女子会、再び ―3―
そして時は現在に至る。2人の共犯者、ヨナとアリシアを連れたパーシーが昇降口で出会ったのは、学園序列第1位、生徒会長、フィスティシア。そして、学園序列第3位、生徒会長書記、エモールだった。
「な、なんで生徒会の御二方がここに……」
パーシーは震えた声でフィスティシアたちに言う。本来ならば、このパーシーの反応こそが適正というものだ。学園序列最上位の生徒会メンバーと軽々挨拶ができるようなモニカがおかしいと言ってもいい。
学園序列は、その生徒の実力を視覚化させたものだ。故に、学園を組織する生徒会のメンバーは、学園序列が最優先となって決められる。つまり生徒会とは、生徒たちの憧れにして、畏怖の対象なのだ。
パーシーの質問に対し、フィスティシアとエモールは顔を見合せ、けろりとした顔で平然として言った。
「エストレイラに誘われてな。先に行っててくれと言われ、こうして待っているわけだ」
「……ちなみに、どのくらい待っていました?」
「5分くらいじゃないか?」
「あんのバカモニカ……! 先輩を、しかも生徒会の人を待たせるってどんな精神してるの!?」
パーシーが目を釣りあげて憤る。今モニカと顔を合わせれば一発くらいは殴っても許されるような謎の情感があった。そして、運が悪いことに、その展開は思いのほか早く訪れた。
「おーい! パーシー!」
心底嫌そうな顔をしているソフィアを引きずる勢いで引っ張りながら、満面の笑みでモニカが現れる。その能天気な笑顔を見ると、パーシーの怒りは増々燃え上がっていった。
「ちょっとモニカ! なぁんで先輩たちを先に行かせて待たせてるの!?」
「えっ? そ、それは……ソフィアも誘おうとして、付き合わせても悪いからって……」
「先輩たちの貴重な時間を奪っちゃダメでしょうが」
「……ごめん」
幼なじみだからか、パーシーはモニカを一瞬で黙らせて謝らせる。長年の関係があってこそ為せることだろうと、フィスティシアは納得した。
「まぁ、待っている時間も悪くはなかった」
「あたしがいたからね」
「謝るようなことじゃない。気にするな」
「あたしがいたからね!?」
「分かったから静かにしろ」
フィスティシアはエモールを物理的にも押さえつけて歩き始める。
「……あれ? 先輩、どこに行くのか知ってるんですか?」
その様子に違和感を持ったアリシアがそう言うと、フィスティシアはピタりと動きを止めて、今度はモニカの後ろに移動した。
「さぁ、道案内を頼むぞ」
「フィスっち、そうやって考えなしに歩き始めるからいつも迷子になるんだよ」
「いつもじゃない!」
想像もつかない子供っぽい声でフィスティシアがエモールの指摘を否定する。だが、残念なことにエモールの言葉に偽りはない。フィスティシアは学園内を歩いている時も、常に誰かの後ろを歩くようにしている。少し目を離せば迷子になっているようなレベルの方向音痴、完璧超人たるフィスティシアの唯一の弱点だ。
「この間も迷路からずっと出てこなくてね〜。メモっちと探し回ってようやく見つけられたんだから」
「迷路?」
聞きなれない言葉にモニカが反応する。それに答えたのは、まだ微かに顔を赤くしているフィスティシアだった。
「私たちの訓練場だ。少し離れた場所にあるが、鍛錬にちょうどいい場所でな」
「秘密基地的な? いつも3人で遊んでるんだ〜」
モニカ率いる共犯者たちの足取りは軽く、ステップを踏むような軽快な足取りで進んでいく。前方では、楽しそうに談笑するモニカとフィスティシア、気まずそうにしているが、ヨナとアリシアもぎこちなく会話に参加している。
だが、その中で、唯一重い足取りで憂鬱そうに歩く共犯者が1人。パーシーはその人物に近づいて、他の誰にも聞こえないくらい小さな声で会話する。
「ねぇソフィア、何かあったの?」
「……分かってて言ってるんでしょ?」
わざとらしく質問するパーシーに、ソフィアは包み隠さず言った。魔法の痕跡は、実力者であればあるほど見抜かれやすい。戦場に残された魔力の残りカス、逃げる際に足跡のように残る魔力。そして、誰かに魔法を使った場合にも、僅かながら魔力は残る。
ヴェローニカに付着した魔法の痕跡。パーシーはそれを見逃さなかった。魔力から犯人がソフィアであると、パーシーは推測する。そして悲しいことに、その推測は的中してしまった。
1番後ろを歩き、パーシーはソフィアと肩を組む。同じクラスの、仲のいい友達。それくらいはするだろうと、振り返ったフィスティシアにも疑われなかった。
「今日は楽しい女子会だから、これ以上は言わないよ」
キリキリと、何かが軋む音がソフィアの耳に入る。ふと横を見ると、景色が歪んでいた。これは、重力の魔法。パーシーが最も得意とする魔法だ。
「何か事情があるなら聞くよ。ヴェローニカのこと、多分モニカは放っておけないだろうし。でもね」
釘を刺すように、パーシーは続ける。
「モニカ、怒るの下手だから、代わりに私が言ってあげる」
空間が歪んで、元の景色が分からないくらい歪曲する。だというのに、ソフィアに傷は一切なく、じめんや周りの空間にも影響はなかった。重力だというのに、地面がへこんだ様子はない。変化しているのは風景だけだった。
「もし、モニカに手を出すって言うなら私が許さない。跡形も残らないくらいぺしゃんこにさせるから、覚悟してね」
ふっと、歪んでいた空間が元に戻る。軋む音も同時に消え、パーシーは先程の表情が嘘みたいに思えるくらいの笑顔でソフィアに行った。
「遅れちゃうから、行こっか!」
だが、その笑顔の裏が見えないわけではない。あれは、パーシーなりの忠告だったのだろう。あまりにも直球すぎる忠告だったが、パーシーらしいと言えばパーシーらしい。たとえ傷を負わせたわけではなくとも、友達に手をかけたことが、パーシーは許せないのだ。
そんなパーシーの忠告の裏の意図に気がついた上で、ソフィアはあえて煽るような口調でパーシーに言う。
「パーシー、大丈夫だよ」
盗らないから
そんな言葉が続くように、ソフィアは言った。その瞬間、パーシーは顔を真っ赤にして反応する。
「そ、そんなんじゃないから!」
「あーはいはい、そういうことにしとくからね」
ソフィアは他人の恋路に首を突っ込むような野暮な真似などはしない。恋を知る少女は囁く。
「私はパーシーを応援するよ」
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