第95話 汎き世果報#1
「ごめんなさいねぇえ、コニちゃん、いい子なんだけど時々コミュが荒ぶるトコあってさ。
何かご無礼なこととか、あらへんかった??」
現れた部長は、冗談なのか本気の心配なのかわからない様子で訊ねてきた。
いいえ、あたしもウィスタリア人なんで慣れてます。と答えて、アマリリスは渡された名刺に目を落とした。
壮健局 疾病予防事業課 主任
兼: 衛生局 安全基準推進事業課 推進担当
・・・
から始まって、10近い兼務の下の方に、
在マグノリア・ウィスタリア人融和作業部会 部長
の肩書があった。
「すごいですね、お若いのに部長だなんて。」
ネメシアはプッと吹き出して、
「やぁだ、大企業のお偉いさんの”部長”じゃないったら。
”作業部”会の長で、部長、ぜんぜん下っ端よ。」
「・・・」
「?」
「いえ。
てっきり、ウィスタリア人の支援団体だと思ってたから。」
けれどネメシアがウィスタリア人には見えない。
アプシントスの出身だとネメシアは言った。
アプシントス公国、小ラフレシアとも呼ばれ、起源を遡れば同じ民族の、ラフレシアの姉妹国だ。
帝国麾下の属国の中では、ラフレシア本国に次ぐ規模の大国でもある。
この微妙な発音は、アプシントス訛りだったか。
「ウィスタリア人”も”支援してる団体なんよ。
あとあたしは噛んでないけど、アプシントス人相手の事業もいくつか。
他にもホンマいろんなコト、
あたしは薬学系出身なもんで、健康とか、食品衛生とかの事業が多いけど。」
「そういう会社?慈善団体??
なんですか?
「
んーとねぇ、建て付けはマギステル楽派系の「宗団」、だから、、宗教団体?
でも実際のトコは、いろぉんな事業を作り出して世の中を良くする自由結社ってカンジかな。
世の中、
”世の中みなの幸せ”
アマリリスは目を見開いた。
「あ。騙されないゾ、って顔しとるww」
「いいえ、違います。
それって難しいんじゃなかったかな、って考えてたんです。
”現実自身の撞着”のせいで。」
「もちろん、立ち行かんようになる事業もぎょうさん。
でもそれでええんよ。
大切なのは、世の中の”負”、みんなが不満や不安に思ってることを見つけ出してあげて、
どうやったらそれを取り除けるか考え続けること、そんで小さい失敗を繰り返すこと。
たとえばウィスタリアの部会ね。
気の毒なことに国を追われて、こんな異国で肩身狭く、不自由な暮らしをしてる人も多いやん。
ウィスタリア人がイキイキ、顔を上げて大手を振ってラフレシアで暮らしてくれたら、
仲間が増えて、彼らの活躍でもっと世の中がよく回るようになるはず。
ウィスタリア人だけじゃなくて、ラフレシアのみんなにとって良いことやん?ってことで始まった事業なんよ。
住むトコ見つけてあげて、仕事を斡旋して、、って、最初はラフレシア人の経営してる会社を紹介してたのね。
けど、中には我が強くて主張も多い、って人も幾らか・・・いや、結構な数いてさ。
雇う側のラフレシア人の方がタジタジってなって、うまくいかないことも多かったんよ。
で、ウチが出資して、そういうやんちゃなお兄ちゃんたち集めて、ウィスタリア人の会社を作ってもらったの。
そしたら聞いて聞いて、コレが大ヒットでさぁ、ほんとウィスタリアの人ってガムシャラよね。
メキメキ業績が上がって、店頭公開したところで株を手放したけど、あれはエェ稼ぎにさせてもらいました❤」
ほくほく顔で言うところは、篤志家というよりも、やり手の商人みたい。
世の中を良くする、って言ったら、ひたすら無欲な、使命感だけで動く人を連想するけれど。
「あたしがウィスタリア人って聞いても、勧誘してこないんですね。
さっきはコニファーさんに禁止してたし。」
「そ。ウチの方針として、勧誘はいたしません。寄附も募りません。
補助金は、取りに行くぜって時はあるけど、それにぶら下がった事業はやりません。
そういうのはすぐ、利権とか人脈のぐるぐるの中に取り込まれてっちゃうんよ。
ウチがぐるぐるさせたいのは事業だっつ―の。」
「[ピスガ]は?
あれも、そういう”事業”なんですか?」
「そ。コニちゃんはぞっこん熱を上げてるけど、
別に、ウィスタリア人が悲惨な経験をして、可哀想だから、ってわけじゃないの。
何があったか、それとウィスタリア人の歴史とか考えかたを知って、社会の融和が進むことを狙ってのことよ。
もしリルちゃんがウチに来たいって言うなら歓迎するけど、
それはウチが一方的に誘うとか、あなたがウィスタリア人だから、じゃなくて、
ウチに来ることで、リルちゃんに出来ることが何かが見つかった、って時じゃないかな。」
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