第78話 男は若く見られてはいけない
若い頃、26歳くらいの時だったか。
私は日雇いで建設現場を転々としていた。
その日、私は大工の仕事の手伝いだったのだが、その大工はまあ当たり前の権利のように怒鳴る奴だった。
建築現場にはヒエラルキーがあって、大工が一番偉い。
空軍で言ったら戦闘機パイロットだ。
だから、日雇いの私なんかは人間扱いされなかった。
その大工、たしか小針とかいう変わった苗字の40男だったのだが、小針は昼休みの時に「お前年齢いくつだ?」と聞くので「26歳」だと答えたら、「高校生くらいだと思った」と言った。
私はその当時若く見られたことがうれしかったので、それが顔に出たのだろう。
小針はこんなことを言いやがった。
「喜んでんじゃねえよ。けなしてんだ」
「はあ?」
「女は若く見られなきゃいけねえけどな、男は若く見られちゃいけねえんだ。若く見られるってことはたいした苦労してねえってことなんだ」
だから何なのだ?これは私のために言っているわけではなさそうだな。
けなしたくて言ってるんだな?
私は頭にきて職場放棄を決意。
人知れず現場から立ち去った。
あんなムカつく奴と一緒の現場で働きたくなかったからな。
でも、今でも思うが、小針の言っていることは正しい。
たしかにその通りだ。
男は歳相応か、それ以上に見られてしかるべきだと思う。
今でも小針のことはムカつくが。
小針の言葉を胸に生きてきたからだろうか。
49歳になった私は少なくとも若者には歳相応のおっさんという見られ方をするようになっている。
49歳にもなってこんな情けない顔になってはならないという目で。
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