第38話 中途半端な私だからこそ、できること
異世界転生。
オタクなら誰もが一度は夢にみるだろう。
しかし、どんな種類の異世界転生なのかによって、楽しいか否か決まってくる。
一言に異世界転生と言っても、様々なジャンルがある。ここで事細かに違いを語りたいところだけど、ザックリと2種類にまとめることを許してほしい。
主人公が楽しく過ごせる能力を持っているか、そうで無いかだ。
前者は、バトルに使える能力とは限らない。スマホとかネットショッピングとかだ。
対して、それが無い場合の異世界ものも存在する。創作物としては、個人的にこっちの方が好きだ。
役には立つが、異世界の闇に触れる可能性が上がる能力。死に戻りとか神の力とか魔法の才能とか。
この手の能力を持ってしまうと、その内第一線で殺し合う運命に導かれる。観ている分には面白いが、自分の身に降りかかってきたらと思うとゾッとする。
特に、死に戻りなんか最悪だ。
あのアニメの主人公にアンチが多いようだけど、私は彼を尊敬している。心が折れかけることはあるが、完全に狂うことはなく、最後にはたくさんの人を救っている。
私だったら、第1章でヒロインの銀髪ハーフエルフを見捨てて逃げる。
さて、身体的にも精神的にも弱い私に与えられた能力はどういうタイプだろうか。
愛佳先生の作品のキャラクターになれたのなら、少しは頑張ってみよう。
死亡遊戯の舞台へ、一歩踏み出す。
今まで生きてきた現実世界よりも、胸を張れている気がする。
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所々に血痕が残されていた。
床はもちろん、天井や高そうな絵画や壺などの嗜好品にもベットリと黒い血液がベットリとついている。
体内から出た赤い血が、時間経過によって黒くなるのは有名な話だが、実際に目にするのは初めてだった。そのドス黒い液体‥‥‥いや、もう固体と呼ぶべきだろう。それを見た時に死ぬ覚悟が決まった。
一応言っておくが、私はこのゲームを勝ち抜こうなんて分布相応なことは考えていない。エミリーやユメのような復讐心も、ルカのような異常性も無い私が彼女らに打ち勝てるわけがない。
現実世界でヌクヌクと育ってきたくせに絶望感は無駄にある中途半端な私の役割は、精々掻き乱すこと。
このゲームの裏側を知っているアドバンテージを活かして、新たな展開を作るための捨てキャラ。
中途半端な私だからできることだ。
なんてありがたいのだろう。
自分に価値を見出せない人生の最期に、まさかこんなに楽しいイベントが待っているなんて。
待っていてね。愛佳先生。
貴女の作った物語を、もっと面白くするために捨て身で頑張るよ。
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さて、まずは自分の能力を確認しなければ。
「‥‥‥ガフっ」
最低限の準備をする前に、聞きなれた声が聞こえてきた。
おそらくは、人間が咳払いのようなものしたであろう声。
声のした方に目を向けると、オシャレなゴミ箱があった。さすが、愛佳先生のデザインした舞台だ。ゴミ箱までセンスを感じる。
それを、私は知っている。仕事のサービス対象であったエミリー・サンドリアが引きこもっているゴミ箱だ。
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