魔導具師ダリヤ

 ヴォルフは緑の塔を出て、朝方に王城に戻った。

 門内で、眼鏡の鑑定と登録に少しばかり時間がかかった。

 門にいる鑑定士からは、認識阻害の眼鏡の開発は少し前から行われており、それなりに成果も出ていると聞いた。このため、眼鏡をどこで買ったかも尋ねられなかった。

 ただ、不思議なことに、眼鏡の『雰囲気を変える効果』は、自分にしか効かなかった。

 確認のために鑑定士がつけても、ただ目の色が色ガラスの分でわずかに変わるだけで、顔の感じは変わらない。しまいには「そもそも元の目の出来が違いすぎるのでは」という話になった。

 その横にいた兵士にいたっては「きっと美男子専用なんですよ」などと言い、笑われて終わった。

 その後、兵舎の自室で休もうとしたが、少し眠っただけですぐ目が覚めてしまった。

 浴場でざっと水を浴びると、身繕いをし、眼鏡をかけてまた、街に出る。


 王城を出て、人の多い中央区に向かった。

 ちょうど市場がにぎわう時間だ。

 山のように野菜や穀物が並んだ店先、台に氷を置き、その上に山と積まれた肉や魚、一抱えもある花、暴力的なほど匂い立つ香辛料。それらが長く並ぶ通りは、早朝だというのに息切れしそうなほどに人が多い。

 売り子の声、値切る声、挨拶や雑談など、まるで音の洪水だった。

 ヴォルフは眼鏡を一度だけ押さえると、足早にその中に紛れ込んだ。

 人混みの中、いろいろな人とすれ違うが、誰もヴォルフに目をとめない。

 たまに、自分の長身や色の入ったレンズの眼鏡が珍しいのか、一瞬だけ視線が向いても、すぐ興味が他へうつっていく。

 自分にからむ熱のある視線も、重い視線も、ぶしつけな視線もなかった。

 ただの街並み、ただの人混み。その中に紛れることができるのは、ひどく新鮮だ。

 それは、当たり前に目の前にあって、自分には当たり前でなかったものだ。

 自分がようやく王都の一部になれたことを感じつつ、ただただ歩いた。


 歩き続けていると、昨日来た中央区の公園まで来てしまった。

 通りで屋台の準備をする人影はちらほらあるが、公園内には見当たらない。

 ヴォルフは公園内の緑と花の香りを感じながら、昨日、ダリヤと座ったベンチへ向かった。

 ベンチによりかかり、ふと、空を見上げる。

 今日の空は雲ひとつなく、どこまでも青い。

 空に、眼鏡のレンズのわずかな青みが重なって、より青い。

 その青さがあまりにも目にしみて、ヴォルフは一粒の涙をこぼした。


 ・・・・・・・


 子供の頃から、魔法以外のたいていのことは苦もなくできた。

 勉強も剣も礼儀作法も、スカルファロット伯爵家の四男として期待されることぐらいをこなすのに、努力はいらなかった。爵位なしの第三夫人の子として、上の兄達と比べて目立たないよう、その程度を基準に日々をすごしていた。

 母は伯爵家の第三夫人として何不自由ない暮らしをしていたが、時々、ガラス玉のような目で外を見ていた。

 元々、母は公爵夫人の護衛だったが、父に強く願われ、母の実家が結婚を決めたという。

 周囲からはたいへんなたま輿こしと言われたそうだ。母自身は騎士のままでいたかったらしい。

 母は水の魔力に優れ、氷剣アイスソードを出して戦うことさえできた。

 そして、つややかな黒髪と雪の如き肌を持つ、とても美しい人だった。

 母との子供ならば、さらに魔力の高い、水魔法の得意な子供が生まれるのではないか、あるいは、それなりの魔力でも、容姿の整った娘が生まれれば、高位貴族へ嫁に出せるのではないか。

