第13話 ロタ、草原にて魔物を狩る

《side:ロタ》


 俺は街の東門の衛兵に門の閉まる時間を聞き、市壁外に出た。


 俺はあの騎士を目の前に動けなかったことが悔しかった。

 だから、少しでも早く強くなろうと狩りに出た。


 すぐそこは見渡す限り草原。

 そこを見渡していると遠くの方に、浮かんでいる点がいくつか見えた。


「運が良いな」


 と俺は笑みを浮かべる。

 そして一直線に浮かぶ点目指して駆け出した。


 ここルーの街付近の草原は、敵対的な魔物があまり出ないことで有名だ。

「兄さんは馬鹿だから」と弟に馬鹿にされるほど頭の悪い俺でも、知っているほど有名なのだ。


 しかも敵対的な魔物が出たとしても、殆どが兎系の魔物。主にプレイリー・ラビットや、ホーン・ラビットしか出ない。

 中立的な魔物は主にスモールスライムや、プモ、モルしか出ない。


 今俺が見つけたのは中立的な魔物のプモ。F級の魔物だ。

 遠くから見たら白い綿がふわふわ浮いているようにしか見えないが、歴とした魔物だ。


 こいつは基本的には攻撃しなけりゃ中立的または友好的だけど、攻撃すれば酸性の弱い体液か風魔法を放ってくる。そして仲間意識が強い魔物でもあるから、仲間が攻撃されると加勢して攻撃してくる。


