13.プロ独身になりたい

いつも話の切り出し方が唐突で申し訳ないが、私はお一人様を極めている。

一人焼肉、一人鍋なんて序の口、一人旅だってするし、海外だって一人で行く。

もちろん一人でテーマパーク等のデートスポットをまわるのにも何の抵抗感もない。

この時期になればイルミネーションとクリスマスツリーを一人で見に行ってスマホのカメラでパシャパシャする。

土日のショッピングモールのフードコートで一人でたこ焼きとラーメンを食べることも出来る。

北京のレストランで「1名はちょっと」と断られれば

「俺の腹を見ろ!3人分は食べるぞ!」

と店員を納得させ北京ダック一匹を一人で食べたり、上海では小籠包120個食べたりした。

いや、フードファイトの話ではない。

何が言いたいのかというと、中年独身の私はすっかり一人でいることに慣れきっていて、気の置けない古い友人は別として、今更伴侶を得てパーソナルスペースを譲り合って生きるなんて想像もできないということだ。

つまり私は今後も独身である可能性が極めて高く、よしんば結婚できたとしてもこの偏屈な性格では円満な結婚生活を維持できるとは到底思えない。

どちらにしろ最期はきっと孤独死するに違いない。

それはいい。生まれてきたのも一人なら、死ぬときもどうせ一人である。

さて、そうは言っても人間は完全に一人では生きていけない。

私は兄弟はいないが、一応友人付き合いはあるし、会社勤めもしているし、死んだことが通知されるべき存在がある。

それに老後一人で死ぬと意地を張っても、死んだ後は動けないので自分の体の後始末もできないのである。

さらに言えば、私も木の股から生まれたわけではないので親戚もいれば先祖代々の墓もある。

そう、私は墓じまいをしなければならない。

頭の痛い話だ。

天◯寺の生臭さ糞坊主に墓じまいするなどと言えば、どんなに金をふんだくられるかわからない。

しかし私はいざ知らずご先祖様を無縁仏にしてしまう事はできないので、やはり永代供養の共同墓に移さざるを得ないだろう。

それにしても面倒な話だ。なんとかこれを回避できないだろうか。

いっそのこと親より先に死んでしまうのはどうだろう。

そうすれば全て親になすりつけて死ぬことが出来る。

親が悲しむって?

大丈夫、私がそれを目撃することはないし、親だっていずれ天寿を全うする。

どうせ遠くない未来にこの世に私が責任を果たすべき存在はいなくなるのだ。

そう、基本的に死んだあとのことなんか知ったこっちゃない。

そう考えれば全てが馬鹿らしい。

死んだ後のことはなにも知覚できないし、自分が予測できないほど遠い未来にどうしているか気になる人もいない。

例えば、妻子など今後を長く生きていく存在をこの世に遺す人は自分の死後も心配だろう。

この国はどうなっていくのか、この子の将来はどうなるのか。

今まで時の総理の名前も言えないような◯◯女が、出産した途端政治に興味を持ち始めるのを何度も見てきた。

それは一見滑稽なことだが、非常に真っ当な反応であるし、生物としては正しい姿なのである。

畢竟、この世との繋がりは子孫がいなければ自分が死んだ途端ぷっつりと切れる。

独身である私とこの世界が関係しているのは私が息をしている間だけだ。

いや、まてよ?

独身おひとりさまを極めるということがこういう無責任なものでよいのだろうか。

無責任に生きることには別に家庭持ちも独身にも大差がない。

独身として矜持を持つということは、独身にしかできない生き方を模索するべきなのではないか?

子孫がいないにしても、社会に生きる者として、何か良い萌芽を残していくべきなのではないか?

かといって現在日本では独身男性が養子を迎えることは困難だし(資金力はともかく、生活力に疑問があるのと、性的虐待目的での扶養を避けるためらしい)、あしなが育英会にでも募金をするべきだろうか。

はたまた教員にでもなって子供達の健全な成長を助けるべきか。

いや、今更大学に通って教職課程を取るなど現実的ではないから(そもそも私は高卒であるし)、せめて社会貢献に努めて世になにかしらの遺産を残せるように頑張るべきであろうか。

あれか、やっぱり福一の原発作業だろうか。

福島県にゆかりのある者としてはあれは確かに看過できない。

除染作業や廃炉作業に従事して少しでも負の遺産を取り除くのはかなりアリかもしれない。

まぁ、そういう妄想は膨らむが、ひとまず私が今日出来るのは、子育てをしている同僚の代わりに残業するぐらいである。

というわけで、今後もプロの独身として何かできることはないのか、改めて考えていきたいところである。

(報道番組によくある、「この問題については引き続き考えていかなければなりませんね」エンドですみません)

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