第28話 暗い海の果て

「ああ、疲れた……まいったなあ……」

 薄暗い場所で武はそう呟いていた。

「毎夜、毎夜……。凄く嬉しいんだけどなー……。これ、どうしようか? ……麻生……」

 へとへとになった武の船室の布団には、毎夜寝続けていたためであろうが。鬼姫の枕が今日は素早く置いてあった。

(……)

 正に地姫の言う通りであった。



 一方、ここは鳳翼学園。


 恐らく、竜宮城の正確な位置を知っているのは宮本博士たちであろう。

 私には機械というものはよくわからないのだ。

 どうにも昔にはなかったものなので、致し方ない。


 2年D組の機械音と明滅を繰り返す機材に囲まれた一室に、宮本博士と一人の謎の巫女が話していた。

 その巫女は高取の母方の従姉妹だと言っている。

 武たちが無事なのを知らせ。

 麻生を大切にせよとも言い。

 幾つか話すと。

 踵を返し、帰って行った。


 世にも美しい巫女だった。

 なぜか私でも巫女の後を追えず。不思議と見ることもできない。

 誰なのだろう?


 研究員たちが皆呆けている。

 無理もない。

「竜宮城の位置!」

 宮本博士の一喝で、我に返った一人の研究員がディスプレイを見て言い放った。

「今は沖縄です!」

 宮本博士は、そのかなり細い研究員にもう一度言う。

「正確には?」

 かなり細い研究員は再びディスプレイに目を戻し、頭を回転させた。

「南緯66度33分へ向かうかと」

「南極点……南極か……」

 宮本博士は一人ごち、そのまま廊下へと歩いて行った。

 今は、満月が照っていた。

 人々が寝静まっていた夜だった。

 


 ここは食堂。

 朝の7時を回った頃である。

「1000歳の龍が近づいています!」

 一人の巫女が食堂への扉を勢いよく開け放った。

 皆、食事中だというのにすぐさま立ち上がった。

「数は!?」

 蓮姫が声を張り上げた。

「かなりの数です!」

 巫女が蓮姫に切迫した言葉で状況を詳しく説明していると、武は極度に緊張をしていた。

「……何としても生きて帰ってこないとな……」

(麻生……)

 武はそう呟くと、鬼姫の顔を見た。

 さっきまで武と寝ていた鬼姫は顔色一つ変えずに、夕餉をちょいちょいつまんでいる。

 

 武はホッとした。

(強い。いや、強すぎるか……鬼姫さんは……)

 席を立って船室に置いてある神鉄の刀を一人取りに行った。


 神鉄の刀を持って、甲板へと駆け付けた武の目の前には、もうすでに、鬼姫が数多の龍の前で仁王立ちしている。鬼姫は神鉄の刀身を居合い抜きし、逆袈裟斬りで海ごと真っ二つにした。

 海が二つに割れた。

 轟々と音のする二つに分かれた海の底では、怒り狂った龍がまるで蛇のように、すぐさまとぐろを巻き始めていた。

 牙を剥き。咆哮を発する龍にとっては、決して凄まじい牽制だけではなかったのだろう。一体の龍がいつの間にか真っ二つに裂けていたのだ。

 二つに割れた海で、蓮姫は海の傾斜を走り回り、水のなくなった大地で、とぐろを巻き損ねた無防備な龍の心臓を狙い。一際長い槍で一体また一体と貫いていた。


 武は、瞬く間に一つとなった海の上に着地した。

(うん!)

 もうすでに、武と高取は海上を歩けるようだ。

 今では海上を泳ぎはじめた巨大な龍が暴れ回っている。

 やはり、1000歳の龍は決して時を得ただけではないと、その威圧感だけで武は直ちにわかったのであろう。


(……)


 荒波の海の上で武は龍の隙を見出そうとしていた。

 隣から突然、湯築が駆けだし大きく飛翔した。そのまま飛び掛かり、龍の心臓を槍で抉った。龍の数はまだ81体もある。

 だが、その一体の龍の胸に槍が貫通することなく途中で止まってしまったのだ。


 力不足であったか。あるいは飛翔からでは力が半減するのだろうか。

 槍を必死に抜こうとしていた湯築に、もう一体の龍の大口が迫っていた。


(よし!)

 

 武は一旦。海面下へ頭から潜り、海中で一回転をすると、そのまま海面上へ浮上すると同時に、空を舞った。湯築に迫る龍に神鉄の刀を振るった。

 

 だが、本来。龍の鱗をも斬り裂くことのできる神鉄も、この時は切り込みが浅かったようだ。

(ぐわっ! 硬い!)

 

 恐らくは信じられないほど硬いのだろう。

「駄目だわ!」

 たまらず、湯築は槍を捨て、遥か下の海面へと落ちていった。

 武はその時、神鉄の刀で龍の胸の部分を刀の切っ先を真横にして全体重を乗せて貫き、そのまま力任せに横一文字に斬った。

 その方が龍の鱗や肉の抵抗を受けなくて済むようだ。

 1000歳の龍にはまったく歯が立たないかのようだったが。

 なんと、巨大な龍が息の根を止めていた。

(よし! これなら!)


 武は有効な戦法を探し当てたようだ。

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