15.ネタバレの何が悪い
先日友人に「おもしろい漫画を教えて。普段私が読まないようなの」と言われたので「
40代女性としては全く見たことも聞いたこともない作品だったそうで、おもしろいと読んでくれた。
(へうげものとは、戦国・安土桃山時代が舞台の茶人古田織部を主人公とした物欲スペクタル大河漫画でござるよ、ゲヒヒヒヒヒ)
そして一週間ぐらい経った後、そろそろ信長死んだかなと思って「信長死んだ?あの最期すごくない?数多くある戦国モノでも最高の本能寺の変だと思うわ」と友人に聞いたところ、
「えっ!信長様死ぬの!ちょっ、ショックなんだけど、ネタバレしないで!」
と怒られてしまった。
お前本当に中学校卒業してんのか?とびっくりしたが、まさか歴史的事実をネタバレと言われてしまうとは面食らってしまった。
(なんなら秀吉も三成も織部自身も死ぬぞと言ってやろうかと思った)
まぁ、これは極端な例としても、最近ネタバレ禁止という概念がだいぶ市民権を得てきたと思う。
何かの作品について語る時は、まだ鑑賞していない人の気持を慮って、ネタバレをしないように語る側が気をつけないと行けない、という風潮がある。
これに逆らって気を使わずにストーリーの骨子に関わるようなことについて語ると、まるで犯罪者かのように避難を浴びる。
発言者の影響力が強ければ強いほどその圧力は高まり、公共の電波を使って話している芸能人なんかはかなりピリついて発言に気をつけているのを感じる。
私はこの風潮が嫌いだ。
ルークの父親はダース・ベイダーであるアナキンだし、猿の惑星は荒廃した地球だ。
竜馬は結局暗殺されるし、逆にヒトラーは殺されない。いや、イングロリアス・バスターズでは暗殺成功しちゃうけどな!
私は思う。それらを大っぴらに語って何が悪いと。
しかし多くの人はネタバレを配慮すべきものとして捉えている。
これは知る権利に関係しているのではないだろうか。
一般的に知る権利は、人は平等であるという人権の観点から、誰しもがあらゆる情報に触れる権利があるという思想からできている。
ここ日本では、権力者が隠蔽している情報から芸能人が伴侶に内緒で性行為をしたことまで、須らく一般人も知るべしとされていて、これを公開するのが世間ではジャーナリズムという事になっている。
思うに、この知る権利の拡大解釈がネタバレ禁止というやつなのではないだろうか。
一見すると、ネタバレ禁止は情報に触れることを防ぐものなので、知る権利とは逆に思える。
しかしネタバレ禁止を叫んでいる人の主張をよく聞くと、実は知る権利を主張していることが分かる。
すなわち、
「その情報に初めて触れるのは作品内でありたかった」
「本来あるべき順番通りにその情報に触れたかった」
「自力でその情報にたどり着きたかった」
等の主張は、全てが知り方に注文を付けているものなのだ。
本来知る権利はその知り方を制限はしていない。
しかしネタバレ禁止は、知る権利の拡大解釈として、その知り方にまで権利を主張しているものと思われる。
これを皆薄々感じているので、ネタバレで誰かを怒らせることは、その人の知る権利を侵害してしまったという様な錯覚を覚えるのである。
そう、これは錯覚だ!
声を大にして言いたい。錯覚である!
上にも書いたかが、本来知る権利はその知り方を制限していない。
知る手段が常に存在している事が肝要なのであって、その知り方に注文をつけることは却って情報に触れる機会を減らしてしまうかも知れないではないか。
叙述トリックの古典として猿の惑星の存在を知って、そこから興味を持って本編を見たって良い。
スターウォーズをep1から見ようがep4から見ようがどっちでも良い。
所詮情報開示当時のライブ感など後追いでは完全に感じらるものではないし、ライブ感がないからこそ現在ではその情報は当時より世に溢れていないわけで、あまりに情報を制限しては興味を持つきっかけになりえる「聞きかじり」がなくなり、その情報に触れるきっかけの間口が狭くなってしまう。
古典化していったコンテンツはいずれ聞きかじった状態の方から触れる機会のほうが多くなるのだ。
そういうネタバレが全くない世の中になったらどうなるのか?
それは知っている側が自由に発言できない社会になる。
こっそりと知っている者同士で集まって、誰か聞き耳を立ててないか、こちらの声が外に漏れていないかビクビクしならが語り合うのだ。
そんな息苦しい社会は私は嫌だ。
ちなみに、まだライブ感の残っているコンテンツに関してはさすがに私でもネタバレを控える。
あ、今日の阪神勝ったって?
ネタバレするなこの野郎!
素人のエッセイなど誰が読むのか 遠藤伊紀 @endoukorenori
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