拾肆:現れる異変

 五日目。つまりは金曜日。

 移動教室なので生徒たちに連れられて今は移動中。学年集会を兼ねた修学旅行の全体確認。とは言っても、旅行は来週末なのだが。

霧斗きりと、何だか空気が変だ。」

「換気されてないだけじゃないの?さや。」

小声です。

「物理的な話じゃないよ。なんかこう、」

「得体のしれない不気味な両目が、後頭部を見つめて――」


「がっ、、は……」

「せっ、先生、大丈夫!?」

唐突な頭痛、ひどい吐き気。左手で口を押さえその場でうずくまる。

「なん……とかな。」

口ではそう言う。けど、何かこう、凄い監視された感覚、束縛された感覚、酷い醜形をした負の記憶が僕の体を襲った。

「みんなは、、先に行ってて……」

薄れゆく意識の中、

「あーれま、頭痛風ずつうかぜの季節か。大変ですね~。」

ひし先生の声がかすかに聞こえた。何かを指示していたが、良く聞こえなかった。

 廊下の壁に、もたれかかっていた。

「頭痛風の季節ですもんね〜。」

「すみません……」

菱先生から貰ったオニオンスープ。温かく心が抱擁される。

「頭痛風には玉ねぎが効くんですよ。特効薬が無い中、私も母によく飲ませてもらったもんでね。」

頭痛風。それは季節の嫌な風物詩、と言える。花粉症と同じような季節に応じた病である。酷い頭痛に悩まされる人がたまに居る。僕もそうだ。

「ささ、参りましょう。でも無理はしないでくださいよ。」

その後、集会に出たは良いものの、全く内容が頭に入らなかった。


 頭痛で上手いように頭が回らない。これでは任務にも支障が出てしまう。というわけで昼寝をしよう!!――

「霧斗先生!!出ました!!」

ぶっ飛ばすぞ貴様アアアアアアア!!って、

痛てエエエエエエ!!

急に振り向いたからこうなる。痛みつける頭を押さえて案内のままに走る。

「こんなバレバレな所に。しかも外に出たらどうなるのか分かっているのか。」

そこは使われていない教室。故に生徒は誰一人といない。カーテンが全て閉まっており、使われもしない雑貨がただ置いてあるだけの物置。

 攻撃力高めの“浪漫砲ろまんほう”の残弾を確認して、構える。

「止まれ!!」

声に気付いて早速襲い掛かって来るのが底辺の敵である。

 響き渡る銃声、倒れる人喰い、倒れた音。

そそくさと後始末を済ませ、

「もう嫌だ。寝る。」

速攻部屋に帰って寝た。



 翌日、つまりは土曜日。

 学校の方もお休みなので、実習生としては何も無い。頭痛は快方。

 お紅茶片手にテレビを見る、事務作業を遠隔でこなす以外、何もすることがない。

「潜入調査ってこんなに呑気なもんだったかなー。」

四つ脚の椅子を前二つ浮かせながらお手玉をしていると、

「霧斗先生!!すぐ来てください!!」

「うわぁーっ!!」

がたんばしゃん

そのまま見事にバランスを崩した。


「こやつなんですけど……」

そこにいたのはただの虫。殿様飛蝗トノサマバッタに近い種の飛蝗が一匹迷い込んでいた。

「ただの虫ですよ?何もしないですって。」

「ルックスというかフォルムというか……ねぇ。」

こんな田舎な上に自然保護区なわけだから、虫なんて人の頭より多くいる。地元人の中で虫嫌いなんて宝くじに当選する確率ぐらい少ない。

「こんな所に居てもいい思いは出来ないぞ。」

窓を開けて逃がしてやろうとした瞬間、

「!?」

体、つまり腹部が一気に人間の胴体、四肢になった。

「えっっーーーーーっ!!」

僕の目は確実に飛び出ている。さっきまで菱先生を脅かしていた虫が、なんかかっこいい中ボス的なフォルムに変身したではありませんか!

「菱先生、とりあえず逃げて!!」

菱先生が慌てに慌てて逃げていく中、

「霧斗、やつは人喰いだよ。気を付けろ。」

清が勘づいた通り、曇り空に立つ飛蝗の人喰いは見るからに強そうな……

「鎌?」

鎌を持っていた。なら蟷螂カマキリだろ……

なんて思っていると、

「サキーン」

金属の研がれたような澄んだ音が鳴ったと思えば、

「へ?」

目の前の壁と窓がガタガタ崩れた。でもって崩れたと思えば、目の前に鎌の刃先が、顎下にあるではありませんか。瞬間的に攻撃を避け、右手用の拳銃『駿河するが』を手に取る。照準を合わせようとするが、また刃先が顎下に来る。すかさず避けては合わせて、また避けては合わせて。の繰り返し。

 いくら身を翻そうが、すかさず攻撃を入れてくる。なかなかの腕前を持った人喰いのようだった。

「あんた、ここの教職ではなさそうだな。」

少し距離を保っている。後ろ向きでこちらに話をしてきた。

「なんせ、まだ実習生なんでね。」

「じゃあ何故そんな年季の入った拳銃を二丁も持っているのか、聞かせてもらおう。」

「分かってるくせに」

 直ぐにしゃがんで右の鎌からの攻撃を避ける。癖っ毛の髪の毛がちょいと切られただけで済んだものの、まだ攻撃は終わらないらしい。

 前に身を出して直立体勢に戻し、駿河を一発。感覚麻痺を与えられる弾丸は蟷螂の首(?)に命中。銃器を使うに向かない近距離射撃だった事もあり、衝撃を首がもろに受けた。

「グエッ」

蟷螂が後ろにもつれた瞬間、浪漫砲ろまんほうを左手に取る。装填の確認をし、人間で言うところの心臓とみぞおちを撃ち抜いた。弾丸は華麗な緋色と共に貫かれ、床に着弾した。

 蟷螂は足をつく間もなく倒れた。蟷螂なくせに脚は四本しかない。浪漫砲を両手で固定し、腰を落として構えた。すると、

「霧斗、やっぱり只者じゃない。」

「ああ、何故なんだ。」


「傷口が塞がっている」「傷口が回復している」

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暗躍の保安舞隊 紺崎濃霧 @noumu28

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