最強魔王で最凶ダンジョン造ったけど難攻不落すぎて誰も攻略出来ないので自ら攻略することにしました
めい茶
第1話 魔王は絶望していた
「本日の成果をお伝えします!」
ダンジョン最上階にある魔王城中央の間。
そこにある椅子に腰かけてあくびをしていると定時報告の部下が目の前に来る。
「ほ、本日は20階層に足を踏み入れた者がいましたが…落石の罠により負傷! 見事撤退させることに成功しました!」
「なんだと!?」
「ひっ! も、申し訳ございません!」
私が作った魔王ダンジョンは全100階層で、地下に伸びているダンジョンではなく塔のように空に向かって造られたダンジョン。
一度地下型のダンジョンも造ったのだが薄暗いわ空気がこもるわですぐに止めた。
ダンジョンは空に伸びているとはいっても高さはそこまであるわけではなく、一番高い山より少し高い程度。
遠くから見れば塔の一番上に魔王城が見えるという感じだ。
魔王城はダンジョンの最高到達階、つまり100階層となっているのだが、当然そこまで辿り着いた者はいない。
かれこれ造ってから百年以上経過しているが、先ほど報告のあった20階層が挑戦者の最高到達階層となっている。
「し、信じられん…」
私が呟くと周りにいる部下たちが絶望しているのが伝わってくる。
それはそうだ。
今この中央の間にいるのはほとんどが高階層を守護する者たち。
百年以上も経っているのに人間たちはようやく20階層に到達、しかしせっかく到達した者はあっけなく罠にかかり逃亡した。
今までも10階層のボスに手間取っている者たちを見て何度も絶望してきたが、今回のは罠でということもあり、その絶望度合いは想像に難くない。
これでは高層階に配置している守護者たちが活躍出来ないし強くなることも出来ない。
そもそも50階層まではある程度の力を持った者なら攻略できるようにしているのこのざまだ。
「た、たっ……」
報告に来た魔物が今にも倒れそうなほど汗をかいている。
たしかこいつは11階層から20階層までを守る副守護者、つまり責任者。
ようやく戦えると思った矢先にこのようなことになり私と同じく絶望しているのだろう。
このダンジョンは10階、20階という節目にボスを配置している。
ボスはその下の階のダンジョンを管理する役割があるのだが、挑戦者がダンジョン内にいる時は固定の階、つまり今回でいえば20階層から移動することが出来ない。
いま目の前にいるこいつは副守護者であるためいわば中ボス的な存在になるのだが、まだ倒されていないところを見るとボスと協力して戦うつもりだったのだろう。
ここで私はあることに気付く。
「罠、そこに配置した記憶がないな」
「かっ、か!?」
こいつ倒れそうだけど大丈夫か?
20階層はボスの変異ミノタウロスが守護している領域。
そんな重要な場所にこすい罠を仕掛けた記憶がない。
ボスの階層は挑戦者がボスに集中出来るようにするため罠は一切仕掛けないルールになっているのだ。
「罠を仕掛けたのは誰だ」
「わ、わたしくしでございます!」
「ばかやろう!!」
必死に報告をする副守護者に、私は絶望のオーラをのせて恫喝する。
弱い者なら即死級のスキルなのだがこいつはギリギリでそれを耐えている。
ここまでやる必要はなかったのだが周りにいる者たちに私は絶望しているということをアピールする必要はある。
「結果このざまか!? お前はなんていうことをしてくれたんだ……」
「も……」
副守護者はその場に倒れた。
まあ耐えた方だとは思う。
私はすぐに周りにいた者に治療するよう指示を出し、現状の把握に努める。
初の20階層まで到達した冒険者もしくは勇者候補だったかもしれない存在。
それを罠などで殺してしまわなかったのは不幸中の幸いだが、せめて階層ボスであるミノタウロスと対戦させるところまでは行かせたかった。
もし倒せたらダンジョンの攻略はまた一歩進んだことになり、ダメだったとしてもボスの情報を持ち帰ることが出来たはず。
挑戦者が殺されなかった前提の話で、どのみち牛歩ではあるが……
「魔王様、こいつは副守護者です。罠の配置変更を決定したのはあくまで階層守護者ミノタウロスです!」
隣にいたミネアが突然真横で叫ぶ。
魔王特別警護守護者ミネア、悪魔族サキュバスのこいつは常に私の横にいる。
容姿端麗、スタイル抜群、聡明で超レアスキル持ち。
特別強いというわけではないのだが、こいつの特殊スキルは未来視でなんとその効果は……
未来がボヤっと見える!!