 父が期待したのはそういったことだったろう。

 しかし、生まれた自分は、貴族向けの五要素魔法の才能が皆無のハズレ。しかも目立つ容姿を持った娘ではなく、息子だった。

 父は自分に興味がわかなかったらしい。親しく話した記憶がまるでない。


『身体強化が使えるのだから、ヴォルフレードは騎士になればいい』

 母にそう言われ、剣を学んだ。

 幼い自分に、母の指導はなかなかに厳しかったけれど、どんなに剣を振っても、魔導師を目指す兄達を超えることはない。何も考えずに没頭することができた。

 母は自分を励ますためだったのか、よく騎士が活躍する本を読んでくれた。

 そこに出てくる魔剣に、自分は強く憧れた。

 魔法が使えなくても、魔剣なら振るえる。

 そうしたら魔法剣士の母を超えて強くなれるのではないか。

 何者にも負けない、強い騎士になれるのではないか、そんなことを夢見た。


 夢が砕けるのは案外早かった。

 初等学院の頃、父の第一夫人とその子供である一番上の兄、第三夫人である母と自分という組み合わせで領地へ出かけた。馬車の数も、護衛の数も十分にそろっていて、安全なはずだった。

 だが、王都のほど近くで、多数の盗賊に襲われた。

 母は自分を馬車の座席下に隠し、飛び出していった。

 男達の叫び、火魔法らしい爆発音、剣のぶつかりあう音──少しだけ静かになったとき、窓からのぞくと、第一夫人の乗った馬車の前、母が肩を刺されていた。

 馬車の壁面には護身用の長剣があった。カチカチと鳴る歯をみしめ、震える手でそれを持って飛び出すと、母の体はすでに地面の上で二つとなっていた。

 叫んだのか、怒ったのか、泣いたのか、その後に喉から吐かれた音は、耳に覚えがない。

 そこからの記憶は穴あきだ。

 男達の間をぬうように斬っていたら、視界が真っ赤に染まり、そして、真っ暗になった。


 気がつくと、神殿の施術用ベッドの上だった。

 自分の両腕と右足が妙にきれいだったのを覚えている。

 横にいる父から、母の死と、第一夫人と兄の無事を聞かされた。その後、『よく戦った』と言われ、痛いほど抱きしめられた。

 それが今までで記憶に残る、ただ一度の父の抱擁だ。


 もっと自分が早く馬車を出ていれば、母は死ななかっただろうか。

 もっと自分が強ければ、母は死ななかっただろうか。

 魔法の使えない自分に、魔剣があれば、母を救えただろうか。


 神殿で付き添いの侍女とただ泣いてすごして数日後、屋敷に戻ったときには、いろいろと終わっていた。

 第二夫人の実父が病死し、二番目の兄は、遠乗りに出かけ、落馬して死んでいた。第二夫人は、亡くなった実父と息子の弔いのため、修道院に入ったと聞かされた。

 子供の自分でも、どういうことかはよくわかった。

 剣よりも人の方がはるかに怖い。そして、父も怖い。ただそれだけを理解した。


 不安定なままの自分が育っていくにつれて、周囲の女達、一部の男達が変わっていった。

 熱い視線も、まとわりつく声も、あからさまな誘いも、どれもうっとうしいばかりだった。

 その次に変わったのは男達だった。

 嫉妬と中傷が増え、ようやく友達ができても、女性に仲を裂かれる形で、周囲の誤解は増した。

 新しい友人を探すことも、誤解をとくことも面倒になり、ただ剣の鍛錬に没頭した。

 騎士団に入るとき、家柄が最も関係ないと聞いて、魔物討伐部隊を希望した。赤鎧スカーレットアーマーを希望したのは、その役が己にちょうどいいからだ。自分がいなくなったところで困る者は誰もいない。

