第5話 愛を刻む

「夏輝、また幸せだね……」


 いや幸せじゃないって、絡まれると怖いもん。いっそずっとあの場所にいてくれた方が良かったのに。


「なんで黙るの?そんなに私の声が聞きたくない?」


「い、いやそういうわけじゃ……」


 焦りながら言う。別に冷花の事が怖くて声がトラウマになったわけじゃない……。


「そう、声が嫌なら……形で愛を伝えなきゃね」


 形で!?と戸惑っていると、冷花がナイフを取り出してくる。


「ねえ夏輝、選択肢をあげるよ。ここで私が夏輝のことを刺すか、私がここで自分を刺すか……どっちがいいと思う?」


 痛いの嫌だから刺されたくないけど、だからと言って冷花が傷付くのも……


「どっちも嫌!」


 強く言うと、冷花は俯いて泣き出した。


「この優柔不断が……そんなんだから君は、私の前で姉とか他の人のこと考えるんだ……酷いよ、私は君の事しか考えられないのに」


 冷花がナイフを強く握りしめる。


「……もういい!愛を刻んでやる!」


 冷花が刃を自身の腕に突き立てる。そこに何かを書いている。


「見てよ……NATSUKIって書いちゃった!これでいつでも夏輝のことが見れるようになったよ」


 深く彫っていたのか、血が流れてる腕を見せてくる。


「さて次は、夏輝の番だよ!」


 冷花がナイフを持って近づいてくる。俺は首を横に振った。


「そう、自分でやりたくないんだ……じゃあ私がやってあげる」


 ナイフを握って、腕に突き立てようとしてくる。その冷花の腕を握り、振り払う。


「腕握ってくるなんて、急に積極的になったね。私の名前が刻まれるのがそんなに嫌?」


 だから痛いのが嫌なんだって。


「じゃあ……力ずくでやるね!大丈夫、痛くないから……」


 こんなに信用できない大丈夫が他にあるのだろうか。ナイフが腕に刺さり、刺激が来る。REIKAと腕に刻まれた。ヒリヒリとした痛みが残ってる。


「あれ?痛かったの?……私の優しさが痛いってことか。そう思ってるんだね」


 また冷花が間違った解釈をしている。


「そんな風に思うなんて悲しいよ。この悲しさも形にして教えてあげようかな……」


 冷花がナイフで自身を刺そうとしている。危ないのでナイフを奪い、素手で突き飛ばす。

 

「夏輝……私のこと、心配してくれて突き飛ばしてくれたんだね。そう思ってくれると信じてたよ。でも他にやり方があったんじゃない……突き飛ばすなんて酷いよ」


 冷花が言ってる通りだ。心配したから突き飛ばしたが、他にやり方があったのかもしれない。


「私も夏輝が心配だからなんかしてあげるよ」


 そう言って、冷花が抱きついてくる。冷花が時々見せる優しさが好きだ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クールな幼馴染を助けたらヤンデレ化したので逃げます 🪻夕凪百合🪻 @kuroyuri0519

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画