第7話 拉致られ枠でも叩かれる世界から来たんだぞわたしは!?
「—――」
「……っ!?」
不快感に似たノイズが脳内に走り、脊髄反射で身体を起こす。
「……んあ?」
「どこ……? ここ……」
寝ぼけた視界いっぱい広がるのは見慣れた寝室(ミオのだった物、今はわたし好みに改造済み)ではなかった。
澄み渡る青空を支えるかのように果てしなく広がる緑色の大樹を軸にして咲き誇るカラフルな花々に、負けじとうっそうと立ち並ぶ木々たち。
前世で一度も見たことない形の果物や木々が、そこでちらほらとくつろぐ畏敬の者たちを目にしてある答えに漕ぎつく。
「魔物の森か……」
拉致られたかー。
「——―!」
「あ……?」
悟りと共にクリアになった思考に先ほどのノイズ?が割り込んできて辺りをきょろきょろしてたけど、原因は目の前にあったみたいね。
『カナデが悪い』
「なんで」
『ドs! 悪女! 純情弄ぶ女の敵!』
「ひどくない!? わたし何もしてないよ!?」
『なにもしてないのが悪いの!』
「ちいぃぃ……」
「なんかごめん!? でもソリスひとついい?」
『……なに』
「ヘラる時さ? 口開くとめっちゃDV彼女っぽくて怖い」
『あんたがほったらかしたからでしょう!』
「つっぃひいい!!!」
「ほーぉん、声たっか」
苛立ち任せか寂しさ起因かわからない身体突きを当ててきたソリス。
彼女は人間ではない。
蜂型の魔物であり、茜色と黒の混じった身体の色と尻尾のように伸びる巨大な針は脅威的な存在感を放つ。
泣き声? 地声? も地鳴りするような野太さがあり、女のわたしより一回り小さいぐらい。
かなりの威圧感を放つ彼女だけど、見た目にそぐわないいくつかのギャップが存在する。
その中のひとつはテレパシーだ。
魔物は身体構造がよっぽど優れてない限り元の姿のまま人の言語は話せないらしい。
ソリスも例外ではなく、出会った当時からテレパシーを対象であるわたしの脳内に直接飛ばすことでコミュニケーションを取ってきている。
ちなみに針も普段はしなしな状態でしっぽり収まる手触りが最高すぎるのもギャップのひとつである。
「にしても拉致ってねぇ……ガチのメンヘラ予備軍じゃん」
『わたしじゃない』
「それぐらいで怒んないからー。 や、拉致フェチじゃないけど」
『ほんと! わたしじゃないけど』
『でも身持ちはもう少し気にした方が絶対いい』と付け出した。 余計すぎる一言を……。
『とにかく!』と飛んできたテレパシーと一緒にこちらに抱きついてきたソリス。
『週に一度は来るって約束だから我慢してたのに会いに来てない。 約束破るのはひどい』
「ごめん……」
『罰として三日ぐらいあんたをいただくの! あの女のサポータって数日サボっても平気なの知ってる』
「めちゃくちゃ言うじゃん……」
事実だけどさぁ……。
なんなら今のところ魔物の森に拉致られたって気づかされてるけど「あそこならー」ってケロッと澄まされてるかもだけどさぁ……。
しかも満場一致で。
「ちいぃぃ」
『それにここなら……神力の修行もできる』
「……」
ここなら思いっきり神力も使える。 メリットが大きい。
でも修行のためって言ってなんも言わず拉致られたまま留守にしたらミオや魔王城のみんなに角が立つし……。
「うーん」
『今ならご所望のわたし付きのまったり異世界ライフを堪能でき……る!』
「……三日、だけだからね」
拝啓、我が愛しの拉致犯魔王様。
ダメダメなわたしは甘美な誘惑に抗えずこうしてあなたへと内なる手紙をしたためます。
……なんて心の中で浮気を繰り返す自己中の言い訳女みたいな俳句読んだけど違うから!!
攫われるのが癖になってなんかない!
前世で拉致られ枠があったなら某姫様を差し置いて堂々とデビューしそうって思わないで!
なんて声にならない内なるわたしの叫びは外に漏れることはなく、広がる美しい魔界の森のどこかへと吸い込まれるように消えていくのだった。
陰キャ魔王サポから始まる異世界百合ハーレム みねし @shimine0603
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