最初はもの凄いスキルだなと感心したものだが、よく考えてみたらボヤっとしか見えないので……
一週間後冒険者が来ます とか
三日後冒険者が来ます とか
明日の天気は晴れ…だと思います とか
ほとんど役に立たないことがわかった。
天気にいたっては半分くらいしか当たらないし、しかもわりとどうでもいい。
このような人材で最初は面白いと思い横に置いたが、未来視が役に立たないとわかってからは普段のおしゃべり相手に成り下がった。
最近では話すこともなくなり、倦怠期の恋人、夫婦のような関係性になっており気まずい。
でも階層守護者あたりに移動させようとしたら、大泣きされて暴れてとんでもない事態になったのでもうこのままでいいと諦めた。
「魔王様! ミノタウロスに罰を!!」
ミネアが叫ぶと緊張した空気が中央の間に走る
過激派ミネアの発言、幹部守護者の中にはこれをよしと思っていない者も多いはず。
こいつの罰とは処刑しろという意味で、なんでせっかく配置したボスをわざわざ自分で手で処刑しなければいけないのか。
「キングスライムのように!!」
「いや! ちょっと待て!」
キングスライムは冒険者に討伐されただけで私が討伐したわけではないのだが!?
驚きの目でミネアを見ると笑顔がこちらに向けられた
なんだこいつ、絶望しすぎて頭がおかしくなったのか。
「いまだ魔王様はこの体たらくを許されてはいない!! お前たちはいったい何をやっている! 恥ずかしくないのか!」
そこからミネアの説教が始まった。
10階層ボスキングスライム。
こいつは数十年前に倒され、当然そこから人間たちは20階層を目指してのダンジョン攻略が始まった。
キングスライムなどは今ここにいる守護者たちとは違い比較的簡単に復活させることが出来るのだが、私はそれをやっていない。
というか復活させるつもりはない。
理由はもちろん、復活させればまた人間たちのダンジョン攻略が遠のくからだ。
しかしミネアはこれを私の罰と捉えた。
人間に滅ぼされるなど恥、だから私はキングスライムを復活させないのだと。
ものすごい勘違いをしている。
そして今回私が絶望しているのは、罠で挑戦者を殺せなかったことだと叫んでいる。
それは違うと今ここで訂正してやってもいいが、ミネアの性格を考えると、どう説明してもこの方向にもっていきそうな気がした。
大きな胸を揺らして力説していたミネアの説教が終わった。
言ってやりましたよと言わんばかりの笑顔をこちらに向けまた私の横に戻る。
静まり返る中央の間。
なんかもうどうでもよくなった私は椅子から立ち上がる。
「魔王様、どちらへ」
「ちょっとミノタウロスのところに行ってくる」
中央の間に走る緊張、全守護者の魔力が乱れているのがわかる。
ミネアが余計なことを言ったので「始末してくる」となっているのだろう。
「罰を与えるためではない。状況を確認しにいくだけだ」
「わかりました。それでは私も…」
「おまえは付いて来るな」
ミネアに言い放った直後、彼女は硬直した。
この状態を放置すると彼女は数秒後に大泣きし、周りにいる幹部たちが必死に慰めるというとんでもない事態になる。
「幹部たちと話し合え。それはお前にしか出来ないことだ」
ミネアの顔が明るくなったのを確認し私は中央の間を後にした。
最強魔王で最凶ダンジョン造ったけど難攻不落すぎて誰も攻略出来ないので自ら攻略することにしました めい茶 @mei-tea
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