女子会、再び ―2―

 一旦パーシーと解散し、それぞれ共犯者を集めることにしたモニカ。最初はやる気に満ち溢れていたモニカだったが、運が悪いことに行く先先で人は見つからず、誰も集められないまま数分が経過した。このままではマズイと思ったモニカが何とか人を集めようと行った先は――



(うん……だめだ。やっぱやめ――)



 扉に手を触れかけてモニカは思いとどまる。そのまま回れ右してモニカがその場を後にした直後、背後の扉が開いた。



「ん、エストレイラか。こんなところで何をしている?」


「フィ……フィスティシア先輩……今日、これから空いてたりしますか……」


「随分気分が悪いように見えるが?」


「気にしないでください……」



 もうすべて手遅れだと気づいたモニカはそのまま場を乗り切ることにする。多忙だと聞いていたフィスティシアを巻き込むことには罪悪感があったが、こうなってしまったらもう仕方ないと割り切ることにした。

 フィスティシアの後ろからはエモールがひょっこりと顔を出してモニカを覗き見る。どうやらちょうど生徒会の仕事が終わった時に尋ねていたようで、生徒会室は綺麗に整理整頓されて消灯もされていた。



「なになに? モニカっち、何か用?」


「えーっと……ちょっと、一緒にでも……どうですか……?」


「私を、誘いに来たのか?」


「忙しかったですよね! すみません!」


「ふふ〜ん、モニカっちはタイミングいいね〜」



 エモールはいたずらっぽく笑いながらフィスティシアの脇腹をつつく。フィスティシアは少しムスッとした顔をしてエモールの丁寧にセットされた髪に手を置いてをくしゃっとさせる。



「ちょっ、やめて!」



 わしゃわしゃと髪をかき乱されたエモールは素早くフィスティシアから距離をとって野良猫みたいに威嚇する。そんなことは気にもせずにフィスティシアはモニカに言った。



「今日の仕事はこれで終わり、放課後の訓練も久しぶりにない。これから帰ってゆっくりするつもりだったが、付き合おう」


「い、いいんですか!」


「ちょっと〜、あたしもいるんですけど?」



 除け者にされたと感じたエモールがモニカの背中にくっつく。ほんのりの感じる温もりはエモールが自動機巧人形オートマタであることを忘れさせるほど暖かかった。バッグからキーホルダーみたいに『鍵』をぶら下げているところからはエモールの警戒心の無さが伺える。



「それで、私を招待するからにはそれなりの店を用意してあるんだろうな?」


「そ、それはちょっと……フィスティシア先輩の舌に合うかはどうか……」


「性格わるーい」



 エモールは起こるフィスティシアから逃げるようにモニカを追い越して廊下を早歩きで進む。ちゃらちゃらと『鍵』とそれに連なるキーホルダーを鳴らしてはしゃぐエモール。それを見て注意はしつつも楽しげに笑うフィスティシア。モニカから見た2人はとても学園序列最上位の魔法使いには見えなかった。

 1年の教室がある層、中央の花庭を通り過ぎようとした時、モニカは花庭にある人影を見つけた。桃色の髪をした、クラスで1番可愛い女の子。



「先輩、先に行っててください。すぐ追いつくので!」



 そう言ってフィスティシアとエモールを先に進ませ、モニカは花庭に足を踏み入れた。モニカの目に間違いはなかったようで、花庭のベンチに座っていたのは案の定、ソフィア・アマルだった。



「ソフィア〜!」


「……モニカ」


「こんなところでどうかしたの?」


「うん、ちょっとね……」



 随分やつれた様子でソフィアは花庭で黄昏ていた。モニカは何も考えずとりあえずソフィアの隣に座って一緒に花を眺めることにした。



「……モニカってさ、たまにおかしいよね」


「急に何?!」


「だって、この間あんなこと言われた相手に、普通はこんなに仲良くしないって」



 あんなこと、というのはきっと旭のことだろうとモニカは理解した。寝付けなかったある日の夜、寮の食堂でばったり会ったソフィアと話した内容を、モニカは今でも鮮明に覚えている。



「ソフィアは……旭のこと、好きなの?」


「…………好きだよ。モニカよりも」


「え? ソフィアって私の事好きなの……?」


「そういう意味じゃない!」



 少し話しているうちにソフィアにはすこし活気が戻ったようで、大声でモニカにツッコミを入れる元気くらいはあるらしい。



「私は……! モニカの『好き』よりも、もっとずっと旭が『好き』なの!」


「……恥ずかしくない? そんな大声で」


「恥ずかしいよ!」



 顔を真っ赤に染め上げたソフィアは足をバタバタとさせながらもどかしい感情を顕にしていた。モニカは新鮮な表情を浮かべているソフィアの顔を見ようと俯いたソフィアをこっそり覗き込む。それに気がついたソフィアはモニカから必死に顔を逸らし、両手で顔を覆い隠した。



「顔、真っ赤」


「知ってる……」



 小さくため息をつくソフィアの顔は、絵に書いたようなこいする少女の顔だった。頬を赤らめ、藍色の夜空を眺めて、ソフィアは今も旭のことを想っている。



「だって、好きなんだから仕方ないじゃん……」



 思わず関係のないモニカまでキュンとしてしまうような表情を浮かべて、ソフィアは聞いてもいないのに勝手に話を広げていく。



「だってさ〜……旭はかっこいいし、そりゃライバルがいないわけないって思ってはいたよ? でもモニカはズルいって……」


「なんで?」


「だって、モニカ可愛いし……旭は元々極東にいたんだから、黒髪がタイプなのかな〜……染め直そうかな〜」


「え〜、私は桃色の髪の方が好きだなぁ」



 モニカは適度に相槌と会話のキャッチボールを続けて、ソフィアと楽しそうに会話をする。言いたいことをすべて言い終えたソフィアは、満足気にしているモニカに言った。



「……ねぇモニカ、1つだけ……言ってもいい?」


「何を?」


「私の魔法、『愛』の魔法は人の恋心を操れるの」


「……それで?」


「まったくない恋心を芽生えさせることはできないけどね、の好意があるなら、その人の恋心は私の意のまま」



 それは、ソフィアが幼い頃に目覚めた魔法。愛に飢えていた少女に、誰にでも愛される魔法が目覚めたのだ。



「ズルはしない。友達と好きな人にこの魔法は使わないって決めてるの」



 けれど、それにも例外がある。好きな人に危害を加えるのなら、ソフィアは友達であろうと容赦しない。たとえそれが、共に女子会をした友達であっても。



「私は、ヴェローニカに魔法を使った」



 ソフィアは聞いてしまった。ヴぇローニカが旭を、そしてモニカの命を狙っている事を知ってしまった。

 だから、そんな計画なんてどうでもよくなるほどの恋心を花咲かせた。宮本国綱という、秘密を共有する者に寄せられた淡い恋心を、ソフィアは助長させたのだ。



「……だから、ヴェローニカは学園に来てないの?」


「ごめん、それは私にも分からない」


「そっか……」



 悲しそうにそういうモニカに裁かれるつもりで、ソフィアは目を閉じた。次の瞬間、モニカは告げる。判決はもちろん――



「じゃあ、一緒にスイーツ食べよっか!」


「…………はぁ?」

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