第27話 多様で広大な地平#2
科学技術学校として発足し、現在でも理工学系の存在感の強いマグノリア大学にあって、
文科系の学部は、大規模な実験設備のようなものを必要としないこともあり、
施設が占める土地面積は、キャンパス全体の2割にも満たない。
正門から入って図書館の前を過ぎ、ロータリーのある四叉路を右に曲がったところから、
法学部、政治経済学部、そして、心理学教室を収める文学部の建物と続いている。
人間の精神を追求する学問が、文学の名を掲げる学部に収められているというのは少し不思議な気もした。
いわゆる心の病を治療するのは医学の役割だろうし、実際医学部にはそういう医科もある。
心理学教室の方では医療行為への貢献のみを目的とするのではなく、広く人間の心について研究と教育を行う。
国家の運営も経済活動も、科学技術の探究だって、ありとあらゆる営みには、その主体である人間の心が関わっているわけで、
多様で広大な地平というクリプトメリアの言葉もなるほどと頷ける。
法学じゃないし政治経済でもない、あえて入れるなら文学部だよね、という落とし所で決まったのかもしれないと思った。
よく言えば重厚、悪く言えば重苦しいレンガ造りの建物が多いマグノリア大学の中で、
文学部は瀟洒な木造の建物、白い下見板張の外壁に青緑の屋根、正面には玄関ポーチと小塔を備え、
さながら、タキシード姿のゴツい男共の間に現れた貴婦人のような優雅さがある。
長年の間に階段の踏み板は擦り減ってきているが、丁寧に手入れされてきたことが覗える建物の中を通って、
クリプトメリアに聞いた教授の名前を掲げたドアの前に立った。
ノックするが、応える声はなく、室内は静まり返っているようだ。
お留守だったかな?
もう一度ノックしようとした時、ドアは音もなくスッと開いた。
あとからこの時の出会いを思い返す時、相手と初対面な気がしなかったことを不思議に思った。
人の心、内面の世界の探求者は、他者にそんな印象を与えるものなのかも知れない。
「あぁ、あなたでしたか。
お待ちしていました、アマリリス・ウェルウィチアさん。」
何も言わないうちに、相手が自分を誰だか見抜いたのも不思議なことだった。
いつでも気が向いた時に、という招待をクリプトメリアもアマリリスも額面通りに受け取って、
事前のアポもなしに訪問したのだが。
部屋の中ほどのテーブルに通したアマリリスに、男は名乗った。
「はじめまして、心理学教室のブルカニロです。」
「アマリリスです。」
改めて名乗り、アマリリスはしげしげと、ブルカニロ博士を見つめた。
クリプトメリアと同年代、だとすると若く見える。
理系と文系の違いなのか、学者にも色々あるということなのか。
寝癖頭に無精髭、よれよれのジャケットは着ていても、よほど畏まった場でなければネクタイなんかしないクリプトメリアに対し、
ブルカニロは梳かしつけられた髪に、髭はなく、スリーピースのスーツ姿。
部屋の乱れは心の、ではないが、とにかく雑然としたクリプトメリアの研究室に対し、
膨大な書籍類という点では共通するものの、こちらではきちんと書棚に収められ、
デスクの上の資料も、然るべき位置と向きに配置されている。
全体的に、華美や几帳面さというよりも、一切があるべきようにあって、
几帳面だとか逆に雑だとかいった印象そのものを与えない人だと思った。
その中で目についたのは、大きな柱時計を筆頭に、部屋のあちこちに置かれた置き時計。
このひと部屋に少なくとも5つ、というのは必要性に対しては明らかに多い。
「時計がご趣味なんですか?」
「そうですね、機械としての時計よりも、興味の対象は時間そのものでしょうか。
空間は
この精巧だが単純な機械によって全体を観測されている。
尤も、マギステル楽派の高度な理論によれば、空間も時間も絶対に不変ではないということになりますが、
楽派の範疇を外れた所にある人間の魂の感じるところでは、やはり時間は単調に一様なものでしょう。」
同じことをクリプトメリアが言ったとしたら、またワケのわからんことを、と聞き流すところだが、
ブルカニロ博士の、セロの音のような穏やかで深みのある声で語られると、
難解な言葉もすんなりと胸に収まる気がして、聞き入ってしまう。
不思議な人。。。
なんだろう、気になる。
はっ!もしかしてコレが、恋のトキメキってやつ??
いやいや流石に年の差どんだけって話よ、見た目通りの年齢でもお父さんですかっていう、、
でもっ、
指輪は、、してない。よっしゃ。
でも結婚してても(指輪)してない人もいるし確証は持てないな。
奥様はいらっしゃいますか?なんていきなり聞いたらヘンだよね。。
ここ最近の素行のせいで、何かと
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