第57話 誘拐犯(2人目)

 燃えさかる炎の中、対峙たいじする俺たちとミズハ。

 場所は敵陣真っただ中。


 周囲は敵兵でかこまれているけど、すでに数の不利はほぼない。

 ピートのり出した技による敵兵のゾンビ化により、戦況はほぼ五分と五分だ。


 むしろ、時間経過けいかでこちらの味方が増えていく。

 故に、邪魔が入る心配はない。

 目の前の強敵に思う存分集中できる。


「約束、忘れてないよな?」

「もちろん忘れていない。あなたが今日を生きれれば私は暗殺者アサシンを辞める。でも関係ない。私がここで今殺すから」


「そうはさせませんよオオォォォロロロロロ……! ふう、失礼。カイトさんにはこれからも美味しいお酒とさかなを開発してもらわなければいけないので。僕はね、もっと色々な美味しいお酒を飲みた……飲み…………ゲボオオオォォォォッ!」


「……私が言うのもおかしいけど、大丈夫?」

「ピート、そろそろ飲むのやめといたほうが……」


「平気平気! まだまだよいくちです! それに、僕の死酔拳しすいけんは『酔えば酔うほど強くなる』んですから!」


 そうは言うけど、大丈夫かなこいつ?

 この最強モード、文句なしに強いんだけど欠点もあって、酔いつぶれた瞬間全てが終わるんだよな。


 ピートの魔法でせっかく味方にできている敵兵たちも、ピートが潰れた瞬間ゾンビ化が解除。

 俺たちは敵陣真っただ中に放り出されるという最悪の状況じょうきょうになってしまう。


 そうなる前に、早く決着をつけなければ。


「ピートのおかげで武器は破壊できた。速攻でたたみかける!」

「ウィ~っく……りょ~か~いで~す……あ、吐きそう」


 俺とピートはけ出す。

 俺は真っ直ぐにフライパンをかまえて、ピートは蛇行だこうしながら拳を構えて。

 ミズハを左右からはさむような形で一撃を繰り出す。



 ――ガギイイィィン!


「舐めないで。たかが武器一つこわした程度ていど。私には関係ない……ハッ!」


 手甲で俺たちの一撃を受けたミズハが回しりを放った。

 ピートは受けきったが、俺は受けきれずに蹴飛ばされてしまった。


「まずい……今の一発で肋骨ろっこつ1本ったかも――おぉぉっ!?」


 ――ドゴォッ!


 体制を立て直して顔をあげた瞬間、目の前にふとももが飛び込んできた。

 肉付きの良いふとももと、大胆なカットのハイレグにいろどられた股間こかん部分に一瞬気を取られてしまい反応が遅れた。


 けることができず、俺はこの渾身こんしんかかと落としを受けざるをえなくされてしまう。

 男のサガが今はうらめしいい。


「ぐ、あぁっ……!」

「今ので腕の骨も逝った。あきらめて死んで。あなたは私に料理の楽しさを教えてくれた人。できれば苦しめたくない」


「そういうわけにいくかよ……! 帰ったら結婚と、初エッチが待ってるんだからなぁ! 獣爪じゅうそう術!」


 ――ヴォン!