 隊の友人と適当に付き合い、それなりにうまい酒と食事を楽しみ、鍛錬に没頭する。

 いずれは魔物と戦って死ぬか、騎士をやめるまでこうしていくのだと思っていた。


 それでも、呪いのように、祈りのように夢見ることがあった。

 自分の魔剣が欲しい。

 魔剣があれば、魔法剣士であった母と戦っても勝てるかもしれない。

 いまだに一度も救えたことはない、夢で見るあの日の母を救えるかもしれない。

 それこそがかなわぬ夢だと、わかってはいたが。


 ・・・・・・・


 一度眼鏡を外し、またかけ直す。

 この眼鏡を見る度に思い返すのは、一人の魔導具師の姿だ。


 ワイバーンと共に落ち、森を抜けたあの日、ダリと名乗る青年に助けられた。

 話しながら、あまりに楽しくて、ただもう一度会いたいと切に願った。

 願いはかない、再会後に魔剣と魔導具について話し、一緒に食事をし、酒を飲んだ。一緒にいるだけで、なにもかもが楽しかった。


 そのダリこと、ダリヤ・ロセッティは、魔導具師だった。

 レンズに魔法付与をしているとき、彼女の額からは滝のような汗が流れていた。目に入りそうなそれを袖で無造作にぬぐい、共に化粧がはがれても、視線はまったくぶれない。その姿に、自分の視線は完全に奪われた。

 あれほどにしんで美しい女の顔を見たのは、生まれて初めてだった。

 その後で、自分に手渡されたこの眼鏡。彼女は妖精結晶を使ったこの眼鏡で、自分に普通の景色を教えてくれた。この王都に溶け込ませてくれた。

 たった三度会っただけで、自分の世界を変えてくれた。


 ただ、ダリヤの友情が欲しい。

 ただ、その隣で共に笑って話していたい。

 魔導具師としての彼女を応援したい、望むものがあれば与えたい。

 彼女を害するものがあれば、自分がそこから守りたい。

 だが、これは恋ではない。ダリヤとは恋愛関係になりたくない。

 もしそうなってしまえば、いつかは別れることになる。自分が彼女を傷つけることすらあるかもしれない。

 ダリヤも自分に恋愛関係を求めていない。

 自分に一度として熱のこもった視線を向けぬ魔導具師は、ただ、友となった自分を守ろうとしてくれただけ。

 だから自分は、一人の友として、彼女の隣にいよう。

 よこしまな思いをいだかず、ただ友愛と尊敬を彼女に持って。


 ヴォルフはもう一度、空を見上げた。

 レンズ越しの空はとても青い。間もなく輝く太陽が過ぎていくだろう。

 そして、青年は気づかない。

 レンズの下の黄金に、とうに恋慕の輝きがあることを。


 ・・・・・・・


 昼過ぎ、ダリヤが作業場で防水布の確認をしていると、門のベルが鳴った。

 イルマかと思って出てみると、そこには、朝方帰ったばかりのヴォルフがいた。

 しっかりと妖精結晶の眼鏡をかけている。

「いきなり来てすまない。昨日の眼鏡の支払いとこれだけ早く届けたくて」

 ヴォルフの口調が妙に早い。

 渡されたのは、支払いの金貨が入っているらしい革袋と、黒革の書類ケースだった。

 まるで投げたボールを拾ってきた犬のような顔で渡さないでほしい。

 そんなに眼鏡がうれしいのかと首をかしげていると、彼は笑顔で言った。

「いろいろ考えて、きちんと公証人に書いてもらった。大事な友人に迷惑はかけたくない」

「まさか……」

 とてつもなく嫌な予感と共に書類を開くと、『ダリヤ・ロセッティを対等なる友人とし、自由な発言を許し、一切の不敬を問わない』の文字が見えた。

 後はなにやらそれを補足する長い長い文章である。

 しかも羊皮紙は一枚ではなくて二枚あった。すべて読むのが心から恐ろしい。

 やりやがった──言葉が悪いが、そうとしか浮かばない。

 公証人の署名を見れば、なぜか商業ギルドのドミニクだった。

 次にドミニクにどんな顔で会えばいいのだ、なんと説明すればいいのだ。

 ダリヤは今すぐ自室のベッドの下に潜り込みたくなった。

「本当に作るとは……しかもなぜに商業ギルドなんです?」

「王城とか貴族関係の公証人だと、いろいろ気を回されそうだったから。商業ギルドで、『魔導具制作の相談をしたいので、その魔導具師が遠慮なく自分と話せる形にしたい』って説明したら、ドミニクさんが相談にのってくれた」

