第29話 野にある獣

アマロックとのことを人に話す、ということに、それなりに身構えて訪れたアマリリスだった。


しかしブルカニロとの対話は終始こんな調子で、他愛なくどうとでも答えられるような、

それでいて言葉にしようとすると、自ずと考えさせられる問にアマリリスが答える形で進んでいった。


ブルカニロが経緯を問おうとしないのは正直助かる。

会話は居心地がよく、話題がいよいよアマロックのことに及んでも、アマリリスの心は静かなままだった。


「年齢はわかりますか?」


「正確にはわからないですけど、多分あたしと同じぐらい、

初めて会った時が15、6歳だったんじゃないかと思います。」


「なるほど、では――

あぁ、有難う。


どうぞ、飲みながら。」


「はい、いただきます。」


秘書らしい女性が、コーヒーを運んできた。

それが、カップのへりギリギリまで淹れてあって、持ち上げるのも注意しないとこぼしそうだった。


おかしなくらい真剣な表情で、やっとひと口飲んで、カップを口から離したアマリリスに、すかさずブルカニロの質問が飛んできた。


「彼は、どんな方でしたか?」


「そうですねぇ・・・」


アマリリスはゆっくりとカップを受け皿にもどしながら答えた。

一口分の容量が減っているので、今度は持ち上げる時ほどの神経は使わなかった。


「綺麗な人だったわ。

すごく。」


「”綺麗”ですか。

あまり、男性に対して頻繁に使われる形容詞ではありませんね?」


そう、自分でもその言葉が意外だった。

しかし言葉になってみると、ああ、あたしはたしかにそう思っていた、と感じた。


「魔族は、美人さんばっかりなんです、女性も、男性も。

女のあたしでも、嫉妬しちゃうぐらい。」


「ほう、それはすごい。」


「それに何て言うか、野にいる獣は、魔族に限らず、とても綺麗だわ。


弱ってたり、とても痛々しい姿のもいるんですけど、何て言うか、、野に生きているからこその獣、というか。

伝わります?


あたしが知ってるオオカミは人に馴れないですけど、もし、オオカミの子を生まれたときから人手で育てて、人間の世界の生き物にしてしまったら、見た目はいくらオオカミでも、もう野生には戻れなくて、、、


何だか言ってること変ですね??」


「いえ、とても興味深いですよ。

あいにくと私はこの目で異界を見たことはありませんが、

あなたのお話を伺うと、どんな世界なのだろうかと想像を掻き立てられます。」


「・・・寂しいところですよ、とても。

深い森がどこまでも続いていて、人間は一人もいません。」

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