 だがプモはナイフでも刃が通るほど脆いので、はぐれたプモがいれば無傷で仕留めることが可能だ。


 それを踏まえてプモを見てみる。


 目の前にいるプモは六体。

 一太刀で二体倒せばいけそうなビジョンが見えた。


 リュックサックをその場に下し、肩を回す。


「よし、いけるな」


 俺は口角を上げ、魔剣を抜く。


 この魔剣は前使っていたロングソードより少し重いが使えないというほどでもない。

 ……爺さんへのせめての恩返しとして、この魔剣を大切に使いこなせるようにならなきゃな。


 俺はそう思いながら魔剣を構える。

 するとプモがこちらを注視している――プモに目は無いが――気配が伝わってきた。【気配感知】のおかげで良く分かるぜ。

 注視している証拠にプモ達の移動速度が一段と遅くなったのを感じた。


 今が好機。

 【剣術/Lv.3】で使えるようになった武技、【刀身延長】で刀身を伸ばし目の前のプモ二体に肉薄する。

 そして一太刀。


 一番距離の近かったプモは真っ二つに。少し距離があったプモにも致命傷を与えることができた。

 白い体毛が血濡れた致命傷のプモは、緩やかに地面に落下しそのまま息絶えた。


 それを眺めていると蟀谷の直ぐ横を何かが過ぎていくのを感じ、残りのプモに目を向ける。


 見ると残りのプモは揃いも揃って《風刃ウィンドカッター》を飛ばしてきている。


「おおっと! あぶねぇな!!」


 俺は飛んでくる風の刃を魔剣に魔力を込めた状態で斬りつつ、身を低くしてプモに接近する。

 そして一閃。残り三体。


 一閃した隙を狙われたのかはたまたまぐれなのか、俺の右腕に風魔法がかすった。

 血が少し腕を伝っていくのが分かる。後で布巻きしないとな。


 そんなことを思いながら次のプモに肉薄し、魔剣を突き刺す。

 そしてすぐに血だらけになったプモを払う。

 背後で「ドチャ」と気味の悪い音が聞こえたが、無視してその場から飛び退く。


 すると《ウィンドカッター》が二つ同時に地面に突き刺さった。


「危ねぇな! っと」


 最後の二匹が集まって魔法を詠唱していたので、一気に接近して薙ぐ。

 するとすぱっと二匹とも斬れた。


「討伐完了~! 後は血抜きか」


 俺は魔剣を鞘に納める。その瞬間にドッと魔力を吸われた感じがした。


「ステータス」


=====

個体名:ロタ 性別:男 年齢:21 種族:鬼熊人きゆうじん

称号:『魔剣の使い手』『野生児』『角剛の■■』

Lv.19

HP:682/740

MP:620/850

状態:出血


筋力:55

頑丈:52

敏捷:57

体力:74

魔力:85

精神力:28

器用:17

知力:26

運:35


SKILL 【剣術/Lv.4】【威圧/Lv.1】【気配感知/Lv.6】【魔力感知/Lv.2】【角突殺/Lv.1】

=====


「マジか……200も食われてる」


 魔剣がそれだけの働きをしたって事か。まぁいいだろう。


 この魔剣はその名の通り、使用後に使用者の魔力を食らう。

 始めてこの魔剣を使った時は、鞘に戻した瞬間魔力を食われて驚いたけど、分かっていればどうってこともない。


 ただ気を付けなければいけないのは、この魔剣を酷使しないことだ。

 何故なら酷使すればするほど、食われる魔力が多くなるかもしれないから。


 やっぱり使いこなせるようになる為には魔力量を上げる必要があるな。


 ま、今は取り敢えずプモの死体を拾い、冒険者ギルドに持ち込むことを考えないとか。鮮度重視だ。

 ギルドの受付の男、オクターも「肉になる魔物は鮮度重視だよ!」と言っていた。


 俺は細目で頑丈な縄を何本もリュックの端に結び付け、プモの死体の血をきるように拾い上げて縄の先に落ちないように括り付ける。

 それを繰り返した。




「よし! 少し不格好だが、問題ないだろう」


 俺のリュックからは計10個のプモの死体がぶら下がっていた。

 衛兵に止められないか心配だが、他の冒険者も死体を担いだり背負ったりして持って行っているので問題ないと思う。


「んじゃ、走って戻るか~!」


 俺はそう言って気合を入れ、走り出した。

 こうする事で血抜きにもなっていいと思う。


 


 夕時の冒険者ギルドは賑わっていた。

 丸テーブルに座り、酒や夕食を食べる者。依頼帰りの者に、俺のように魔物を狩って来てそれを換金する者もいるようだ。

 

 俺は一番空いている列に並ぶ。


 ただでさえ血生臭い匂いや、汗やむさ苦しい感じがするのに、ここで食べようと思うな。

 そんな事を考えながら順番を待つ。




「次も頑張ってくださいね!」

「ああ」


 やっと前の人の換金が終わった様だ。

 

 俺は何歩か前に進み、カウンターにリュックを置く。そして冒険者カードを渡した。


「こんにちは、解体ですか? 買取ですか?」

「買取で頼む」

「承りました。こちらのプモの買取でよろしいでしょうか?」

「ああ」


 俺が返事をすると、受付の男がリュックに括り付けてあった細縄を解き、プモの死体を次々重量計? に乗せていく。

 確か重量計って物の重さを測る魔道具だったっけ。爺さんに教えてもらった記憶がある。

 

 受付の男は全てのプモの死体を乗せ終わると、重量計の値を見て紙に何かを書き始める。

 それは俺からも見える位置にあったが、生憎俺は文字が真面に読めないので何を書いているか不明だ。だが、何か数字を書いているのは分かった。


 そして受付の男はモノクルをかけて、プモの死体を見つめる。

 見つめ終わると何か紙に文字を書いた。


 そして受付の男は「少しお待ちください」と奥に引っ込んでいった。


 待つこと約三分。

 受付の男が戻ってきた。


「はい、お待たせしました。今回の買取金額から手数料と会員料を引きまして……買取代金が、2883リペになります。こちらでよろしいでしょうか?」

「大丈夫だ」

「ありがとうございます。ではこちらを」


 そう言って受付の男は麻袋を渡してきた。

 前、ハウンドを換金してもらった時も麻袋だったが、ギルドにはどれだけ麻袋のストックがあるんだ?


 そんな事を考えながら麻袋を受け取り、俺は冒険者ギルドを後にしたのだった。

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