第14話 オトナの女計画始動
(今日の私はオトナの女……!余裕たっぷりな態度で湊くんをドキドキさせる……!)
昨日咲姫に電話で宣言したように今日の綾乃はやる気に満ちていた。
いつもより30分ほど早く起きた綾乃は制服に着替え学校に行く準備をしたあと、弁当を作り始める。
渾身の出来に一つ頷くともう既に起きていた慎也と綾実に挨拶する。
「お父さん、ここに弁当置いておくね」
「ああ、いつもありがとう」
「ううん、自分の弁当作るついでだしそこまで手間じゃないよ」
「それでもだよ。ありがたいものはありがたいんだ」
夕凪家では大体綾乃と綾実が弁当を作るのだが別に当番制というわけではなく、綾乃が弁当を作るときは慎也の分も作っているのだ。
理由は単純で綾乃が弁当を作る時はキッチンを占拠しているので綾実が弁当を作る時間が無いからである。
綾乃が弁当を作るのは週に一度あるかないかくらいだが今日の計画に必要だったので自分で作ったのだ。
「それじゃあ私は行ってくるね」
「あら、もう行くの?」
「うん。今日は湊くんの家に寄ってからいくの。ちゃんとおばさんの許可は取ったから」
「あらあら湊くんの家に……今度何かお菓子でも持っていこうかしらねぇ」
夕凪家は家族ぐるみの付き合いがある。
というのも湊の母と綾実が高校時代の同級生であり、たまたまこの街で再会したため綾乃たちが小さい頃からよく2人は遊んでいたのである。
「ふふ、まるで通い妻みたいね?」
「〜〜っ!?わ、私もう行くから!」
「ふふっ、いってらっしゃい」
「車には気をつけるんだぞー」
慎也と綾実の見送りを背に、綾乃は歩きだす。
目指すは湊の家。
徒歩5分ほどのご近所さんなので湊の家にはあっという間に着いた。
(ふぅ……私なら大丈夫……今日のためにたくさん勉強したし……!)
綾乃はあの後電子書籍で女性用のもので多い恋愛ものではなく、男の子が主人公のいわゆるラブコメの漫画やラノベを何冊か購入した。
それで男の子がどういう女の子が好きなのかを勉強してきたのだ。
(男の子は毎朝起こしてくれる幼馴染が好き……だったら私も……!)
寝ている湊を起こしてお姉ちゃんポイントを稼ぎつつ湊の寝顔が見れる一石二鳥。
これが綾乃の考えた作戦だった。
「お、おじゃまします……」
湊の家の扉をそーっと開ける。
朝からインターホンを鳴らすのはよくないので湊のお母さんがあらかじめ開けておいてくれたのだ。
久しぶりの湊の家に緊張しつつ、綾乃は家の中に入った。
中学生くらいから来ることはなくなったが一歩足を踏み入れるだけで懐かしい思い出がいくつも蘇ってきた。
「あれ?綾姉?」
「え……湊……くん?」
家に入った綾乃を出迎えたのは湊母ではなく湊本人だった。
予想外の展開に綾乃はテンパるが湊はいつも通り柔らかな表情を崩さない。
「おはよう、綾姉」
「お、おはよう。湊くん」
(な、なんで起きてるの!?私が起こしてあげる予定だったのに……)
「取り敢えず上がってよ。綾姉を立たせたままにするわけにはいかないからさ」
そう言って湊は綾乃のカバンを受け取った。
綾乃は少し急いでローファーを脱ぎ、かかとを揃える。
湊と一緒にリビングに行くと一人の女性が目を輝かせて近づいてきた。
「久しぶり綾乃ちゃん〜!元気だった!?」
「ふふ、おはようございます。おばさん」
綾乃に嬉しそうに抱きついてきた女性は
湊の母親であり綾実の親友だった。
いつもこんな感じなので綾乃も優香に会って顔をほころばせる。
「も〜!おばさんじゃなくてお母さんでもいいのよ?」
「母さん、綾姉が困ってるでしょ?そのへんにしておきなよ?」
「湊はケチね。久しぶりの再会なんだからちょっとくらいいいじゃない」
「綾姉に迷惑をかけていい理由にはならないでしょ」
湊は苦笑しながら台所へ歩いていく。
綾乃はさっきまで驚きで気づいていなかったが湊はエプロン姿だった。
そして手際よく何かを作っていく。
「綾姉も朝ごはん食べる?その顔だとあんまり食べてないんじゃない?」
「ぁ……」
弁当の味見を結構したから失念していたが綾乃は朝ごはんを食べていない。
元々少食の綾乃からすれば足りない量ではないのだがいつもより少ないことは間違いなかった。
「食べていきなよ綾乃ちゃん!」
「……いいの?湊くん」
「もちろん。すぐにできるから少しだけ待っててね」
「う、うん……」
そして綾乃は優香のすすめ、というか半ば強引にソファーに座らされお話をする。
いつ見ても若々しくて羨ましいが綾実にそっくりだなとも思う。
2人が仲がいいのも分かる気がした。
「できたよ、2人とも」
5分後、湊の呼びかけで話は一度中断する。
立ち上がるとハムと卵の乗ったトーストと牛乳が並べられていた。
(お、美味しそう……)
しかしここで気づいてしまう。
起こしに来るどころか湊は既に起きていて、なんなら綾乃は朝食までご馳走になってしまう。
これではお姉さんどころか逆に迷惑をかけているのではないだろうか?と。
(う、うぅ……ま、まだこれからだから!まだ挽回できるはず……!)
そんな決意を胸に綾乃は日和家の朝食の席に着くのだった──
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