第56話 ピートの実力

「僕は……って、お前なら大丈夫だろ。実力的に」

「何でそんなに自信満々なんですか!?」


 あっさりとそう返した俺に、ピートは食い気味に反論した。


「僕冒険者になりたてのペーペーですよ!? 死霊術師ネクロマンサーとしてまだまだ新米しんまいですよ!?」

「まあ、そうだな」


 死霊術師としては確かにペーペーかもな。

 使える魔法もそんなに多くないし。

 遺跡いせきで出会った、俺を誘拐した奴とは雲泥うんでいの差だろう。


「まあ、それでも大丈夫。何とかなるなる」

「ならないですよ! 何でそんなに楽観的らっかんてきなんですか!?」


「お前なら大丈夫って確信しているからだ」

「うぅ、無条件の信頼がとても圧……」


 別に無条件ってわけじゃないんだけどな。

 こいつは気づいていないのだろうか?


 何で魔術師まじゅつし系の後衛こうえい職であるこいつを、ゾンビの遠隔操作えんかくそうさで十分に役目をたせるこいつを、最後の最後まで俺とペアにしてまで一緒に行動させたのかということに。


 まあ、わからないんだろうなあ……。

 条件が条件だし。


「説明するのはめんどい。とにかくお前なら大丈夫だからここ燃やそうぜ!」

「うう……やるしかないんですね」


 ピートはべそをかきながらも俺に言われた通り、ネズミゾンビに油をたらふく飲ませた。

 基地内の重要施設しせつにネズミを配備し、一斉いっせいにそれらを燃え上がらせた。


「……死への灯火ダイイングファイア


 ――ドゴォォォォッ!

   ――ビチャビチャッ!

      ――ボッ…………ゴォォォォォォ……!


 ピートの魔法でネズミゾンビたちが爆発した。

 四散しさんしたネズミゾンビが、ローソニア基地内の食糧庫しょくりょうこを始めとした重要施設に引火し、燃え広がる。

 5分もしないうちに基地内部はパニックであふれかえった。


「どうした!? 何が起きた!?」

「わからん! 急にどこからともなく火の手が上がった!」

「クソッ! 他の亜人どもの救援きゅうえんか!?」


 燃え広がる基地に一般兵が右往左往うおうさおう

 この機にじょうじて、俺たちはこの基地の司令官を探す。


 基地のトップなら間違いなくネクタルのりかを知っているはず。

 そしてその思惑おもわくは当たった。


あわてるな! 慌てず対処するのだ! 水魔法の使える者は率先そっせんして食糧庫や武器庫に向かえ!」


 例のイケメン司令官だ。

 俺の思惑通り、脇に上等な宝石箱を大事そうにかかえている。


「あれ、ですかね?」

「たぶん間違いない。こんな時に真っ先にキープするくらいだからな」


「どうします?」

「行くに決まってる。今なら混乱に乗じてうばって逃げれる」


 俺は能力を発動し、こっそり司令官の背後を取った。

 袋からフライパンを取り出し、思いっきり振りかぶる。

 そして――振り抜く!


 ――ガキィィィィィンッ!


「えっ!?」


 俺のフライパンは寸前すんぜんで止められた。

 横から延ばされたミズハの武器――カタールによって、完璧かんぺきに受け止められてしまう。


 まさか止められるとは思わなかったので、おどろいて能力が解除されてしまった。

 まずい! 敵陣ど真ん中でソロとかホントにやばい!

 いったん能力発動して仕切り直し――


「させない」


 ――ガギンッ!


