第6話 チーム
アブダクションから帰還した自分とユリクリウスを待っていたのは、さきほどクエストを受注した際、クエスト受注カウンターにいる人だった。ゲームだとどこの鯖のどこのブロックでも同じNPCだったけど、流石に現実となると同じNPCというわけじゃないからロビー毎に受付嬢は違って来る。しかしそれでも可愛い女の子が受付嬢をしているので、目の前で土下座されると困惑する。陰キャは美少女と対面するのも辛いのだ。
「ごめんなさい!他の船団から情報を仕入れていれば……!」
「他の船団って……同じようなことが起きたんですか?」
「はい。おそらく全ての船団で、地球の方々の1組目はアブダクションが起きました」
どうやらあのアブダクション、全ての船団のトップバッターが遭遇したようで生還したのは30組中7組だけらしい。あれ、猛者達が集まる1鯖でトップバッターが自分達だったというのは意外だな。あ、1鯖の1位チームは全員でVR任務を受けたのか。それならアブダクションは100%発生しないね……。
というか、よく考えてみれば戦闘技能を試すのにわざわざクエストを受けに行く必要性はなかった。簡単な任務でもアブダクションに遭遇すれば危険度は一気に跳ね上がるという意識さえあれば、自分達もVR空間で訓練する選択肢を選んでいた。
でもまあ、発生確率は低いし普段は意識していないようなことだったので仕方ない。各船団のトップバッターが狙われたとのことだけど、作為的なものは感じるかな。……何はともあれ、自分とユリクリウスが無事でよかった。
ちなみにどの鯖でも2組目からはクエスト受注を止めることが出来たようなので、1鯖の被害者は自分とユリクリウスだけである。今回の事件での死者の名前も教えられるが、他鯖の対戦経験のあるランカー達が何人も死んでいた。
……このタイミングで慌てることもなく「探索任務で腕鳴らししよーぜ」とかいうやつは、大抵がサービス終了間際までプレイしていた人間だろう。特に鯖対抗戦や軍団戦で活躍していた8鯖の椛さん、11鯖のブラッドさんは自分以上の廃課金勢で凄いプレイ動画を動画投稿サイトに何本も上げていたので、亡くなっていたのはショックだ。
[黒猫:『幼女同盟』のメンバーは全員チームルームに集合!集まれー!]
なおそんなショックはお構いなしに我らのチームのチームリーダー黒猫がメールで招集をかける。速攻で集まれとのことなので、謝罪を受けるのもそこそこにチームルームまで移動。地味に受付嬢からお金を貰えたのは嬉しい。
……というか幼女同盟ってチーム名、リアルだとヤバくないですかね?これでFUO2全体で2位のチームなのは問題だと思うよ。
さて。FUO2ではチームという、100人までが所属できる団体がある。チーム全員でチームの泉を育てたり、週末にはチーム対抗戦で他鯖の人と戦ったりする。このチーム対抗戦に出場できるのは1チーム12人と少ないが、幼女同盟のチーム人数は19人なので大した問題じゃなかったりする。報酬しょっぱいし。
ちなみにチーム対抗戦は、勝つ度にレートが増え、強い所と当たるようになるのに報酬は変わらないという糞仕様である。お蔭で我ら幼女同盟は1鯖の最大規模にして最強のチーム「ふおにの森1」と同時間帯に参加申請をしないというルールまで出来た。1とナンバリングしてあることからわかるようにふおにの森2がある。ついでに3もある。
合計チームメンバーが250人とかいう頭おかしい戦力を誇るが、大半が無課金だし、チーム対抗戦は12人同士の戦いなので直接対戦の戦績は1勝2敗と1回勝てている。しかしここで負け越したせいで、うちは永遠の2番手が確定した。
チーム対抗戦全サーバーランキング
1位 2690ポイント サーバー1 ふおにの森1
2位 2680ポイント サーバー1 幼女同盟
3位 2385ポイント サーバー1 ふおにの森2
4位 2310ポイント サーバー3 無能艦隊
5位 2300ポイント サーバー11 †Bloody Wings†
……改めてチーム対抗戦のランキングを見ると酷いな。森、幼女、無能が並んでいるよ。というかブラッドさんが死んだってことは、サーバー11って1位チームのチームリーダーが逝ってる?マジであのアブダクションは何だったんだ。
ブラッドさんは昨今の課金勢がユニットを万能型1つに纏めようとしているのに対し、確か特化型の装備をきちんと全種類作っていたんだよね。DPSは全鯖トップクラスだったはずなので、恐らくアブダクションには1人で連れ去られたんじゃないかなぁ……?
色々と考えるのは後回しにして、一旦チームルームへと移動。おおう、完全な温泉宿と化している。しかもほぼ全員がバスタオルか水着という、こいつ等ゲームが現実になった実感ないのかよという光景が広がる。
「お、来た来た。TS転生し損ねたお2人さん、今どんな気持ち?」
「いやむしろ男キャラで良かったよ。クロワッサンは……まあありじゃない?」
「何がありなのか詳しく話をしようか?」
その中央にいるのは、キャラクター名が黒猫なのに、白髪で白い猫耳を付けている白肌の女の子。恐らく元男。というかTwitterで顔写真まで載せているのを見てるので間違いなく男。自キャラが白ビキニでロビーを走り回る姿を見て抜いたという逸話はあまりにも有名でチーム内外にも知れ渡っている変態。ついでに装備とPSも変態。
「アブダクションから1ペロもせずに生還とか相変わらずカチ勢は頭おかしいな」
「その話出回っているんです?タキオン船団なら隠しそうなものだけど」
「いや、3鯖のクルト君が色々と教えてくれたよ」
「どのクルト君だよ」
「両脇に黒い十字を付けたクルト君」
「†クルト†の方か。確か解析勢だっけ?何であいつはもっとまともなプレイヤー名を付けなかったんだ……」
「クロワッサンがそれ言う?」
チームリーダーの黒猫と話すけど、どうやらアブダクションで1組目が連れ去られた話は既に拡散しているらしい。3鯖のアクアさんが確かアブダクションで生還していたはずだから、そこ経由か。
「……アクアさんってアーチャーだよな?確かソロで生還していたはずだけど何があった?」
「不屈の闘志発動からのネバーギブアップの無敵時間で最終砲回避」
「うわ50%の確率で死んでるやつじゃん。マジで良く生き残ったな」
「ついでにアクアさんはアブダクションクリア時に特殊アイテムの『スロット1:豪運』を獲得したらしいが、お前らは何か拾った?」
「……ユリクリウスが拾ったぞ」
「ちょ、言うのかよ!」
「うるせー。武器枠が2つに増えたとか絶対バレるんだからさっさとゲロれ」
そして黒猫に二刀流のことをユリクリウスが話すと爆笑し始める黒猫。どう見ても薄幸な美少女なのに中身が釣り合ってないからちぐはぐな光景だ。なおこれで面倒見は良い模様。そうじゃなきゃ変態どもは束ねられない。
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