第105話 チタプロ=ゼムリャ#2 遊園地口

一行は、アマリリスはもちろん、最年少14歳のファーベルだって、遊園地と聞いて無闇に大はしゃぎするような年頃ではない。

それでも、人には童心に帰るスイッチというものがあって、夢と魔法の国はその押し方を心得ているのだろうか。

モノレール駅の出口に続く、ファンシーな壁画ウォールアートの描かれた廊下を歩き、

出迎えたクマの着ぐるみが小さな子どもに風船を渡しているのを見ると、これまたいやが応にもテンションが上ってくる。


カレシと一緒にこんなとこ来たら、楽しくてしょうがないでしょうねぇ。

帰ったらプリムに教えてあげようかな。

カレシ・・・もし、ルピナスさんと付き合うことになったら、2人で来たりするのかな。。


っていや、あたしたちは遊園地じゃなくてダーチャ別荘に来たんでしょうが。


「あとで行ってくるがよかろうて。

ダーチャの宿泊客は入場料が無料だ。」


そんな、嬉しい特典✨つきのダーチャは、遊園地の正門の向かい、

こんもりと茂る樹々に覆われた丘陵の起伏のなかにあって、林内を巡る小径に面した20戸ほどの別荘地だった。


本来ダーチャというラフレシア語は、都市住民が郊外に所有する自家菜園とそれに付属する、多くは掘っ立て小屋クラスの寝泊まり所を言うのであり、

遊園地と同じ会社が運営するこの貸し別荘群は、ボレアシア風にコテージと呼ばれるべきものだった。


家族でせいぜい1,2泊する場所だから、建物はいずれも小ぶりで、手の込んだ作りではないが、

それぞれに少しずつ趣向が異なっていて、おとぎの国の小人のむらにやってきたようなエモさがある。


アマリリスたちが投宿するのは、小さいながら正面にテラスを備えた、木の香りが心地よい山小屋ロッジ風の家だった。

ホテルではないので食事は出ない、かわりに調理器具を揃えたキッチンがついているが、クリプトメリアを含め、食材を持ち込んで調理など遊興地に来てまでしたくないわ、

という客には、遊園地の中にも外にも、レストランや屋台が選り取りみどりだ。


さっき汽車の中でファーベルのサンドイッチを食べてから大して時間が経っていないが、

行楽のアガり気分のせいか、ほどよい空腹を感じはじめている。

そしてこういう日に、食事の時間帯や回数を気にすることもあるまい。

部屋に荷物を置いてさっそく遊園地へ向かった。


園内は大盛況ということもなく、休日の昼間だというのに空いている、なんなら閑散?

人混みに煩わされずに回れるのはうれしい。


園路にポツポツと停まっている屋台は、子どもの楽園とあって、大人でも童心スイッチを押されるものばかり。

ヘリアンサスとファーベルは、アイスクリームやチョコレートがけドーナツの屋台にむらがり、

アマリリスは大串で焼いた肉を削ぎ落として平パンピタに挟んで食べる、故郷でも定番のタマリスク料理を選んだ。


腹ごしらえが済んだら、いよいよ乗り物アトラクションへ。

ヘリアンサスとファーベルに誘われるまま、まずは遊園地の目玉の一つ、ローラーコースターに挑む。

とはいえこちとら、コースターどころが自分が弾丸さながら、神速の獣となって幻力マーヤーの森をカッ飛んでいった身だ。

極東州最高速なんていったって所詮は人間界での話、ちょろいちょろい・・・と、思っていた、の・だ・が。


お・・おぅ

高い高い・・・速い速い速いってば、え、結構・どころかマジ怖くない!??


地上から見上げているぶんには、決まりきったレールの上をオモチャみたいなコースターがコーーーッと滑っていくだけ、に見えたものが、見ると乗るのとでは大違い。

ヘリアンサスは雄叫びをあげ、ファーベルもキャッキャと笑っているが、アマリリスは目を開けているだけで精いっぱい、

いや目を閉じたっていいんだろうけど、その余裕もないっていうか。。。


無限に続くかと思えた急降下に容赦のないカーブ、ループの数百メートルを走りきったコースターが乗降場に戻ってきた時、

アマリリスは石化したかのように、座席で固まりきっていた。

聞いてないよこんなの。。。


「あ~~ん、もう終わちゃたよ、楽しかったね。

次は・・・やっぱり、アレかな?」


ファーベルが指さしたのは、やはり園内の目玉の一つ、巨大なホイールにたくさんのゴンドラを吊り下げた観覧車だった。

不意に消失したり倍加したり、かと思うと前ぶれもなく横方向から襲いかかってくる壊れた重力に、未だに翻弄されているかのようによろめきながら、

アマリリスは眩しそうに、天高く聳える円環を見上げた。

まぁコレなら、飛んだり跳ねたり宙返りはしないわけだしね。

と・こ・ろ・が。


えっ、ええぇっ!?

たっ、高い高い高いひたすら高い!

そして、これだけゆっくりゆっくり地面から引き離されていくってのが、またなんともイヤな怖さ・・・


「見て見てーー、わーっ、家や道路があんなにちっさい。」


「だいぶ登ったね、頂上まであと半分くらいかな?」


ファーベルが眼下を覗き込んではしゃぎ、ヘリアンサスは身を乗り出して上方を仰ぐ。

ふっ、2人ともお願いだから揺らさないで、ってコレでまだ半分なのぉ!?

関節が白くなるほど手すりを握りしめているせいで、手がりそう。。


「ステキね、こんなにキレイなのね、世界って。」


そうね、ファーベルが言うとホントそうだねって思うけど、お願いだから時よ早く過ぎて・・・


「あ~~、このまま時間が止まって永遠になればいいのに・・・!」


勘弁して!!!

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