第24話 適当に見繕った男#1

結局、プリムローズを含め自分ごととしては男女交際の何たるかを知らない少女たちの、

恋愛小説ラブコメから受け売りの恋愛観が、氷の乙女を動かしたような格好にはなった。

同僚の崇拝者ファンの中から適当に見繕った相手と、デートしてみたのである。


女神のお眼鏡にかなったことに相手は鼻高々の有頂天、

週末に約束したデートまでの数日間、その男は恋敵ライバルたちからの羨望と怨嗟を集めて輝いているようで、

異性までもが彼を見る目が変わり、思わぬモテ期が到来するという紊乱をも職場にもたらした。


デート自体も確かに楽しかった。

綿密に計画されたものらしく、よく出来たデートコースで、

大学の正門で落ち合い、市電に乗って丘を下って、まずは下町の繁華街へ。


マグノリアの開基から続く古い寺院の門前町で、沿道いっぱいに並ぶ屋台を見て回り、

寺院に参拝しておみくじを引き、町の一角にある遊園地でコースターにメリーゴーラウンド。

その間もすれ違う人々の羨望やら嫉妬やら集める男は、我が世の春を謳歌するかの如くの大得意だった。


初々しいカップルでひしめき合うレストランで昼食を済ませたあと、市電に乗って鉄道の西側に戻ってくる。

アマリリスがマグノリアに出てきた日、大学まで行くのに通った公園にやってきて、

美術館が2つに博物館が2つ、、と色々あるけどどこイク?と選択肢を提示され、アマリリスは動物園を選んだ。


公園内の施設の中でもずば抜けて広い敷地を有する動物園では、

ゾウやライオンから、フラミンゴにペンギン、シロクマに極楽鳥と、

世界各地から集めた動物の檻を、ソフトクリームを片手に巡り、

サル山のサルのモノマネをする彼を見て笑いころげる。


途中の売店で、彼が何かプレゼントを買ってくれるという。

別にいらない。。。と思ったが、初デートでささやかなプレゼントをするというのは鉄則のマニュアルであり、男としては譲れないところだった。

それじゃあ、ということで選んだ子犬のぬいぐるみは、後日ファーベルにあげた。


広大な園内を巡るうちに日も傾き、入ったのとは別の門から動物園を後にする。

初デートでは相手の家までは送っていかない、というのもマニュアルのひとつなのだろう、

坂下の停留所まで送ってもらって、デートはお開きとなった。


「あっという間だったね。

あーー、すっごい楽しかったよ。」


「うん。

あたしも楽しかったぁ。」


「また行こうね、こんどはボゴクリュチとかイイんじゃないかな。」


「うん、またね。」


「じゃ、月曜日に図書館で!」


そう言って、市電の窓から手を振りながら去っていった。


「・・・」


どうやら、人間同士の交際では、出会いがしらにいきなりキスしたりはしないみたいだ。

そりゃそうか、そんな事したらヘンタイ、へたすりゃハンザイだ。


あれ?

じゃぁ、人間とお付き合いするとなったらどうやって恋に落ちればいいんだろう??

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