「そういうことだったんですか」

 そういった形であれば、ドミニクにもそれなりに納得してもらえたかもしれない。切実にそう願いたい。


「で、そのドミニクさんにすすめられたんだけど、俺もロセッティ商会へ出資させてもらえないだろうか? 商業ギルド経由で、きちんと」

「は?」

 公証人のドミニクがなぜヴォルフに出資をすすめるのか、そのあたりがわからない。

 出資者の人数は間に合っているし、今以上の資金を集めてもいない。

 ロセッティ商会は、ダリヤの仕入れのためだけにおこしたようなものだ。

「いや、新しい防水布とか剣の付与を先にするためにとかじゃないんだ。作ってもらった眼鏡のようなすごいものが生まれるかもしれないなら、ぜひ応援したい。どのみち使ってない貯金もあるし。それに出資者に貴族名が増えると、いろいろな素材が買えるチャンスが上がるって言われて……」

 説明された理由に、深く納得した。

 ドミニクにかかれば、ヴォルフも私も子供のようなものだ。おそらく、私の素材探しの可能性を広げるために、出資者に『スカルファロット』という貴族名を入れてくれようとしたのだろう。

 この際、素材の幅が広がるのであれば利用させてもらおう。

 素材に関していえば、ヴォルフもすでに同じ穴のむじな、ではなくても、隣の穴の狢ぐらいにはなっている。

「……わかりました。ロセッティ商会への出資は感謝してお受けします。仕事としてお受けして、仕事できちんとお返しできるように頑張ります」

「無理を言ったのにありがとう。じゃあ、それはすすめさせてもらうよ。あと、俺に関係することでもそうでなくても、トラブルで困ったら遠慮なく教えて。連絡先もその契約書に入っている、兵舎と家と両方。王城騎士の身分と、スカルファロットの名前でどうにかできることもあるかもしれないし」

「いや、いずれ市井に下りるという人が、それは、権力の乱用じゃないですか?」

「権力の乱用じゃないよ。俺が今の家にいるうちに、ちょっと有効活用するだけ」

 顔は良いが、性格はこんとん

 自分を気遣う優しさもあれば、人をからかうのが好きな悪戯いたずらっ子であったり、従順な犬のようであったり、平民に近く気ままであったり、貴族らしいほの暗さもあったり、この男は、まるで読めない。

 読むことをあきらめて、まとめてヴォルフだと思うのが精神衛生上、一番よさそうである。


「ダリヤ、本当に、心から、ありがとう」

 不意に、ヴォルフが深く一礼した。

 昨日から、貴族の彼が庶民の自分に頭を下げっぱなしな気がする。

 止めようとしたとき、彼は姿勢を戻し、少年めいた笑顔を向けてきた。

「うれしいんだ。これをかけているだけで、自由に歩ける。声はかけられないし、視線も追ってこない。男に何か言われることもなければ、女性に名前を聞かれることもない。今日は、王城からここまで、誰にも声をかけられずに来られた」

「……よかったです」

 今さらながら、聞いているだけでびんである。

 ぜひ、その眼鏡をかけ、普通の街歩きを満喫してもらいたい。

「申し訳ない。やっぱり壊したときのためにスペアが欲しい。もちろん、作るときの大変さを見ているから、今すぐとは言わない。そのうちに、いくらかかってもいいからお願いしたい」

