第四章『心と体、繋ぐもの』 ―後編―

女子会、再び

「パーシー! 今日、放課後空いてる?」


「空いてるよ。もしかして〜……例の?」


「そのもしかしてです!」


「じゃあみんなも呼ぼっか!」



 授業が終わり、バウディアムスに鐘の音が響く。それと同時に、モニカとパーシーはある計画を実行する。いつもよりも急ぎ足で帰り支度を整え、2人はを募る。

 最近は勉強漬けで疲れきった体と脳。テスト間近ということもあり、あのモニカが授業中にうたた寝をするくらいには疲労が溜まっていた。



「ヨナ。どうせ暇でしょ? ちょっと付き合って」


「……あなたといっしょにしないでください。私はこれから勉強を――」


「モニカも来るよ」


「行きます」



 3人目の共犯者、ヨナ・アージェントを捕まえて、パーシーは少しため息をつく。ヨナが嫌いなんてことはない。だが、同じ人に恋をするライバルとしては、やはり気分は乗らない。

 当の本人は相も変わらず何も気がついていないが、ヨナもまた、モニカに好意を寄せている。LIKEか、LOVEか。どちらかと言えば前者であることにパーシーはひとまず安心する。だが、ヨナがもしかすると、本当の意味でのライバルになるかもしれないと考えると、油断はできなかった。



「ヨナはさ、モニカのどこが好きなの?」


「……言葉にしようとすると難しいですね」



 その言葉に、パーシーは首を縦に降って激しく同意した。「好き」の理由を言葉にすることは難しい。「とても好き」ならば尚更だ。なぜ好きなのか、それを、直感的に好きだから、という理由で片付けたくはない理由が、2人にはある。



「そうですね。私の想像もつかないことをしてくれるから、でしょうか。モニカといると、退屈しません」


「昔からトラブルメーカーだからね、モニカは」


「幼なじみアピールやめてください」


「あ、バレた?」



 2人はその言葉を口にする時が来るのだろう。いつか、モニカに自分の気持ちを伝える日が訪れる。それは、ライバルとの戦いではなく、最終的には自分自身との戦いになる。そのことを理解しているからこそ、2人はライバルであり、友達でいられる。



「いつまでもヘタレじゃいられないよね」


「15年間ヘタレだったあなたが言いますか」


「あ、メルティだ。おーい!」


「今露骨に話逸らしましたね」


「しーらない!」



 痛いところを突かれたパーシーは目の前に見える4人目の共犯者、メルティ・ヴァンチャットを呼んで話を逸らす。

 メルティは『嘘』の魔法に目覚めた魔法使い。女子会で一度見せた魔法は、触れた相手の嘘を見破る魔法だった。引っ込み思案な性格なメルティも女子会を通してモニカやパーシーたちと仲良くなり、今では少し明るい性格に変わりつつある。



「メルティ、今日空いてる?」


「ご、ごめんなさい。今日は先生に呼ばれていて……」


「呼び出し? メルティ、何かやっちゃった?」


「ち、違います! ジョカ先生に呼ばれていて……私の魔法が必要らしくて」


「そっか、じゃあまた今度!」



 古書館での一件があってから、メルティは時折獄蝶のジョカやアステシアに呼び出されている。嘘の魔法はその特性から、尋問などに有用だ。恐らく、メルティが度々呼び出されているのはその関係だろうと、パーシーは予想した。

 共犯者を捕まえ損ねたパーシーは次のターゲットを探してヨナと一緒に歩き回る。しばらく歩いてたどり着いたのは食堂。パーシーはそこに見慣れた影を見つけた。



「アリシア発見! ヨナ、捕まえて!」


「嫌ですよ。反撃されるでしょう」


「2人とも、何か用?」



 透き通るほど白く美しい髪をなびかせてアリシアがパーシーに言う。雪の魔法を使うアリシアはクラス・アステシアでも上位の実力を持つ。男子を除いた女子だけの勝負をした場合、パーシーとアリシアには誰も勝てないほどだ。モニカならあるいは、可能性はあるかもしれない。



「今から暇? 息抜きしない?」


「う〜ん、そうね。最近はあんまり肩の荷がおりることもなかったから、今日くらいは付き合うわ」


「はーい、共犯者様ごあんなーい」


「え、なに……? 私は今から何をさせられるの?」


「私にもさっぱりです」



 ヨナとアリシアは不安がりながらも!頑なに何をするのか教えようとしないパーシーについて行く。いくら質問しても、「内緒」以外に答えようとしないパーシーを見て、余計に不安な気持ちになっていった。



「もしかして……またモニカの実験台にさせられる……?」


「や、やめてください……思い出してしまいます」


「え〜? そんなにトラウマ?」



 嫌な事件だったと、2人は声を揃えて記憶を封じようとする。数日前、ヨナとアリシア、そしてパーシーはモニカの『新技』の実験台としてモニカに呼び出された。

 奇跡を起こす星の魔法。全知の影響か、星の魔法を使いこなしつつあるモニカに一日中付き合わされ、3人が酷い目を見たのは言うまでもない。



「もう二度体験したくないです」


「ほんと、デタラメすぎるわ」



 実戦形式で行われた実験。2人の想像していた以上に、モニカの星の魔法は凶悪だった。

 ‪”‬星の奇跡ステラ‪”‬によって起きる奇跡。あらゆる状況を覆し、モニカを有利に働かせる奇跡が起きる。突如魔法は使えなくなり、何も無いのに何度も地面に躓いて転んでしまう。どこからともなく飛んでくる記事に視界は遮られ、また転ぶ。

 最後にはモニカの新技、『‪”‬光輝の魔弾ルミナス・バレット‪”‬』によって身体中ズタボロにされた。加えて、対人では撃てないようなとんでもない魔法も控えているらしく、パーシー、アリシアに次ぐ実力者として台頭している。



「あんなに強くて、それでいて魔法を使えるようになったのはつい最近って……」


「末恐ろしいですね」


「でも……」



 本当に恐ろしいのはモニカではないと、2人は息を飲む。モニカの実験台として理不尽に敗北した2人とは違い、もう1人の実験台、パーシーはモニカの使う星の魔法をものともせず、逆にモニカを倒してしまった。



「あれに勝てるって相当おかしな実力ですよ……」


「そんなに実力差はないイメージだったけど、やっぱりクラウディアは飛び抜けて強いね」


「はいはい、私の話は終わり。そろそろモニカと合流するよ〜」



 歩いているうちに3人は外へ出た。そこには既にモニカが共犯者を連れて待っているようで、パーシーたちを見つけて大きく手を振っている。パーシーたちはモニカに手を振り返し、一緒にいる共犯者に目をやる。そこにいたのは、思わず「はぁ?」と言ってしまうような場違いのようにも見える面々だった。

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