第28話 多様で広大な地平#3

ブルカニロの灰色の瞳で見つめられ、

アマリリスは最前までの心の声を全部聞かれてしまったような錯覚に陥り、目元を赤らめて視線を伏せた。

実際に声に出ていたとしても何ら変化はなかっただろう、と思える穏やかな声で、ブルカニロは尋ねた。


「クリプトメリア君から聞いてはいましたが、これほど美しい方だったとは。

ご出身はカラカシスの方でしたね?」


「ええ、ウィスタリアです。

ご存知とは思いますが、戦争で敵に国を占領されてしまって、ラフレシアに逃げてきて、、」


アマリリスは言い淀んだ。


「あの、、クリプトメリア博士からはどこまで?」


「あなたが弟さんと共にトワトワトに漂着され、彼の地での生活が始まったこと、

それ以上に具体的なことは聞いておりません。」


「あの時、父と一緒にアスティルベに行くところでした。

事故があって船が沈没して、それっきり父は行方不明です。

その前、兄と、叔父と従姉妹の一家が一緒に暮らしてたんですけど、みんなウィスタリアで亡くなりました。」


全く、自分で話していてもどんだけソーゼツな人生なんだか。

記憶そのものより、ドン引きだよねそりゃ、っていうイタい人になったようで辛い。


幸い、さすがは心療探査家、ブルカニロは微塵も動じる様子はなかった。


「すみません、何話してるんだろあたし。

アマロックの、魔族のことがお知りになりたいんでしたよね。」


「正確には、魔族とちかしく交流を持たれたという、あなたご自身について知ることができれば、と思っています。

ですのでくだんの話題に関わりがないと思えるエピソードでも、是非お聞かせ願えれば幸いですし、

もし話しにくいことがあれば、無理にお話にならなくて結構です。」


「大丈夫ですよ、何でも聞いてください。」


「ありがとう。

ではお話の続きから、漂着したトワトワトで、あなたはクリプトメリア一家に保護された。

あなたにとってトワトワトとはどんな場所でしたか?」


アマリリスは遠い目で、ファーベルに案内されて、初めてオシヨロフの高台に立った日の光景を見ていた。


「・・・”三面を海に洗われるこの土地”、、」


「え?」


「”ツンドラと樹木が寒さと貧しさと悩みの下でうめくところ、

この薄闇の荒野にも・・・”


父が教えてくれた、トワトワトの詩です。

まさにそんなトコロだな、って思いました。

こんな土地でも生活している人がいるとしたら、一生のうちで幸せを感じることなんてあるのかな、って。」


「なるほど、彼の地は”神に忘れられた土地”と呼ばれておりますしね。

あなたは、神をお信じになりますか?」


「いいえ。」


あっさり即答してから、アマリリスはもし相手が熱心な信仰家なら不謹慎な発言だったろうかと、言い直した。


「少なくともトワトワトにいる間は、神サマが居るって感じたことはないですね。」


「そうですか。

都会のように、神なしでは立ち行かない無神論者があふれている場所もある一方で、

神を必要としない土地での生活というのは、存外幸せなものなのかも知れませんね。」

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