「わかりました。妖精結晶を探して、きちんと金額を計算してお受けします。色はどうします? 今は薄いブルーグレーですけれど、他の色でもできますよ」

 ブルーグレーのガラスと妖精結晶で今の緑の目である。

 今度はガラスの色を変え、妖精結晶に別色のイメージを込めてみるのもいいかもしれない。

 一番の難題は、誰の目をモデルにするかということではあるが。

「これと同じがいい。かけていて思ったんだけれど、この目の色、ダリヤに似ているよね」

「……ガラスの色を別のものに変えましょう! 思いきり違う色に!」

「いや、そうじゃないんだ! 待って、これと同じ色がいい!」

 気恥ずかしさに提案してみたが、ヴォルフに慌てて否定された。

 幼い子供が必死の主張をしているように見えて、つい笑ってしまう。

「冗談ですよ。緑の目の人はとても多いんですから、そんなに気にしないでください」

「ああ、わかった」

「お茶でもいれますか?」

「いや、その服だと仕事中だよね。邪魔したくはないから、また今度来るよ。俺の休みがわかったら使いを出すから、君の予定が合うなら会ってほしい」

「わかりました。じゃあ、次は短剣の付与をしましょうか」

「すごく楽しみにしてる」

 もう次の約束は当たり前で、それを心待ちにしていることが不思議だ。

 今までたった三度しか会っていない。今日会っているのが四度目だというのに、もっとずっと前から知っていたような感じがする。


「じゃあ、また来る」

「お待ちしています」

 眼鏡を一度外し、ヴォルフはその黄金の目でじっと自分を見た。

 まるでとても大切な者を見るようなそのまなざしに、一瞬、錯覚しそうになった。

 さすが高度な美形である。

「本当にありがとう。これから街を一人で歩いてくるよ、で」

 眼鏡をゆっくりとかけ直し、彼は笑顔で来た道を戻っていった。


 足取りも軽く出ていった背中を見送り、ダリヤは作業場に戻る。

 今日のうちに防水布はすべて仕上げよう。

 そして、夜は新しい魔導具の構想を、赤ワインを飲みながら練ることにしよう。


 自分はやっぱり、魔導具師だ。

 幼い頃から魔導具師である父のそばにいた。ずっとその背中を追っていた。

 カルロ・ロセッティの作った魔導具は、多くの人の生活を変え、多くの人を笑顔にしていた。

 それは娘としてとても誇らしいし、父のことは深く尊敬している。

 父の作り出した魔導具を作り続けていきたい。

 そして、いつか、父、カルロのような魔導具師になりたい、ずっとそう思ってきた。


 けれど、自分も一人の魔導具師だ。

 自分のこの手で、新しい魔導具を作り出したい。

 生活を便利にし、誰かを笑顔にする魔導具を世に送り出したい。

 カルロの娘としてではなく、魔導具師ダリヤとして、人を幸せにする魔導具を作りたい──

 もし、父にそう言ったなら、きっと「がんばれ」と、笑ってくれただろう。


 世間からは、魔導具師は微妙な仕事だとも言われる。

 魔導具師なんて、魔導師や錬金術師よりはるかに下じゃないか、そう馬鹿にされることがある。

 魔導師のような派手な攻撃魔法もなければ、人の傷も癒やせない。

 錬金術師のようにポーションが作れるわけでもなく、希少金属も生み出せない。

 いい魔導具を作ったと思っても、そんなものに何の意味があるのかと言われることもある。

 ろくに魔導具の説明書きを読まない人から、使えない、わかりづらいなどの苦情がくることもある。

 魔導具の価格や利益契約のことで、金の亡者と言われることもある。

 開発は手探りで、試作は成功する確率の方が低く、山のような失敗作に気が遠くなることもある。

 どんなに慎重に魔法付与をしても、高い素材ごとダメにすることなどしょっちゅうだ。


 それでも、魔導具師をやっていてよかったと思うことは多い。

 自分の作った魔導具で、誰かが便利になり、誰かが笑ってくれることはうれしい。

 自分の作った魔導具が、少しでも誰かの幸せにつながるのを見るのは、クセになるほど楽しい。


 これだから自分は魔導具師をやめられない、そう思える日があるのだ。


 今日がその日だった。

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