作のそういった難アリの巻を何冊も買っていきました。

そのお客様は常連様のようで何度も来店くださるのですが、毎度毎度難アリの商品や人気作のまとめ割のような作品ばかり買っていきます。

同じ人気作(全巻揃い)を2度ご購入されたときには私でもさすがにオヤ、と思いました。

「いやぁ〜うちの母さんまでほしいって言い出してさぁ」

誰も聞いてはいないのにお客様はいつも過剰におしゃべりなさいます。

何かから意識をそらすかのように。

察するに、彼は“セドリ”と呼ばれる方々なのでしょう。

少しだけ説明いたしますと、セドリというものは、「購入額」と「売却額」の差額を利益とする方たちのことでございます。

このお客様の場合当店で購入した250円の本(本来価格300円→ヤケにより250円)を別の古本屋に2買取価格300円で出す、と言うようなものです。

大手古本屋ですと買取り価格表なども出ております、それを参考にこちらにいらっしゃるため、チラチラと紙を見ているのもわかっております。

人気作品ですと買取価格もお高めですからね。

大手は販売額も高く、値引きもあまりないためセドリとしてはなかなか難しい環境にありますので、うちのようなお店が目をつけられているのでしょう。

ただ、お可哀想なことにそのお客様が持ってくる情報はほとんどの場合一つ古く、うちで買って他店に持っていく頃には差額など微々たるものになっている事でしょう。

今回もそのようなお買い求めでした。

あぁお可哀想に。

情報とはナマモノですからね、鮮度が大事なのですよ、と思いますが、こちらとしては毎度そこそこの冊数を買っていただける大切なお客様ですのでいつもにっこりと販売しております。

その帰り、私はいつも通り業務終わりに社割で少しだけ安くしていただいた本を何冊か購入しました。

その中に発売すぐ中止になり今では3000円を超える本もありましたが、価格表に則り一冊250円で購入させていただいたのは内緒です。

本当に有能なセドリさんは最新漫画などではなく過去のプレミアを掘り出したりして数千〜数万以上の利益を出しているのですよ。

私など些末なものでございます。

今回は豆知識も入ったお得なお話になってしまいましたね、ただこの情報は当時のものです。

情報はナマモノ、もう古い情報でございます。