「クッ……」


 ミズハの踵を受け止めていた俺の両腕りょううで、その手甲てこうから光の爪が伸びる。

 クロスしていた両腕でそのまま一撃を放ち、ミズハのあしに傷を負わせた。


 よし、これで機動力っきどうりょくが少しはけずれる。


「カイトさん、ナイスです!」


 距離を取ったミズハの背後からピートが奇襲きしゅう

 魔力をまとった両手による連撃がミズハの意識をり取――らなかった。

 即座に反応し受け止められる。


「あなたの一撃は脅威きょうい。でも、こうして食らわなければいいだけ。問題ない」

「そうですね。死咬しこうはまともに当たらなければ意味がない。じゃあ、死咬やーめたっと」

「え?」


 必殺の一撃をあっさり放棄ほうきするピートにおミズハが戸惑とまどう。


死酔拳しすいけん二式――ミイラの型。燥奏そうそう


 ピートの両手に纏う魔力の質が変わった。

 使う魔法を切り替えたようだ。


「な、何……力が、抜けてく……?」

「僕の手に纏わせた魔法は吸命ドレインライフ。触っているとどんどん生気が吸い取られますよ。どうします? 暗殺者の人?」


距離きょり、取らなきゃ……」

「させません」


 逃げようとするミズハを回転しながら追うピート。

 マミーの包帯を一気にほどくかのようなすさまじい回転だ。


 遠心力も相まってさらにするどい一撃になり、ミズハは重めのダメージを食らう。

 ピートがおさえてくれている間に、俺は袋からスライムゼリー(ポーションけ)を取り出し食べる。


 身体の中かで骨が治ったのを感じた。


「いい加減に……して!」

「む!?」


 ミズハがピートの両腕をつかんだ。

 そしてそのまま一気に骨をへし折る。

 ボギン――!


「うぐ、あああぁぁぁぁ……! ぼ、僕の腕が……」

「これで腕は使えない。まず一人。覚悟かくご……」


 ふともものナイフベルトからダガーを取り出しミズハが振りかぶった。

 うずくまるピートの脳天のうてんめがけて一気に振り下ろす。


「……なんちゃって」


 しかし、そのナイフは空を切った。

 そして横っつらにピートの裏拳うらけん炸裂さくれつする。


「なん、で……? 腕……壊したのに……」

「と思ったでしょ? 実は自分から外したんです。死酔拳三式――スケルトンの型」


 グニャグニャとピートが腕を振り回す。

 まるで肉が存在しないかのように、ありえない方向に曲がる腕はちょっと気持ち悪い。


「カイトさん!」

「ああ……ここで一気に決めよう!」


 ピートの合図あいずで俺も再び参戦さんせんする。

 獣爪術による俺の斬撃ざんげきと、死酔拳によるピートの打撃だげきで、徐々じょじょにミズハを追い詰めていく。


 こちらも相応そうおうにくらいはしているが、ミズハのほうが明らかにダメージが大きい。

 これなら――いける!


「動きを止めます! スケルトンの型――死絡しがらみ


 放った肘打ちをじくに、ありえない方向に腕を曲げてそのまま回転式裏拳。

 のけぞったミズハの背後に回り関節技にをめるピート。


「よし、ピート! そのまま抑えてろ! 今終わらす!」


 一撃で昏倒こんとうさせて終了。

 それでこの戦いは終わる――はずだった。


 ――ズブッ!


「え……うあぁっ!?」

「ピート!?」


 ピートが腹を刺されてくずれ落ちる。

 背後から全身を極められていたはずなのに、どうやってナイフを刺した!?


「危なかった。私じゃなかったら終わってた。あなたたちは本当に強い」


 崩れ落ちたピートを蹴り飛ばしてミズハが言う。


「……どうやってピートを刺した? 腕も脚も極められていたはず」

「私の能力スキル


「能力? 暗殺者にはそんな能力があるのか?」

「違う。私自身の能力。異世界人のあなたは知らないかもしれないけど、この世界で生まれた人間は、15歳になった時に神からの職業ジョブを与えられる。私は暗殺者だけど、職業は運び屋キャリー


 そう言いながら、ミズハが虚空に手をかざすと空間がゆがんだ。

 その中に手を突っ込み、出てきた武器は――巨大な矢バリスタ!?


 ――ズドンッ!


 巨大な矢は地面に突き刺さり、俺のいた場所が爆発した。

 すんでのところで回避かいひできたが、ミズハに距離をめられ蹴り飛ばされた。


 ピートと一緒に地面に転がる。


「忘れたの? あなたが誰に誘拐ゆうかいされたのか」

「それじゃあ、俺はあそこに置き去りにしたのは……」


「そう、私。私の能力は袋と違い、生きているものでも収納しゅうのうすることができる。条件はあるけど」


 新たに出したナイフを二刀流に構えたミズハが言う。


「そのためには、まず十分に弱らせないといけない」


 ミズハがナイフの切っ先を俺たちに向けた。

 直後、切っ先の空間が歪み――ズドンとナイフが射出しゃしゅつされた。


 俺とピートはお互いの足裏あしうらを蹴り合って緊急脱出きんきゅうだっしゅつ

 第2ラウンドが始まった。





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 《あとがき》

 カイトを運んだのは彼女でした。

 冒険者の袋の亜種みたいな反則能力相手に二人はどうやって戦うのか?

 まあ二人も反則みたいな存在ですけど。


 読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。

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