 俺が能力を発動させる前に、ミズハが2撃目を差し込んできた。

 対処以外考えられず、これでは能力が使えない。


「お前は……貴様! どうやって牢から出た!?」

「指令、すでに脱出している今そのことは重要じゃない。バレていなかったのに逃げずに奇襲きしゅう。目的は間違いなく司令のそれ。守らなくていいの?」


 ハッとした表情で司令官は箱を両手に抱えた。


「手の空いている者は出会え! ぞくだーっ!」


 司令官の号令により、わらわらと兵士が集まってくる。

 弓を構えている奴が見えたため、俺は超重力ギガ・グラビトンを放ちその動きを封じた。


「よそ見していいの? 私はあなたより強い」

「そうだな。それは認める」


 様々な能力を冒険により身に着けたとはいえ、元々は平和な世界にらす日本人だ。

 S級相当の強さと言われて入るけど、それはあくまで魔物相手の評価。


 暗殺者アサシンとして生きてきた、対人戦に特化しているミズハ相手に戦闘面で勝てるとは思っていない。


「あなたは強い。たぶん私と同レベル。でも、私には届かない」

「だろうな。俺は所詮しょせん料理人だ、プロの暗殺者に対人戦で勝てるとは思わないよ。俺だけならな……ピート!」

「え?」


 突然お名前を呼ばれたピートが間抜けな声を出した。

 俺はミズハをり飛ばして距離きょりを取ると、袋から一升瓶いっしょうびんを取り出してピートに向けて投げた。


「カイトさん! これは!?」

「酒だ! 飲んでいいぞ!」


「え♥ な、何でこんな場所でそんなこと言うかわからないけど……いいって言うならいただきます!」


 ――ゴクッ、ゴク、ゴク。


「……どういうつもり?」

「ピートは見ての通りビビりなんだ。戦いになると足がすくんでしまう。だから飲ませた。酒が入ると恐怖心が消えるらしい」


 以前、ギルマスと一緒に連れ回している時にそう聞いた。

 あまりにもビビるものだから、試しに戦闘中に飲ましてみたのがきっかけだった。


「さっきの酒は米――ライスから特殊な方法で作った酒なんだ。ちなみにものすごく強い。一升瓶を一気に飲んだら確実に酔っぱらう」


「だから?」

「今のあいつには恐怖心がない。だから直接戦闘に参加できる。俺とあいつ、2対1ならお前にも全然勝てる」


「舐めてるの? 魔術師が1人増えたところで私に勝てるはず――っ!?」


 ――ドゴォッ!


「グ、ウゥ……!?」


 ミズハはすんでのところで、ピートの一撃を受け止めることができたが、カタールの刃は完璧にくだけ散った。


 いつの間にか距離を詰めていた、ピートによる首を狙ったするどい蹴り。

 たまたま受け止めれたようだけど、次は止めれるかな? 俺もいるのに。


「ま、魔術師がどうしてこんな攻撃を……?」

「そいつ、職業ジョブ死霊術師ネクロマンサーだけど、実家は格闘一家らしいんだ」


 なもんだから小さい頃からきたえに鍛えられている。

 ちなみにピートは四人兄弟の末っ子なのだが、兄弟の中で1番強かったらしい。

 本人曰く、兄たちから才能は間違いなく1番だと言われていたとか。


「ビビりで普段は後衛だけど、酒で恐怖心を消すと前衛もできるんだよ、そいつ」


 しかも、その状態で魔法まで使うものだからメチャ強い。

 身に着けた拳法に自分の魔法をミックスした独自の戦い方で無双する。


 酔えば酔うほど強くなる酔拳すいけん使い。

 それがピートのもう一つの顔だった。


「ピート、頼む。一緒に俺と戦ってくれ」

「え~? どうしよっかなぁ~?」


「戦ってくれるなら、今の酒もう一本後でやるよ」

「そういうことなら……いっちょ頑張っちゃいますよ! 僕の編み出したこの死酔拳しすいけんで!」


 上半身をフラフラさせながら、普段の3割増しで明るく答える。


 一見すると酩酊めいていしているように見えるが大丈夫だ。

 死角から飛んできた矢を器用にかわすばかりか、つかんで逆に投げ返している。


「くそっ! 当たらねえ!」

「何でだ!? ゾンビみたいにフラフラしているのにどうして!?」


「ゾンビってね、フラフラしているようで実は意外と重心はしっかりしているんですよ。だから――」


 ピートの姿がブレたように見えた。

 次の瞬間、敵兵たちの目の前に移動し、魔力をまとわせた一撃を放つ。


 反応できなかった兵士は装備を破壊され、多くの敵兵を巻き込みながら吹き飛んでいく。


「こーんな急加速もできちゃうんです。いるでしょ? 時々ものすごい早いゾンビ」


 ゴクゴクプハァーッ! と、いつの間にか見慣れない酒瓶さかびんを手にしていたピートは、中身をあおりながらそう言った。


「死酔拳一式――ゾンビの型。死咬しこう。僕に殴られないほうがいいですよ? でないと……」


 ――うわっ!? な、何をする!?

 ――おい! 俺たちは味方だぞ!?


「生気をうばわれ、生きたまま僕の思い通りに動くゾンビになりまぁ~す♪ 生けるしかばねになりたくなければ、せいぜい頑張ってけてくださいねぇ? あひゃひゃひゃひゃ!」


 相変わらずめちゃめちゃえげつない能力だ。

 しかもあの疑似的ぎじてきなゾンビ状態、まれたりすると感染するから放置するだけで小規模なパンデミックが起きる。


「さて、ミズハ……『これでも』やる?」


 形成けいせいは五分五分――いや、時間経過で味方が増えていく以上、俺たちの方が有利と言える。


愚問ぐもん。私は暗殺者アサシン任務遂行にんむすいこうさまたげになるあなたたちを殺す」


 ゾンビパニックに周りは火の海。

 こんな状況でもミズハの答えは変わらなかった。


 自分の意思を奪われ、仕事に生きることを強制されて今まで生きてきた彼女だ。

 自分自身の心にしたがうということができないのだろう。


 なら、そんな人生からは解放してあげるべきだ。

 何より、本人が心の中ではそう望んでいる。


「私は暗殺者。契約は絶対。あななたちを殺して任務を果たす」

「そうか。じゃあ俺たちはお前を『殺して』その人生から解放してやる」






 --------------------------------------------------------------------------------

 《あとがき》

 ピートを連れてきた理由の最たる理由はこれです。

 直接戦闘力と対集団戦闘力最強なのです。

 殴られたらゾンビ化とかタチが悪すぎる。

 絶対に敵に回したくない相手ですね。


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストにエントリー中です!

 読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。

 作者のやる気に繋がりますので。

 応援よろしくお願いします!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る